迫る時間
黒く、紫がかった空の色ーーーーー
それに応じて地面も黒く、ただひたすらに続いていた
その中心にそびえ立つは城、城下町
城の中に存在する一室からそれらの光景は見渡されていた
その部屋の中には少女、、、銀の髪が背中の中央まで伸び、青と赤の瞳が一心不乱に窓の外に向けられている
少し幼い顔つきには、人生を達観する風貌が備わりーーー
しかし、何かの拍子で崩れてしまいそうな身体
何も思っていないのか、奇妙なくらいに無表情
それと同期しているのか、彼女の目線の下にある街も静まり返っていた
部屋の時計は昼1時を指しーーーー
コンーーコンーーーーー
ドアをノックする、湿った音が響いた
「ーーはい」
少女はただ反射で応えたかのような、抑揚のない声を発する
「失礼します」
ドアが開くと、黒髪の女性が姿を見せた
「どうしたんですか、、?」
「いえ……姫、、、あと6時間でございます」
「あぁ、、もうそんな時間ですか」
少女は生気のない声を返事として出していた
「……姫、私はーーーーー」
「…申し訳、、、ありません、、」
黒髪の女性は、何かを呪うが如く、沈んだ声でそう言った
「何も背負うことはありません、、いつものあなたでいてください」
黒髪の女性を元気付けるために、姫と呼ばれる少女は、笑顔で、抑揚をつけて返した
が、無理をしてそう言ったのだと黒髪の女性は感じ取った
そうやって簡単に見破られてしまうほど追い詰められ、拙いごまかししかできなくなっているのだ
「姫……ただ、、私は…」
「もうよいのです……貴方達が救われるのであれば」
それでいいーーーそれが聞くのが嫌で
「ですが!あいつがそのような約束!守るとは思えません!」
そう言うのが、せめてものあがきだった
「…………」
姫は10秒程度無表情を続けた後、少し柔らかい笑みを浮かべ
「信じるしかありません」
「ーー!……」
何も反論できなかった
悔しいーーーーこの国を、皆を、姫を守るために力をつけ、騎士となったのに
何もできない、、、時間とともに足を運ぶことしか、何も抵抗できない
「…これで、、たった一人が、たった一つを成し得ることで、誰も血を流さず、、苦しまなくて済むことが」
「私には嬉しいのです」
黒髪の女性は、騎士は、、自分の身体の重さがなくなったかのような感覚に襲われた
守護の対象から、そのようなことを言われてしまった
不甲斐なかった
涙も出なかった
ただただ自分を恨んだ
もう、この部屋にはいられないーーー
そう思い
「失礼、、、しました、、」
ギィィィーーーバタンーーー
「……ありがとう」
「まだ私を、、姫と言ってくれて」
「ありがとう、アイナ」
そう言いたかった
部屋から出て行く前に、彼女にそう言いたかった
でも、この言葉を聞いてしまうと、アイナは壊れてしまうだろう
わかっていた
わかっていたのだ
この国を見ることができるのはあと6時間ーーーー
だから、せめて、この国をこの目に焼き付けておこう
そう思い、少女は、窓の外に目を向ける
運命の分岐までーーあと6時間ーー