89話 決戦の地
私達は、カムイの街から大分離れた場所まで来ていた。目と鼻の先にはレェーヴ原野が広がっている。ミドウが食い止めているおかげで、敵の追っ手も現れることはなく、なんとか無事に皆退却が出来そうではあった。
「此所まで来れば大丈夫だろう……追っ手もなさそうだ」
ミズチは、少し緊張を解いた様子で、静かに呟いた。私達は退却している人々のほぼ最後尾であったが、確かに、追っ手の来ている様子はない。これもミドウの働きのおかげであろう。
おそらく、もうそろそろ、最初に退却した人々は、味方と合流しているはずだ。
それから、まもなくのことであった。私達の元へ、リンドヴルムとアマツが姿を現したのである。私達の姿を見るや、2人はこちらへと駆け寄ってきた。
「おい、話は聞いたぞ!イーナ!よく無事に戻った!」
リンドヴルムは大変心配していたようで、いの一番にこちらに声をかけに来た。そして、もう1人、アマツはしばらくの間、辺りをきょろきょろと、見回した後に、私達に問いかけてきた。
「イーナ~ミズチ~大丈夫だった~~?あと、お父様は~~?姿が見えないようだけど~~」
いつものように飄々とした様子で問いかけてきたアマツに、私はなんて言葉を返すべきか考えた。すると、そんな私の様子を見たミズチが先に、アマツに対して返答を行った。
「ミドウは味方が退却する時間を稼ぐ為に、街に残った」
アマツがどんな反応をするのか、私は怖くてアマツの方を見られなかった。だが、アマツは少し沈黙した後に、言葉を返してきた。
「そっか!まあ無事で何よりだね!お父様なら大丈夫だよ!」
「そうだな!ミドウさんなら大丈夫だ!イーナどうする?街に戻るか?」
シータがアマツの様子を見て安心したのか、少し明るい声色で私に聞いてきた。だが、私は、ここでアマツに対して違和感を覚えたのである。私も、ミズチも、アマツもきっと同じ認識なのだろう。
「街には戻らない、このままレェーヴ原野まで一度引き返す」
「イーナちゃん!それじゃあミドウさんは!」
ナーシェは、私の判断を聞いた後に、声を荒げた。皆の間に沈黙が流れる。
「それでも、私達は引かないと行けない」
「そうだな」
私の言葉に、ミズチも言葉少なげに同意を示した。すると、その様子を見たナーシェが再び、私達に対して言葉をぶつけてきた。
「でも!そうするべきでも!アマツちゃんは!」
「いいんだよ~~ナーシェ~~引くのには私も賛成~~。一旦態勢を立て直した方がいいと思う。それに、敵は絶対こちらに攻めてくるだろうし、迎え撃った方が良いよ~~」
私達は退却こそしてきたものの、カムイの市民達を守った上で、無事に戻ってこられたため、勝敗で言えば、私達の勝ちと言っても過言ではない。わざわざ、ミドウがつくってくれたアドバンテージを無くするような真似をするべきではないだろう。そして、私は敵が必ず攻めて来るであろう事を確信していた。
事前の準備を周到に行い、大群を出動させたのに、カムイの街の住民が、レェーヴ連合によって、ほとんど無事に退却させられたとなれば、軍にとっては飛んだ恥さらしである。向こうもただでは退却できないだろう。そうなれば、多少無理をしてでも攻めてくる。
「レェーヴ原野に戻り次第、すぐに迎え撃つ準備はするよ!今度こそ大規模な戦闘になる。アマツ、夜叉の事は任せても大丈夫?」
アマツは力強く、首を縦に振った。
それから、しばらくの後、味方の全軍がレェーヴ原野の待機ポイントまで到着した。カムイの街からレェーヴ原野までは山と山の間を通る街道が1本通っているだけである。もし、王国軍が攻めてくるとするならば、私達の後を追ってこの街道を通ってくるに違いない。
ならば、街道の出口、レェーヴ原野に出た平野の部分で私達は迎え撃つ。もうすっかり日も暮れかけてきている。夜闇に紛れて敵も展開してくるだろう。だが、夜はこちらにとってもアドバンテージにもなり得る。
すると、敵の偵察を頼んでいたシナツ達大神の一族が、私達の元へと戻ってきて、報告を行ってくれた。
「イーナ!確かに奴らはこちらに向かって進軍してきているぞ!まもなくレェーヴ原野にさしかかるところまで来ている」
「ありがとうシナツ、さあ、退却は終了だ。アマツ、今回の作戦、アマツに任せたいんだけど、頼まれてくれるかな?」
私の言葉に、アマツは笑みを浮かべ、いつものように、つかみ所の無い様子で頷いた。
「任せてよ~~奴らに、夜叉の真の恐ろしさ、見せてあげるよ~~」
………………………………………
確かにミドウを討ち取ったものの、討ち取ったのはわずか3人。それどころか、モンスター達の仕業に仕向け、始末しようと考えていたカムイの市民達まで、全員退却させられてしまった。このまま放っておけば、新しいシャウン王国の存亡に関わりうる事態である。王国軍本隊の指揮を任されていた、軍の大臣であるレインは、大変ないらだちに包まれていた。
「レイン大臣、まもなくレェーヴ原野ですが……本当によろしいのですか……?」
レインは、問いかけてきた部下の首元をつかんで叫んだ。とっくに沸点は超えていたのであった。
「大丈夫か?だと。ここまで好き勝手やられて、黙って引くわけにはいかないだろうが!」
ゲンズイをはじめとした、部隊を犠牲にした。カムイの市民達を犠牲にもした。それほどまでに、新体制のシャウン王国にとって、レェーヴ連合は始末したい相手だったのである。それなのに、こんな体たらくでみすみす帰るなど、出来たものではない。確実に首が飛ぶことは目に見えていた。
「宵闇に紛れて、部隊を展開するのだ。まずは全隊平野に出て急ぎ布陣を敷くのだ!決戦は早朝、今度こそ、奴らを根絶やしにする!




