あら?なぜ巻き込まれそうになっているのかしら?
「昨日はびっくりしたわね!」
今日はティアが我が家の庭に来てお茶会です。ティアの家では小さい弟がいるので内緒話は難しいのです。
ティアは腰を下ろすと速攻、足を隣のイスに投げ出しています。1回ティアの真似をしてやってみたら足がとっても楽でした。マナーとしては完全にアウトなので、ティアの前でだけ私もやっています。
「で、どうする? お手伝いする?」
「ティアはまさか乗り気なの?」
「だって面白そうじゃない! でもイザベラ様が王妃になってくれた方が温泉の王族お墨付きが明確になって領地運営的には良いのよね……悩ましいわ!」
「もしも協力してるのがバレたらどうするのよ」
「ちょっとアドバイスするくらいなら大丈夫なんじゃない? 手紙とか証拠を残さなきゃいいんだし。それに努力してるのに政略結婚の相手がちゃんと自分のことを見てくれないなんて嫌じゃない。それなら王族だろうとなんだろうと婚約破棄して駆け落ちよ!」
ティアなら駆け落ちしても普通にやって行けそうですね。
「でもエイドリアンと相思相愛の仲でもないのに。マラカイト侯爵家の方々に迷惑がかかるわ」
「そういえばマラカイト侯爵家ってどんなとこだっけ? 第2王子派っていうことは知ってるんだけど。あとエイドリアン様だっけ? どんな人?」
ティアの頭の中は自分のところの顧客か顧客でないかに分類されています。マラカイト侯爵家は顧客ではないので、全く覚えていないんです。たとえその一族が揃って目立つ赤髪であっても。
アベルにちらりと目配せするとどこからかガラガラと黒板を引っ張ってきました。そしてアベルはすごい勢いで名前と似顔絵を書いていきます。
「ティターニア様、ご説明させていただきます。こちらがマラカイト侯爵家の家族構成です。あの家は第2王子派というより伝統順守派でございます。だから王妃様のお子様である第2王子を後継者にすべきだという考えです。代々騎士を多く輩出する家系なので伝統には厳しいのです。そして男女問わず一家そろって武に秀でていることで有名です。見た目で言えば侯爵夫人以外は全員赤髪です。マラカイト侯爵と夫人の間には4人のお子様がいらっしゃいます。
長男アーネスト 家を継ぐために勉強中
次男エルネスト 騎士
三男エイドリアン お嬢様曰く堅物
長女アリアーデ お嬢様曰く超かわいい5歳
です。2名ほどお嬢様の主観が入っております。ちなみにお嬢様は最初にマラカイト侯爵一家に会われた時は、~ネストで統一すればよかったのにとブツブツおっしゃっておられました」
アベルは突っ込みどころが点在する紹介を終える。
「そのアーネスト様とエルネスト様の上に要注意!って書いてあるのはどうして?」
「さすがティターニア様でございます。このボンボン2名はアルトリリーお嬢様に会うたびに歯の浮くようなセリフと共にプロポーズまがいのことをするので注意が必要です。その点、エイドリアン様は堅物で色恋沙汰に疎く、女性関係の噂も全くない好青年でございます。騎士を志望していらっしゃり、お嬢様方より1つ年上です。エイドリアン様が王宮に勤めるエルネスト様に会いに行かれた際にイザベラ様と面識を持ったようですね。推測ではイザベラ様の一目ぼれではないかと思われます」
アーネスト様とエルネスト様はお世辞がうまいのです。というかアベル、若干失礼なことをしれっと言ってますね。
「ふーん。イザベラ様は男を見る目はあるみたいね。もうさ、頑張ってアプローチして駆け落ちしちゃいなよって感じね」
ティア、駆け落ちから離れてください。駆け落ちは最後の手段に取っておきましょう。
「アベルさん。お嬢様、失礼いたします」
「なんでしょうか、ハンスさん」
庭師のハンスがそっと現れます。相変わらず歩いても足音がしません。特殊な靴でも履いてるんでしょうか?
「鼠が一匹、屋敷のまわりをうろついておりやした」
「駆除してください」
「おそらくレヴィアス公爵家が飼っている鼠ですが、当主の鼠ほど優秀ではないようでやんす」
「ではご令嬢の鼠でしょう。こちらの様子を探りに来たのでしょうが……。両手両足を縛って猿轡を噛ませて、ご令嬢の部屋から見える庭にでもお返ししましょう。よろしくお願いします」
「承知しやした」
ハンスは髪の毛に白いものが混じり始めていますが、年齢を感じさせないキビキビした動きで去っていきます。
「お嬢様、紅茶をもう一杯いかがですか? 昨日のレヴィアス公爵家のものに品質は負けてはいませんよ」
アベルはハンスに指示を出すと、ことさらにっこり笑って紅茶を勧めてきます。
「イザベラ様って本当に婚約破棄したいのね。昨日帰って調べたら色んなタイプの女性を王子の所に定期的に送り込んだりしているみたいよ。失敗してるけど」
ティアも気になって調べたようです。私ももちろんアベルに調べてもらいました。どうやらイザベラ様は我儘お嬢様ではないようです。ただ、我が家の庭師と執事の優秀さを舐めてもらっては困ります。詰めが甘いですね。
「アベル、紅茶のおかわりを頂くわ」
さてさて、なんだか面倒なことになりそうですね。
あら? 私は婚約破棄の現場を見たいだけなのになぜ巻き込まれそうになっているのかしら?
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