92話 火焔を映す瞳
「うわあああああ!!」
得たいのしれないモノによって引き起こされた突然の惨状に、兵士はすっかりパニックに陥っていた。
「撃つな!こっちは味……!ぎゃああああ」
「勝手に自滅してるようじゃ、まだまだだね……」
部隊長の1人が、パニックになった兵士達に向けて声を上げた。
「銃は使うな!敵の思うつぼっ……だ……」
言葉を言い終わる前に、部隊長は血しぶきを上げながら、地面へと倒れ込んでいった。
「もう終わり……?つまらないの」
そして、パニックを起こした王国軍の元へ、一気にレェーヴ連合軍の本隊が襲いかかったのだ。完全に陣形を崩された王国軍は、もはやモンスター達の進軍を食い止める事は出来なかった。
一気に戦況が動く。私はその様子を眺めていた。だが、いつまでも、ここでじっとしているわけにはいかない。今回の戦い、鬼になると決めたのはアマツだけではない。私も同じである。
レェーヴ連合を無駄な争いから守る為に、より力を見せつけるために、この戦いは完膚なきまでに敵を叩く。私はそう決めていたのだ。
そう、ミドウを失ったのも、それに今までの後悔も、全て私の甘さが原因である。首長である私が不甲斐ないままでいるわけにはいかない。
敵の混乱で生まれたスキを逃してはいけない。今こそ、一気に叩くときである。中央で待機させていた本隊が一気に敵軍へとなだれ込んだ。統率を失った軍隊はもろくも一気に崩れていった。
「さて、行こうか」
私は深く息を吸い込んだのち、一歩、また一歩と戦場に向けて足を進めた。兵士達の阿鼻叫喚がこだまする戦場を、私はただひたすらに前進していった。
「かくごぉ!」
こちらに斬りかかってくる兵士は数知れなかった。そのたびに、悲鳴を上げながら一つ、また一つと命がこぼれ落ちていく。少し前までの私なら罪悪感に苛まれていただろう。だが、今の私には、痛みはあまり感じなかった。
帝国による戦争、アレナ聖教国での戦い、この世界では、次から次へと戦いが巻き起こっては、命がこぼれ落ちていく。平和になったかと思えば、また再び戦火の火種が巻き起こる。そんな負のループはもう終わりにしなければならない。
ミドウも、王も、それにリラだって、みんな私に夢を託して去って行った。残された私達が、やらなければいけないことは……
「イーナ……?」
戦場で勇敢にも鎌を振るっていたルートが、私を見つけ、こちらへと駆けてきた。
「ああ、ルート。手伝ってくれない?」
その言葉、そして表情、何よりいつもとは異なる怪しい輝きをした目に、ルートは気圧されていた。目の前にいるのは確かに、彼がよく知る九尾であった。だが、確かにいつもとは異なる雰囲気を醸し出していた。
ルートはこの感覚に既視感を感じていた。そう、聖都シュルプにて、はじめて九尾に対して、畏怖を覚えたあのときの感覚と同じである。怪しく光る朱い瞳を見ていると、吸血鬼であるルートでさえ、今にも吸い込まれそうであった。
思わずルートは言葉を返すことが出来ずに、ただ黙って彼女の後ろをついていったのだ。
「おい、お前ら!どこへ行く!逃げるなぞ恥もいい所だ!」
次第に兵士の中では、逃げだそうとし始める者も出始めた。だが、背を向けて逃げようとする兵士達に、レインは銃口を向けた。
「敵前逃亡など、兵士の恥、お前らそれでもシャウンの軍人か」
次々と、レインは逃げ惑う味方を撃っていった。もはや、兵士達に逃げ場はなかった。
「可哀想だね、同情するよ。兵士達には」
その光景を見ていた私はレインに向けて冷たく言葉を放った。
「遂に魔王のお出ましか。のこのこと私の目の前に来るとは馬鹿な奴め」
レインは私を挑発仕返すかのように、あざ笑った。
「あなたも可哀想だよね。上官に逆らえないのだから」
「誰が可哀想だって……?」
「所詮、あなたたちは皆、王の使い捨ての齣だって事だよ」
「私だけでなく、王まで侮辱するか!」
遂に堪忍袋の緒が切れたレインは、私へと銃口を向けた。レインが発射した銃弾は私の顔の横をかすめていった。
「次は当てる。最期に言い残すことはないか」
銃口をこちらに向けたまま、レインは冷徹に言い放った。
「そんなもので私を殺せると思っているの?」
私の言葉と同時に、周囲が炎に包まれた。私と、レイン、2人は炎の中で相対していた。私は静かに、龍神の剣をレインに向けた。
決着の時は刻一刻と近づいていた。




