76話 黒船来襲
第3部!
史上、類を見ない、モンスター達による国家レェーヴ連合。モンスター達の国が出来たという噂は、瞬く間に世界中へと広がった。すると、その噂を聞きつけたモンスター達が次々と、私達の国へとやってきたのである。
私達の国は、すぐに発展をしていった。モンスターが集まるところには、物流が集まり、都市が出来上がる。私達は、レェーヴ連合の中心に据えた都市に、偉大なる妖狐の名でもある、リラという名前を付けた。元々妖狐の里があった場所である首都リラは今や、すっかりモンスターで賑わう街となっていたのだ。
「それにしても、イーナちゃん大変ですね!あんまり寝れてないんじゃないですか?」
「まあ、みんなのためでもあるからね……そんな事を言ってもいられないよ!」
「おい、イーナよ!そろそろリラにつくぞ!」
ナーシェは昔と変わらず、私と共に行動している。レェーヴ連合が出来上がってからというもの、私達は、フリスディカとリラを行き来する暮らしを送っていた。そのたびにシータにはお世話になっている。レェーヴは未だ飛空船が使えない土地のため、ドラゴンであるシータに移動を頼るしかないのだ。まさにちょうど、私達はフリスディカから帰ってきたところである。
フリスディカに向かう用事はいくつかある。一つはリラクリニックである。私達はフリスディカのリラクリニックを閉じるという決断をした。というのも、なかなか私がフリスディカを中心に活動が出来ないと言うことと、一番大きな理由として、個人の小さなクリニックでは出来る事に限界があると言うことである。
他にも、競馬だったり、連邦のお偉いさんと話したりと、色々あるが、一番の用事は、王立医学学校の分院を作るという話である。レェーヴ連合が出来てから、モンスター達が人間と同様に暮らすという価値観が当たり前のように広まった。そして、モンスターや動物の医療に特化した学問、獣医学部を作ると言う計画が始まったのだ。
一度、医学学校からの誘いは断ってしまっていたが、改めて出来る範囲で協力して欲しいという話が再び来たのだ。流石に二度目は断るというわけにも行かず、私は首を縦に振った。私のたっての希望で、獣医学部はレェーヴ連合の中に作るという話でまとまりつつあった。モンスターの医療を学ぶのであれば、モンスター達の国で行うのが一番効率が良いのは確かである。その調整の関係で、足繁くフリスディカへと通う必要があったのだ。
所謂医者と言えば、手術などの外科治療をイメージする人が多いだろう。だが獣医学と言っても、分野は多岐に登る。解剖学や生理学といった基礎系から、細菌学や、ウイルス学、それに、人も含めた衛生全般に関する公衆衛生学、そして、臨床と呼ばれる外科学や内科学などまで幅広い分野をカバーする必要がある。そのためには、いろんな分野のスペシャリストを集める必要があった。
ルイやレーウェンに、この話をすると、喜んで協力してくれるとのことで、より高度な医療を極める為にも、クリニックを閉鎖して、レェーヴ連合の首都であるリラに新たな拠点を作ることにしたのだ。
もちろんレェーヴ連合のために動いているのは私だけではない。ミドウは、そのコネクションを使い、人間界との通商ルートを開拓した。これにより、より多くのものがレェーヴ連合内へと流通するようになった。ずいぶんリラもミドウさんのおかげで便利な生活が出来るようになった。
また、国内の事はシナツやミズチが中心にしっかりと統治を行ってくれている。最初こそ、新たに入ってきた者達を含め、いろんなモンスターが一緒に暮らすということで、もめ事も起こったが、法を整備し最低限のルールを守ってもらうことで今では上手くやっていけている。
「すっかり里の様子も変わったね!イーナ様!」
ルカがすっかり賑わったリラの街を見ながら、無邪気な様子で私に話しかけてきた。はじめて妖狐の里に来たときと比較すると、見分けもつかないくらいに別の街と言えるだろう。
「おっ!イーナ様!ちょうどタルキスから美味しい牛肉が届いた所なんだよ!ビーフジャーキー良かったらどうぞ!」
そう言って、ちょっとぽっちゃりしたおばさんは私達にビーフジャーキーをくれた。実はこのおばさん、アナンザという名前のエルフなのである。エルフと言えば、すらっとした美女をどうしてもイメージしてしまっていたが、まあ固定観念は良くない。アナンザも私達の国の噂を聞いて駆けつけてきたそうだ。
「ありがとう!アナンザ!タルキスのものも入るようになったんだね!」
私達が、狂犬病ワクチンを完成させたことは、タルキス国王である、リチャードに大きな恩を売ることになった。私達の国レェーヴが、国として独立したいと主張したとき、連邦の中でも発言力のあった、シャウンの王と、タルキスの王が賛成してくれたことで、事をスムーズに運ぶことが出来た。シャウンやタルキスとは友好国として、良いお付き合いを続けている。
もちろん、モンスターの国と友好関係を結ぶというのは人間側にとっても大きなメリットがあるだろう。例えば、アルラウネの里の近くで採れる薬草、人間界ではなかなか存在しない珍しい品種らしく、高値で取引が行われている。そして、一番のメリットは、モンスター達に襲われるリスクが格段に減ったと言うことだろう。ギルドという組織は、当初の目的を外れ、今やモンスターから人間を守る為の組織として存在を確立していた。モンスターに秩序が生まれたと言うことは、人間の安全な暮らしを保証する上で、何よりも大きなポイントである。
今となっては、レェーヴにも人間が頻繁に訪れるようになった。商売のため、モンスターの国を一度見たいという興味本位、理由は様々であるが、人の往来が活発になり、結果として、中心都市であるリラは瞬く間に賑わっていったのである。
私達は、街の中心にある、新生リラクリニックへと向かっていた。もともと、私達の病院があった場所であるクリニックの場所は、大学の設立予定地である。ケット・シーや龍神族のみんなが急ピッチで建設作業を進めている。工事中のクリニックへとつくと、私達の姿を見つけたケットシーがこちらへと近づいてきた。
「ニャ!イーナ様!大分完成像が見えてきましたのニャ!」
「ありがとう!順調そうで良かったよ!怪我をしないようによろしくお願いします!」
すると、突然にケット・シー達がざわつき始めた。
「なんなのニャ!なんか来るのニャ!」
ケット・シー達が指す方向を向くと、空には巨大なドラゴンの姿が見えた。明らかに、シータ達龍神族とは違う姿をしていた。
「ねえ、シータ。一応確認するけど、龍神族……ではないよね?」
「ああ、明らかに俺達より強い……アレは化け物だ……」
「まさか、侵略しに来たわけじゃないよね……」
「だとしたら、もうすでにこの街は無事では済んでいないだろうな……」
「行こう!ここで待っていてもどうしようもないし!」
そして、私達は街の外れ、ドラゴンの方へと走った。その途中にミズチと合流し、私達はドラゴンの元へとたどり着いた。
ドラゴンはこちらの姿を見つけるやいなや、陸上へと降りてきて、大きな声を発した。
「お前がイーナか!」
その迫力に、思わず腰が引いてしまいそうになったが、何ともないような様子を取り繕って、私はドラゴンに対して答えた。
「そうだけど……」
すると、ドラゴンはこちらを見定めるかのようにじろじろと私を見てきた。今のところ敵意はなさそうではあるが、なんだか落ち着かない心地である。
「俺は黒竜リンドヴルム。イーナという九尾の女が、モンスターの国を作ったと聞いた!俺もその話を聞いて、興味を持ったのだ!」
アレナ聖教において使徒であるとされる、黒竜。それが実在したというのが驚きではあるが、まさに目の前に居る。そして、この国に興味を持っただなんて……驚きの連続である。
「それで、この国に……?」
すると、黒竜は笑いながら私をじろじろと見て、驚愕の言葉を言い放ったのである。
「俺を見ても、なお平然と振る舞うとは面白い!気に入ったぞ!やはりお前こそがこの黒竜の妻にふさわしい!」
えっ……?興味を持ったって……そっち……?




