94話 敵はフリスディカにあり
レェーヴ原野での戦いの結果は、すぐにシャウン王国全土へと広がった。良い知らせと捉えるもの、悪い知らせと捉えるもの、シャウン国内は大きく二つに割れていたのだ。あるものは、レェーヴ連合を魔王の国として恐れ、あるものは王子が生きていた事に歓喜した。
「やはり、モンスターは所詮モンスターだったんだ!軍隊が全滅するなど、どうやって奴らを制すれば良いのだ!」
「でも、先代の王や、ノア様は彼らと友好的な関係を築くと言っていただろう。それに、俺にはどうしてもイーナさん達が悪いモンスター達には思えん」
「それが奴らの手口だと、今の王が言っていただろ!」
「だけど、今の王が嘘をついていると言う可能性はないか?」
「馬鹿な!冗談でも言って良いことと悪いことがあるぞ!それに見回りの兵士達に聞かれたら……」
シャウンの人々は一体誰を信じて良いのか、すっかり疑心暗鬼に陥っていたのだ。中にはパニックを起こし、荒れるものもいた。すっかり平和だったシャウンの治安は乱れてしまっていたのである。
そして、シャウン王国が連合を離脱したことで、次々と、周辺諸国の中でも連合を離脱するものが現れた。元々、シャウンやタルキスと言った大国が中心になっていた連合では、小さな国々は少なからず不満を抱いていた。シャウン王国が、新しく出来たレェーヴ連合に敵意を向けている今、自分たちに危害を加えるような存在となり得る国はなかった。もとより、連合はすでにほとんど機能を失っていたのだ。
今まさに、連合を脱退した小国同士による争いが巻き起ころうとしていた。平和だった世界は戦乱の渦に包まれようとしていたのである。
頭を抱えていたのは、タルキスの王リチャードである。タルキスも先の帝国による侵攻で大きな被害を受けていた。今や国力も落ちていたと言っても過言ではない。
まだ国内の状況もままならないのに、連合が解体となっては、彼自身動こうにも動けなかったのである。だからこそ、彼は信じるしかなかった。レェーヴ連合が、平和をもたらしてくれることを。
そして、同じく頭を抱えていたのは、シャウン王国の現王であるルイスや大臣である。シャウン王国の主力を侵攻に用いたのにもかかわらず、結果は大惨敗。
「レインの奴……しくじりやがって、決して許さんぞ」
ルイスは唇をかみしめ言い放つと、さらに、大臣に向けて怒りをぶつけた。
「奴らだけは絶対に血祭りに上げてやる!」
時を同じくして、レェーヴ原野での戦いで勝利を収めた私達は少数でフリスディカの街へと訪れていた。
「なんだか、懐かしい気分になるね」
フリスディカから離れてそんなに時間が経っていたわけではなかったが、すっかり街も変わってしまったように感じていた。
「久しぶりにフリスディカに来たね!イーナ様!」
今回はルカも同席している。しばらくお留守番だったので、一緒に行動できると言うことで、ルカもご機嫌である。
「すっかり、フリスディカの雰囲気も変わってしまいましたね。違う国に来たようです」
ナーシェが私に向けて言葉を発した。ナーシェも私と同じように考えていたようである。
懐かしさを満喫したいところではあったが、今はそれどころでは無い。迅速に王宮を制すること、それが今やるべき事であった。
「さて、ルイスは王宮にいるだろうけど、厳重な警備もある。隠し通路から入るのが良いとは思うけど」
私の言葉に、ノアが意見を述べる。
「いえ、正面から行きましょう。ルイスの事です。必ずや他の入り口には罠を仕掛けているでしょう。それに正面の警備も思っていたより少ない。おそらく正面が一番安全なはずです」
「なるほどな、思っていたよりも、奴らも窮地に立たされているのかもな」
ノアの意見にミズチが納得した様子で静かに言葉を発した。
「作戦は今夜。一気に決める。頼んだよみんな」
今回は、カムイの街の時のような失敗は許されない。脱出用の飛空船はテオとルカ、ナーシェとルートに準備してもらう。それに、今回はリンドヴルムとシータにも一緒に来てもらった。いざとなれば、彼らに乗って脱出も出来る。そして私とノアと共に王宮へと突入するのは、アマツ、ミズチ、シナツ、そしてリンドヴルムとシータ。このメンバーなら誰が相手だろうと負ける気はしなかった。
「ノアさん、大丈夫?実の弟と決着をつけることになるけど」
私はノアに改めて言葉を投げかけた。もう答えは分かりきっていた質問ではあったが、やはり実の家族同士争うことになる以上、やはり確認しておかなければならないことだと思ったのだ。
「もちろんです。ルイスは間違った道を進み、父や兄を手にかけました。弟が道を踏み外そうとしている今、それを止めるのも残された家族である私の役目だと思っています」
ノアは力強く答えた。そして、短い沈黙の後に、さらにノアは言葉を続けた。
「ルイスと大臣は、絶対に逃がさない。ここで決着をつけます。でなければ、散っていった者達に顔向けが出来ません」
その言葉に私も首を縦に振った。ここで、逃げられるようなことがあれば、再び同じことの繰り返しとなるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。
そして、あっという間に時は経ち、日も沈んだ頃、私達は準備を終え、王宮のそばまで来たのだ。いよいよだ。
「さあ、行くよ!決着をつけに!」




