お父様とお出かけします
お読みいただきありがとうございます!
「ふっふっふ」
「お嬢様……どうしたんですか、その笑い方。怪しいですよ」
「だって、バザーが上手くいったのよ? いいじゃない?」
「盛況でございましたね。似顔絵も人気が出ておりました」
「ええ。ジルには自信になったと思うわ。刺繍ハンカチも結構売れたし。これで孤児院の運営の足しになるわね」
バザーが思ったよりもうまくいきましてご機嫌です。ティアも似顔絵に興味を示していまして、温泉でも似顔絵をやろうかなと言っておりました。
「では、お嬢様。そろそろご支度を」
「え? このままじゃダメなの?」
「久しぶりの旦那様とのお出かけなのですから、お洒落をしましょう」
「えー。だって行くのはエイドリアンのお家よ?」
抗議しましたがエイミーには聞き入れて貰えませんでした。今日はこれからマラカイト侯爵家にお父様とお邪魔します。部屋にアベルが入ってきてまた今日の服装をどうするかで戦いが勃発しています。
「どうでもいいんだけど、木登りしたいから動きやすい恰好がいいわ」
マラカイト侯爵家には登りがいのある木がたくさんありますからね。
「はぁ……お嬢様はブレませんね……」
アベルは衣裳部屋に引っ込んでいたので反応は見れませんでしたが、エイミーには大きくため息をつかれました。
「もう少ししたらアルトリリーも学園に入学か……」
お父様は物憂げな様子で馬車から風景を見ています。いやぁ、確かに後妻におしかけたくなる人の気持ちがちょっとわかりますね。黒い髪に青い瞳。一児の父とは思えないくらい若く見えて、そして色気があります。父親ながら眼福です。
カスクート家当主ギデオン・カスクート。これがお父様のお名前です。
お父様は王宮で財務を管理するお仕事をされていて忙しく、晩餐以外でこうして向かい合ってゆっくりお話をする時間は貴重です。
「そうそう、レヴィアス公爵家のお嬢さんは最近どうだい?」
「最近は付きまとわれることはないですわ、お父様」
お茶会の招待をティアと共に欠席と返事しまくっていたら数回孤児院まで付いてこられたりしましたが今は大丈夫です。
ちゃんとお父様には報告しております。派閥争いに巻き込まれたら大変なので。
ただ、お父様は好きにしていいよとのことでした。
陛下の弱みは握ってるし、大事にはならないよ、あいつもさっさと後継者くらい決めたらいいのにって爽やかな笑みを浮かべておられましたが……いくらお父様が陛下と学園で親友だったといっても陛下はナニをしでかしたんでしょうか……。恐ろしい。
イザベラ様が王子と結婚したくないという話もお父様は陛下から聞いていたようです。ちなみに陛下はイザベラ様と王子をどうしても結婚させたいようです。いやぁ、それならもうイザベラ様諦めてくださいって感じです。そういえば第二王子の方の婚約者は決まったのでしょうか? 第二王子の名前、何だっけ?
「それなら良かった。1つ面白い話を聞いたよ。イザベラ嬢は護身術を習い始めたそうだね」
「そうなんですか?」
うーん、これはきっと私の発言が発端ですね……。
孤児院での様子をずっと覗いていらっしゃるので、バザーの準備で私は忙しいし、どうせなら小さい子供達と少し遊んでもらおうと思ってイザベラ様と申し訳なさ過ぎて意識を飛ばし気味のルチアさんに孤児院の中に入ってもらいました。
好奇心旺盛な子供達はザ・貴族のお嬢様という感じのイザベラ様に興味津々で、すぐに遊んで~と駆け寄っていました。
しかし、イザベラ様。頑張って遊んで下さったのはありがたいんですが、体力なさすぎませんか?
孤児院を半周走っただけで息も絶え絶えで座り込んじゃうのはちょっと……。子供達もびっくりしすぎて引いてます。イザベラ様はそんなに運動されないみたいですね。ハイヒールとドレスで姿勢よく立っとくのとはまた違いますもんね。そんなに体力なくては将来の王妃様として大変です。あ、そんなことを思っていたら怒られました。また口に出てたみたいです。
「運動がお嫌いでしたら護身術はいかがですか? 殿下とご結婚されても役に立ちますよ」
「だから結婚したくないって言ってるでしょ!」
そんなやり取りをしましたね……。あの時、イザベラ様は涙目で怒っていらっしゃいましたが、どういう風の吹き回しでしょうか。
「第一王子と第二王子の婚約者候補が数人ずつ集められて王宮で護身術を習っているそうだよ」
「まぁ……それは合同じゃないですよね?」
「お互い、日にちや時間はずらしてあるようだ。イザベラ嬢の発案らしい」
イザベラ様は一念発起したのでしょうか。
「エルネスト君は近衛騎士団にいるから、最近はご令嬢たちに護身術を教えるのに駆り出されているようだよ」
うわぁ、エルネスト様カワイソウ。おっと棒読みになってしまいました。
「今日は休みで屋敷にいるそうだけど」
居なきゃよかったのに。思っていても言いませんが。
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ノリだけの発進でしたが、さらに思いもよらぬ方向に行っております。