そんなことより木登りをしたらいかがでしょうか?
さて今日も今日とて孤児院に向かっております。もちろん徒歩で。アルトリリーです。
孤児院に併設している教会でのバザー開催日が近づいているので頑張らなければなりません。
ティアを見習って稼ぎましょう!
今日のお供もアベルです。以前はエイミーと一緒に孤児院へ通っていたのですが、変な人に絡まれてからアベルがお供になりました。アベルはうちに採用されてからオルティスとレオナルドにしごかれて中々の剣の腕前になったようです。最近ではエイミーも時間を見てはレオナルドに剣を習っているようです。エイミーは一体何を目指しているのでしょうか? アベルに負けたくないのでしょうか?
もちろんアベル以外にも私からは姿は見えませんが変装した護衛が数人付いてきております。
「あの……お嬢様、気づいていらっしゃいますか?」
アベルが後ろを少し気にする素振りを見せながらコソコソ聞いてきます。
「えぇ、屋敷を出て少ししてから尾けてきているわね」
なんでしょうかねー、尾行なんて。以前はお父様の再婚相手になりたい方が私を懐柔しようとして付きまとってきたこともありましたがその手の方でしょうか?
「では、お嬢様、あの角で撒きましょうか。殺意は無さそうですが、念のため」
「えぇ」
相手が素人だったせいもあり、今日は簡単に撒くことができました。
護衛からの報告を聞くと、女性だったそうです。
「このタイミングだと……いや、もしかしたらお嬢様に婚約申込がきていたあの家からか……」
「最近では旦那様が読まずに破り捨てていたものですよね……あの家もしつこいですね……」
「お嬢様に相手にされていないくせに……あの家に関しては調べさせましょう」
アベルとエイミーがブツブツ相談しています。
私としては尾行がいたせいで、アベルが心配して帰りに本屋に寄らせてもらえなかったことが大問題です。
「ねぇねぇ、だれかいるよ?」
「しー。あれは不審者です。目があったら大変ですよ。さぁさぁローゼ、刺繍の手がとまっていますよ」
「はぁい」
また後日、孤児院に来ています。
今日は尾行がいないわ、ラッキーっと思ったら、孤児院の生垣からなにやら怪しい人影が見えます。
子供達も気づくほどの素人っぷりですわ。ああいうのは無視です、無視。
「お嬢様、駆除しますか?」
「放っておけばいいんじゃない?」
あの金髪ドリルは見間違えようがないですね……。一体何をやっているんでしょう、イザベラ様。よっぽど暇なんでしょうか。もう一人はルチアさんかシシィさんあたりでしょうかね。おそらく昨日の尾行もルチアさんあたりではないでしょうか。
どうせ来るならバザーの日に来ていただきたいものですわ。
「ジルに似顔絵を描かせてみたらいいかも。いつも会っている人達よりも初対面の方を描く練習をしておかないとね」
「それもそうですね。描かせた似顔絵は不審者としてご近所に配りましょう」
「出来たらとりあえず見せてね」
アベルは喜々としてジルのところへ行ってしまいました。
一応相手は公爵令嬢ですからさすがに近所に配るのはやめましょう。
「ローゼ、あと1枚、刺繍を終えたら遊びましょうね」
「うん!がんばる」
ローゼ、可愛いわぁ。私もこんな妹が欲しい。
あら、ジルがなにやら描き始めたようですね、よしよし。じゃあ恒例の遊び(筋トレ)のために皆を呼び集めておきますか。
「アルトリリー様。…………あなたは一体何をやっていらっしゃるの?」
「あら、イザベラ様。ごきげんよう。偶然ですわね」
「ごきげんよう……ってあなた、ずっと気付いていたじゃない!いまさら白々しいわ!」
「あら、忍んでいらっしゃるようだったので知らないふりをするのが筋かと……」
子供達と木登り・鬼ごっこをしたので、汚れた服を孤児院の入口で叩いているところでイザベラ様と、申し訳なさそうな顔のルチアさんが出てきました。
「公爵令嬢が木登りなんて……」
「まぁ、イザベラ様は木に登りませんの?」
「登ったことはないわ!普通!」
「まぁ。そうですの。それでは大きな犬や熊に遭遇したときにどうされますの?」
「い、犬や熊になんてどうして遭遇するのよ!?」
「例えですわ。賊や襲撃者から隠れるためでも構いませんし」
イザベラ様、なんだかいつもとキャラが違いますね。やっぱり、殿下の婚約者ともなると貴族としての心構えが違うのでしょうか? 木登りする令嬢なんて許せないのかもしれません。
「そうそう、先日、うちの庭に大きな鼠が入り込みまして。イザベラ様のところは大丈夫ですか?」
「あら鼠? お宅のお庭は管理が行き届いていないのね」
ふーむ、このあたりはさすがですね。もちろん、本当はあの鼠は庭まで入り込んでいないのですが。うちの優秀な庭師が屋敷に入る前に気絶させました。え?もちろん、鼠の話です。えぇ。
さっきまで木登りに怒っていたのに、今ではイザベラ様、冷静に笑みを浮かべておられます。ほんのすこ~し笑みがぎこちないですが、さすが!
縛ってイザベラ様の部屋から見える庭に転がしておいたのに、その余裕の表情。ちなみに見張っていたうちの庭師からは悲鳴が上がったと報告が来ておりますのに。
いやぁ、鉄仮面王子とお似合いじゃないですか。未来の王妃?様?
「誰がお似合いよ!」
あ、また独り言が口から出ていました。
「エイドリアンも木登りはよくしていますよ」
今日こそは本屋に寄って帰りたい。ぶっちゃけイザベラ様の相手をするのが面倒なのでエイドリアン情報を流してみると、イザベラ様の顔がさっと赤くなります。そこはさっきのように冷静に笑みを浮かべておかないと、殿下が泣きますよ。あ、鉄仮面王子なら泣かないか。
「ではごきげんよう。アベル、行きましょう」
「はい、お嬢様」
アベルは明らかに、わざと、ジルの描いた似顔絵の紙をイザベラ様に見える様にしています。不審者と大きく書いてありますね。ジル、よく描けていますよ。金髪ドリルのところが特に。
「あなた、見た目と性格が違いすぎるわ……」
イザベラ様が後ろで呟いていますが、無視します。
そういうことはよくアベルとエイミーに言われるので。
その次の日以降、イザベラ様からお茶会の招待状が頻繁に届くのですが、全て欠席のお返事をしています。お茶会より木登りの練習をしておいてくださいませ。
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