85話 わたし、魔王になりました!?
「大変だ!奴らが遂に動いた!」
「謎の鎌を持った男が暴れています!何人もの兵士がやられました!」
「ええい……敵はどこに居るんだ!」
シャウン王国の陣営は混乱の最中にあった。当初の予定では、レェーヴ王国の連中が動いてくると言う想定はあまり考えられなかった為である。そして、闇に紛れた奇襲。作戦通りに兵士達はパニックに陥っていたのである。
しかし、戦況を動かせる男は、シャウン王国軍にも居たのである。
カムイの街の警備の総指揮を任されていた、ゲンズイは、元々シャウン王国の軍人の1人であった。軍隊に入る前は、ギルドのメンバーでもあった彼は、モンスターを倒すことに、その生涯を捧げていた。
幼い頃、モンスターの襲撃によって両親を失ったゲンズイは、貧しい生活をしながらも、祖母と2人で暮らしてきた。家族を失ったのも、全ては力が足りなかったと、自分の無力を憎み、必死で努力をしてきた。そして、いっぱしのギルドメンバーだった彼を、軍隊へと勧誘してくれた大臣にも大きな恩があった。大臣のおかげで、ここまで来れたといっても過言ではなかった。
大臣からクーデターの話を聞かされたときには、すぐに答えが出せなかった。確かに大臣には大きな恩がある。だからといって、自分の国の王を裏切る事は、容易なことでは無かった。
だが、彼を突き動かしたのは、モンスターへの憎しみである。モンスターと共生できる世の中など来るはずがない。今のシャウン王国も、あの、イーナとか言う女をはじめとするモンスター達によって、操られているに違いない。彼はそう思い込んでいたのだ。
そう、全てはシャウン王国をモンスターの手から守る為に、彼は覚悟を決めたのだ。
「ええい!うろたえるな!相手は我々に恐れをなしているからこそ夜襲なぞ卑怯な手を使ってきた!恐れることはない!」
ゲンズイの一喝で、兵士達は落ち着きを取り戻した。そして、シャウン王国軍の士気が一気に上がったのだ。
「おい、そこに居るのは分かっているのだぞ!出てきたらどうだ?我が国をもてあそびおって!」
ゲンズイは武器を構えながら、闇の方向へと叫んだ。その叫びの先にいたのは他でも無い、そう私であった。
「ばれてた?」
ルート達を陽動に、私は指揮官の下へとひっそりと近づくという算段であった。だが、その作戦も不発に終わりそうだ。
「この女狐め!シャウン王国をどうするつもりだった!?」
完全に敵意をむき出しにしながら、男は私の方へと言葉を放つ。話し合いは完全に無理そうである。
「そっちこそ、王を殺して、王子を殺して……シャウン王国を荒らしてるのはあんた達でしょ」
「うるさいだまれ!お前達さえいなければ、この国は平和だったのだ!それをなんだ、ちょっと帝国との戦いで戦果を上げたからと言って、王に取り憑いて!最初から全てお前達のシナリオだったのではないか!?」
そこまで言われて、黙って居られるほど、私も大人ではなかった。向こうにも正義がある。それは分かった。だが、きっと、彼の思想と、私の思想は永遠にわかり合うことは出来ないのだろう。
「あんた達のやっていることに正義はあるの?」
私の言葉に、男は少し後ろめたさを感じるような表情を浮かべながらも、すぐに唇と強くかみ、こちらに向けて叫んだ。
「確かに、王を裏切ったこと、褒められたことではない。その罪を背負って、地獄なりどこへでも言ってやるさ。だが、その前にお前達だけは倒さねばならない。俺達の王国をこれ以上モンスターに好き勝手蹂躙されてたまるか!」
そう言うと、男はこちらに走って向かってきた。そして、鋭く持っていた剣を振り下ろしてきたのだ。
「おもっ……」
彼の剣を防いだ、龍神の剣は今までに無いくらいに震えていた。その振動は、少し経った後に、私の腕へと伝達してきた。彼の覚悟が、その一撃には込められていたのだ。
「私の正義と、お前の言う正義、どちらが正しいか、決める方法は一つしかない」
私の言葉に、男は何も言わずに、剣を構え治した。それは、はじめて2人がわかり合えた瞬間でもあった。どちらの正義が正しいか、最後に立っていた方こそが正義なのである。
「うおおおおおおおおお!」
先に動いたのは、男の方であった。自分を鼓舞するように、男は叫びながらこちらへと突っ込んできたのだ。
「申し訳ないけど、ここで手間取っている暇は無いんだ」
そう、確かに剣の威力はすさまじいものがあった。だが、この程度の攻撃、狒々の王である猩々に比べれば可愛いものである。ここは最初から全力でやらせてもらう。そして、私は龍神の剣に炎をともした。
すると、その様子を見た男に一瞬の動揺が走ったようだった。
「隙だらけだよ」
男の剣に一瞬の迷いが生じた瞬間を私は逃さなかった。そして、大量の血と共に、男は地面へと倒れ込んでいったのだ。
「ぐっ……魔王め……」
息も絶え絶えに男が呟く。その言葉を私は聞き逃さなかった。魔王ってなんだ?
「まあよい、つかの間の勝利を楽しむが良いさ……すぐにお前も俺と同じ所に来ることになる……」
そう言い残すと、男は静かに息を引き取ったのである。
私達の戦いを眺めていた兵士達は、その結末を目にし、一気にパニックへと陥ったようだ。
「ゲンズイ様がやられた!」
「魔王が来たぞ!」
「俺達はみんな死ぬんだーー!」
そう言いながら、ある者は恐怖で腰を抜かし動けなくなり、ある者は逃げ惑い、ある者は勇敢にもこちらに剣を向けてきたが、私はそれを切り捨てたのだ。
「ひぃ……どうかお助けを……」
もはや、戦意を失った敵を切り捨てるほど、残酷な趣味は私にはなかった。黙って見逃すと、兵士達は声を上げながら、何処かへと逃げていった。
「おい、イーナ!片付いたようだな!」
別行動をしていたシータやルート、ナーシェが私の元へと駆け寄ってきた。すると、ナーシェが不思議そうな顔で、こちらへと問いかけてきた。
「それにしても、さっきからみなさん魔王魔王って一体なんのことでしょう?」
すると、ナーシェの不思議そうな様子を見たシータが笑いながら、私の方をじっと見つめ、口を開いた。
「どうやら、イーナ。お前、人間達から魔王と呼ばれているようだな」




