91話 ダンスインザダーク
「敵襲だ!!」
まだ周囲が闇に包まれた中、開戦の時は訪れた。先に動いたのはレェーヴ連合の方であった。大きな声を上げながら、モンスター達は原野の中央を突き進んでいった。
「おい、早く布陣を組め!銃を撃て!奴らを近づけさせるな!」
王国軍の指揮を行っていた大臣のレインはすぐに自軍に対し指示を出した。銃を持った兵士達が一気に前線へと繰り出す。
そして、闇の中に銃声がこだました。そのあまりに激しい銃声に、レェーヴ連合は思わず足を止める。その様子を見たレインは高らかに笑った。
「ふはは、いかに強力なモンスターといえど、我らの兵器の前では敵ではない!」
さらに銃撃は勢いを増した。不意打ちにより、最初こそ王国軍は混乱していたものの、モンスター達の進軍が止まった状況を見て王国軍の兵士達は次第にまとまりを見せていった。
「おい、このまま行けば俺達勝てるんじゃないか?」
「これなら奴らといえども敵ではない!」
明らかに攻めあぐねているレェーヴ連合の様子を見た、兵士達は確信を持ったのである。兵器を使えば負けることは決して無いと。
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「おい、イーナよ。敵もなかなか早く立て直してきたようだな」
私と共に、本陣から戦況を見つめていたミズチは冷静に言葉を発した。すると、私達の元に、慌てたような様子でノアがやってきたのだ。
「イーナ殿!このままでは近づけません!敵の銃弾が思ったよりも激しく、市民も戸惑っている様子です!」
確かに、思っていたよりは早く立て直してきた。流石に一国の軍隊ともなれば、そう簡単にはいかないだろう。それはもちろん想定していた範疇の話だ。
「大丈夫、本隊はこのまま中央から攻める」
私の指示に、ノアが言葉を返す。
「ですが……!」
「銃弾が当たらない範囲で、思いっきり叫んで敵を威嚇するんだ。それだけで大丈夫。必ず敵に隙が出来る時が来るから、その時にすぐに攻められるようにだけ準備をしておいて」
「わかりました。きっとイーナ殿のことでしょうから、何かお考えがあるのでしょう。我々も従います」
ノアは力強く頷いて、再び本隊の方へと向かっていった。今のところ、特に想定外のことは起きていない、大丈夫だ。
「さて、そろそろ敵も調子に乗ってきた頃だろうな」
ノアが去った後、次第に声の大きくなっていくシャウン王国軍の方を眺めながらミズチが呟いた。
「そろそろ頃合いだね、味方軍に合図が出次第、一斉に突撃の旨を伝えようか」
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戦いが始まってから、しばらく時間が経った。最初こそ、攻めてくるような様子を見せたものの、それ以来あまり動きのないレェーヴ連合の様子を見ていた兵士達は、次第に気が緩み始めていた。
それも無理は無いだろう。モンスター達が、王国軍の兵器に警戒し攻めあぐねている、誰しもがそう思っていたのである。それは指揮官のレインでさえもそうであった。
「あいつら、すっかり俺達の兵器にびびってやがる」
「所詮モンスターなぞ敵ではないわ! 」
次第に、兵士達の頭には一つの考えが浮かんでいったのである。いっそ攻めてこんでしまえば、一気に敵を殲滅できるのではないかと。レインの元に1人の部隊長が駆け寄って、提言を行った。
「レイン様!敵は完全に我らの力にひるんでおります。今こそ攻めるのはいかがでしょうか!兵士達の士気も高まっておりますゆえに、必ずや奴らを打ち砕くことが出来るでしょう!」
だが、レインはその提言を断った。あえて今の状況を崩すことはない。明るくなってから射程を生かして攻めるべきである。そう考えたのだ。
「朝になるまでは、このままで行く。明るくなったときこそ、奴らの最期の時だ」
完全に戦いの主導権は王国側が握っている。それは、王国側も、レェーヴ連合側の市民達でさえも同じように思っていた。
私達を除いては。
――さあ、戦いのはじまりだ
油断に包まれていた王国軍の兵士達の中から、突如として血しぶきと共に悲鳴が巻き上がる。すぐにパニックは兵士達の中で広がりを見せた。
「なんだ……何が起こっている?」
未だ暗い闇に包まれた戦場では、事態を把握出来ずにいた。ただひたすらに悲鳴がこだまし、さらにパニックは広がっていった。
ある者は悲鳴のする方に銃を向けた。その銃撃は、味方を襲い、悲鳴がさらにこだました。
闇と悲鳴に包まれた戦場でただ一つ、朱い六芒星が不気味に輝きを放っていたのだ。少女は怪しく笑みを浮かべ、静かに呟いた。
「さあ、ショータイムはこれからだよ……」




