96話 女の子にニヤニヤするもんじゃありません
不敵な笑みを浮かべながら、ルイスはさらに続けた。
「ノア兄様は上手くやってくれたようだな!こうして、ここまでお前達を連れてきてくれるとは!」
まさか……ノアは最初から、ルイスと組んでいた?
私の脳裏に一つの仮説が出来上がった。私の脳内はすっかりその言葉に支配されていた。
「違う!それはルイスの罠だ!だまされるなイーナ殿!」
ルイスの罠?それともノアが私をだましていた?もはや私には何が真実で、何が嘘なのかわからなかった。さらに、私の迷いに拍車をかけるように、ルイスは大声で叫んだ。
「そうだ、ノア兄様と私は最初から組んでいて、お前達を罠にはめたのだ!」
「違う!ルイスのでたらめだ!」
ノアが必死の形相で叫ぶ。そのやりとりに、すっかり動揺した私を見て、ルイスは再び、銃撃の号令をかけた。だが、ルイスが狙ったのは、私ではなかった。冷静を失ったノアの方に、兵士達の銃口は向いていたのだ。
――まず……
銃声が鳴り響く中、私はノアと共に、地面に倒れ込んだ。銃弾の直撃こそは免れたものの、銃弾が数発、身体をかすめていった。頬では冷たい血が滴っていた。そして、少し後になってから鋭い痛みが身体に走った。
ノアも致命傷こそ避けたものの、数発の銃弾がその身体を貫いたようで、鈍いうめき声を上げて倒れ込んでいた。
「アマツ、ノアさんの事頼んだ。私は決着をつけてくる」
倒れ込んだノアをアマツに任せて、私は頬を拭いながら立ち上がった。そして、私も、兵士達の心をなんとか揺さぶろうと、大勢の兵士達の方に向けて言葉を発した。
「お前達、誰に銃口を向けたのか、わかっているのか?」
だが、私の言葉にも、兵士達は怖じ気づく様子は全くなく、冷静にこちらの方に標準を合わせたまま、ルイスの指示を待っていた。おそらく、皆ルイスに人並みならぬ忠誠を掲げているのだろう。何を言っても無駄である事はわかった。
こうなれば、仕方無い。心苦しいが、説得が出来ないのであれば、力でねじ伏せるほかはない。
「出来るだけ苦しまないように、一瞬で終わらせるよ」
その言葉に、ルイスが高らかに笑った。続けて、兵士達もニヤニヤと笑みを浮かべる。
「どうやって一瞬で終わらせる気だ。この銃撃では近づくこともままなるまい。知っているぞ、九尾よ。お前は遠距離攻撃には弱いと言うことはな!」
そして、ルイスの号令で再び激しい銃撃が始まった。リロードの隙を埋めるかのように、兵士達が入れ替わり、激しい銃撃は止むことは無かった。氷によって防ぐものの、進むことは出来ない状況であった。
その光景を、ノアのすぐそばでアマツは笑みを浮かべ眺めていた。そしてノアは痛みをこらえながら、心配そうな様子でアマツに問いかけたのだ。
「大丈夫なんでしょうか?イーナ殿は……」
アマツは心配など全くしていないかのように、飄々とした様子でノアに言葉を返した。
「大丈夫だよ~~イーナは私達の代表だからね~~」
以前の私なら確かに対処は困難であっただろう。だが、戦いを経て、私自身も成長はしてきた。今なら多少距離があろうと問題は無い。
「ぎゃあああああああ」
突然に兵士達から断末魔のような悲鳴が巻き起こった。その声に、他の兵士達にも動揺が広まった。一瞬のうちに、1人、また1人と、炎に包まれていく。
「な、なんだ……何が起こっている?」
目線が合ったら最後、次の瞬間には炎の中で、悲鳴だけがこだまする。まさに悪夢のような現実が、兵士達を襲っていた。
私は、目から冷たいものが流れているのを感じていた。拭った袖が赤く染まっているのがわかった。力の使いすぎによる負担であるのか、はたまた兵士達に対する哀れみであるのか、私にはわからなかったが、その滴は決して止まることはなかった。そして、一気に激しい頭痛が襲ってきた。
――おい、イーナ。流石に力を使いすぎじゃ。そんなに使ってはいくら九尾の神通力であろうと負担が大きすぎるぞ!
――大丈夫、集中してるから黙ってて
目から血を流しながら、次々と兵士達を炎に包んでいく少女。その光景を目の当たりにした大臣は、目の前で繰り広げられる惨状に、すっかり腰を抜かしてしまっていた。
「ひぃ!命だけはお助けを!」
大臣はなんとか立ち上がり、ふらふらの足でこの場を立ち去ろうとしていた。
――逃げるな、大臣でしょ?
仮にも、トップにいるような人間が、部下を見捨てて逃げるような真似、私は許せなかった。そして、背中を向けて逃げようとする大臣の方へ目線を合わせようとした瞬間、大臣は鮮血に染まり、地面へと崩れ落ちた。ルイスの剣が大臣の身体を貫き、鮮血に染まっていたのだ。
「敵に背を向けて逃げる大臣がいるか?役立たずめ」
「意見が合うなんて、珍しいこともあるもんだね」
私は、ルイスに言葉を返した。ルイスは不敵な笑みを浮かべながら、再びこちらに向けて口を開いた。
「面白いぞ、九尾よ。ここまでやるとはな」




