78話 黒竜は街に夢中なようです
「おおー!なんだこの街は!おい、イーナよ!美味しそうな香りがするぞ!」
「タルキスから輸入してきた牛肉だよ!とっても美味しいから、食べてみる?」
私は、露天商のおばさんから購入した、牛肉の串炙りをリンドヴルムに手渡した。串を受け取ったリンドヴルムは、じっくりと匂いをかぐと、一気に肉を頬張った。
「う、うまいぞ!なんだこれは!こんな美味い肉はじめて食べた!」
幸せそうに肉を頬張っていくリンドヴルムを見ていると、こちらまで幸せな気分になる。
「リンドヴルムは、タルキスの牛肉食べたことないの?」
私も肉を頬張りながら、リンドヴルムに問いかけた。
「ない!そもそもこの地方に来たのははじめてだ!俺の生まれは南の方だからな!」
そういえば、アーストリア連邦の外側の世界の事は未だ不明な点が多い。と言うよりも、レェーヴと、シャウン、タルキス、あとはアレナ聖教国の一部のことしか、まだ知らない。世界がどこまでも広がっていると思うと、なんだかわくわくする。
「南の方かあ、どんなところなの?」
私は興味本位で、リンドヴルムに尋ねた。
「俺の住んでいたところは、ここから遙か南、海を越えたところにある。だが、こことは違って、こんな街など栄えてはおらんし、モンスターがうじゃうじゃと居る。弱いものはすぐに死ぬ。そんな世界だ。だからこそ、俺は風の噂でこの街のことを聞いて興味を持ったのだ!モンスター達が平和に暮らす街など、想像も出来なかったからな!」
「そんなところまで噂が広がっているの!?」
私達の国の噂は思いの外、世界中に広がっているらしい。確かに、毎日のように、新しく移住を希望するものが続々ときていた。そう考えれば納得も行く。
「すごいね!イーナ様世界中で有名人だね!」
ルカがはしゃいだ様子で私に言った。一緒に歩いていたシータが、ちょっと真面目な様子で、ルカに続いた。
「だが、そこまで知れ渡っているのなら、悪意を持って侵略してこようとするものもいるかもしれない、油断はできんぞ」
「そうだねえ……ミズチさんと、シナツが居れば大丈夫だとは思うけど……気をつけておくよ」
「まあ、イーナなら問題ないだろう。そうでなければ俺が困る!」
何故かリンドヴルムが誇らしげに私の言葉に続いた。さらにサクヤが冷やかすかのように、私に言ってきた。
――ずいぶん懐かれておるようじゃな
どうしてそんなに懐いているのだろうか。少し気にはなったが、まあそれは後々聞くことにしよう、やっぱりそういうことは酒の席で聞いてみるに限る。素面では何とも話しづらいことも多い。それよりも、今の私の興味は私の知っている世界の外側、そちらへと向いていた。
「ねえナーシェ、ナーシェは世界の事どの位知ってるの。アーストリア連邦の外側のこと!」
ナーシェは私の問いかけに、少し考えた後で、申し訳なさそうな素振りを浮かべながら、口を開いた。
「正直、まだまだ分からないことだらけです!飛空船が出来てから、確かに世界は広がりました。でも、行けないところは沢山ありますし。私もアーストリアのことは色々聞いたことはありますけど、その外のことは全然知らないです……」
すると、ナーシェは話し終わった後で、補足するように、再び口を開いた。
「例えば調査に役に立っている機関のひとつがイーナちゃんも入っているギルドです!リンドヴルムさんの故郷の話ではありませんが、やはり未開の地には未だ謎に包まれたモンスター達が沢山居ます。だからこそ、平和になった今でも、戦いのプロの需要は無くならないのです。もちろん危険が伴うので、レベル5ではありますが」
ギルドかあ……
思えば、この国を作ることになってから、全然顔を出せてはいなかった。正直、ギルドの服は結構お気に入りなので、いつも身にはつけているが、メンバーのみんなからは、もはや居るのか居ないのだか分からない幽霊部員のように思われてしまっているかもしれない。
「おい、イーナ!アレはなんだ!」
感慨に耽っていると、再び、リンドヴルムが別のものに興味を示した。そんなこんなで、リンドヴルムの街案内で、一日はあっという間に過ぎていった。
「おい、イーナ!この水はなんだ!非常に美味いぞ!それになんだかふわふわするな!」
「お酒だよ!リンドヴルムは飲んだことないの?」
日が暮れた後、私達は、街の酒場へと来ていた。レェーヴ国内で取れた果物を加工して作った、地酒。これは是非とも生かさねばならないというシータの意見で、街に大きな酒場を作ったのだ。酒場は日々モンスター達で賑わっていた。
「はじめて飲んだぞ!こんな美味しい飲み物!もう一杯だ!」
リンドヴルムはすさまじいペースで酒を飲んでいく。顔色一つ変えないで飲んでいくリンドヴルムを見ていたシータまでペースが上がっていく。いや、いつも通りなのかもしれない。
「ま、まあ、あんまり飲み過ぎないように……ね」
私の心配をよそに、2人はすさまじいペースで酒を飲み干していく。ドラゴンという生き物は酒に目がないのか…… 次第に、周りに居たモンスター達も、2人の飲みっぷりを見て煽るように盛り上がっていった。
「あの、イーナちゃん……そろそろまずいんじゃないですか……」
ナーシェが私の耳元でこっそりと呟いた。その言葉に私も小さく首を縦に振った。
「おい、イーナよ!何をしている!お前ものまないか!」
リンドヴルムが私の元にやってきて、大声で言った。
「リンドヴルム……大丈夫?飲み過ぎじゃない?」
「大丈夫だ!大丈夫ったら大丈夫!」
なんか、口調まで少し変わってるし……これはまずい、そろそろ辞めさせておかないと、えらいことになるのが目に見えている。
すると、シータまで顔を真っ赤にしながら、こちらにやってきて、リンドヴルムに向かって言った。
「おい、リンドヴルムよ!お前はもう酔ったのか!そんな事ではイーナはお前にはやれんな!俺を超えられんようではまだまだだ!」
その煽り文句に、リンドヴルムは突然立ち上がり、シータに向かって大声で言った。
「聞き捨てならんな!誰が負けただって?おい、シータ!俺と勝負しろ!」
そして2人は何処かへと再び消えていった。すっかり取り残されてしまった私達はお互いに顔を見合わせる。
「イーナちゃん……大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ、ほっとこ、ほっとこ」
リンドヴルム来訪1日目はあっという間に過ぎていった。シータとリンドヴルムが店の前で殴り合いの喧嘩をして、2人ともミズチにこってり絞られたのを私が知ったのは、後の話である。




