88話 修羅、此所に在り
銃弾の飛び交う戦場に、1人の鬼が降り立った。不気味なほどに静かな街から1人の男が、兵士達の大群の方へ向かって、一歩、また一歩と歩みを進めていく。
兵士達は必死に銃弾で抵抗を見せたが、その男の歩みが止まることはなかった。
「撃て!撃てえ!倒れるまで撃つのだ!近づけさせるな!」
兵士達が叫びを上げ、さらに銃弾の嵐は激しくなる。弾丸の雨を浴びたミドウの身体からも血がしたたり落ちた。だが、それでもミドウは笑みを浮かべていた。
「誰が倒れるって?」
遂に兵士達の元へとたどり着いたミドウは目の前に居た兵士の頭をわしづかみすると、一気に空中へと持ち上げた。怪しく光る瞳に見つめられた兵士の表情は恐怖に満ちていた。
「ひぃ……」
ミドウの拳が兵士の顔へと直撃すると共に、兵士は味方軍を巻き込みながら一気に数十mほど吹き飛んだ。
「ば、ばけもの……」
その光景を眺めていた王国軍の兵士達は思わず皆、後ずさりをした。
「死にたいやつからかかってこい!レェーヴ連合国、温羅のミドウがお相手しよう!」
「ひるむな撃て!おい、逃げるな!」
指揮官らしき人が必死に立て直そうとするが、すっかりミドウの迫力に怯えてしまった兵士達はもはや統率を失っていた。
「おい、アレを!早く用意しろ!」
目の前で暴れている化け物、次々と倒されていく、兵士。まさに地獄絵図であった。だが、王国軍も黙ってやられるだけではない。王国側も対モンスター用に対策をきちんと考えていたのだ。
「まさか、こんなに早く使うことになるとはな……」
「司令官!準備が整いました!」
「よし、ならば、前線の兵を引かせろ!射線を確保するのだ!」
ミドウは戦いを完全に楽しんでいた。なにも気にすることなく、目の前と向かい合うだけで良い。まるで、若い頃に戻ったような気分であった。
「ミドウ様!さすがでございます!」
ミドウと共にこの場に残った夜叉のお供も、戦いながらミドウに向けて叫んだ。たった3人ではあったが、それでもその力はすさまじく、完全に王国軍を圧倒していたのだ。
すると、突然に兵士達が引き出した。罠か、何かの作戦か……そう考えているうちに、突然戦場に轟音が響き渡った。そして、今までよりも激しい弾幕が3人を襲った。攻撃のすさまじさに思わずミドウもひるんでしまった。
(ぐぅ………なんだこの攻撃は……)
「み、ミドウ様……」
ミドウが声のする方を見ると、そこにはすっかり全身血まみれになった夜叉のお供のものが、息も絶え絶えに、やっと立っているのも精一杯と言うような様子でいた。そして、再び、轟音と共に、激しい弾幕がミドウ達を襲った。
音が止んだ後、立っていたのはミドウだけであった。残りの2人は体中打ち抜かれて、すでに息を引き取っていた。そして、立っていたミドウもすっかり全身傷だらけで、血まみれの状態であった。
「おお!効いているぞ!もっと撃て!」
王国軍の指揮官はその光景を見て、歓喜の声を上げた。この武器があれば、モンスターだろうが、四神だろうが敵ではない。そう誰しもが思っていた。
「お前達、すまんな……」
ミドウはすっかり動かなくなってしまった忠臣の方をちらっと見ると、一言静かに呟いた。そして、再び相対する兵器に目を向けたのだ。まだ見知らぬ武器だったが、確実に言えることは、アレを使われたらいくらモンスターであろうと、無事では済まない。
イーナやアマツ達の為にも、あれだけはなんとかせねばな……
何度もミドウを激しい弾幕が襲った。そのたびに、ミドウは必死に腕を顔の前で組み、弾を防ぎながら、一歩また一歩と歩みを進めた。
最初は、どこまで耐えられるかと見世物のように楽しんでいた指揮官や兵士達も、何度も弾幕を喰らいながらも、なお倒れず、ひたすらに前進し続けるミドウに対し、恐怖を覚えていった。
「おい、いつまでやっているんだ!早くあいつを殺せ!」
一歩また一歩と確実に近づいてくるミドウに、指揮官は焦った様子で叫ぶ。だが、兵士達も出来ることと言えば、ただひたすらに兵器で目の前の化け物を攻撃することだけであった。倒れろと願いながら兵器を発射する事を繰り返していた。
「ぜんぜん効いてないな……」
遂にミドウは兵器の元へとたどり着いた。そして、その拳を兵器へと向けて一気に放った。兵器は鈍い音を上げて思いっきり歪んだ。
「おい、壊されるぞ!やれ!やるんだ!はやくやれ!」
至近距離にいるミドウに向けて、一気に弾を発射した。流石にゼロ距離での弾幕を喰らって無事でいる者はいないであろう。誰もがそう思っていた。
「それで終わりか……」
思わず膝をついてしまったものの、ミドウはその攻撃を受けながらも、なお立ち上がった。そして目の前の兵器に向けて、再び重い拳をぶつけた。ミドウの拳の衝撃に、遂に兵器は音を立てて崩れ落ちた。思わず指揮官が驚愕の表情を浮かべ呟く。
「な……最新鋭の兵器が……」
だが、崩れ落ちたのは兵器だけではなかった。ミドウもやはり大きなダメージを負っていたのである。もはやミドウの身体は痛みを感じてはいなかったのだ。
「十分に時は稼げただろう。だが、ここまでか……アマツよすまんな、そしてイーナ、後は頼んだぞ……」




