69話 二の矢
「さていよいよ、ここからが本戦ですイーナさん達お願い出来ますでしょうか?」
教会軍の先鋒はなんとか打ち破ったものの、敵の本隊が到着し、布陣を組んでいた。いよいよ戦いの始まりである。ここからは、敵の戦力も一気に上がる。
「イーナよ、まだ何か策はあるのか?」
シータがこちらに問いかけてきた。私は真面目な表情で冷静に答えを返す。
「ないよ、今更こけおどしなんて効かないだろうし……後は力と力の勝負だね……」
「ほう望むところだ……魔法使いだろうと、人間だろうと何ら代わりは無い」
ルートが静かに呟く。するとアマツが、いつもの飄々とした様子で、口を開いた。
「イーナ~~さっきの作戦見事だったね~~!今度は私の番だよ~~!そろそろ準備が整うかな~~」
私は作戦会議の時に、アマツが言っていたことを思いだした。『もうすでに手は打ってある』と。
「アマツ、信じていいんだよね?」
私がアマツに問いかけると、アマツはニッコリと笑みを浮かべて頷いた。どちらにしても、今の私達に選択権はない。
「じゃあ、行こうか!みんな無事に帰ってきてね!」
………………………………………
戦場に降り立つと、そこらかしこに、教会軍の人々が転がっていた。そして、地面は地でべっとりと赤く染まっている。大変グロテスクな光景である。
仕事上、血を見ることは慣れていたが、それにしてもこの光景は想像を超えたすさまじいものであった。これが本当の戦場なのか……
私は少し怖じ気づいてしまったが、今更そんな事を言ってもられない。すると、ディアと長身の男がこちらの存在に気付いたのか、近寄ってきた。
「お姉さん!さっきの作戦大成功だったね!あ、こっちはリデル!お姉さんには一度会ってるよね!」
「リデルだ、先日は大変失礼した」
2人は普段と変わらない様子で話しかけてきた。返り血を大量に浴びてなお、冷静を保っている2人に、私は少し不気味さを感じた。
「こちらこそ、助けてもらったのに、お礼もせずに申し訳ないです。イーナと言います。よろしくお願いします!」
「まあ自己紹介はそのくらいにしておいて、さあ来るよ!」
そう、ここは戦場なのである。大きく息を吸い込んで、心を落ち着ける。ここでは情けはいらない。徹底的にたたきつぶす。それだけでいい。敵軍に向けて私はゆっくりと手を伸ばした。
「炎渦」
こちらに迫ってくる兵士達が一気に炎の中へと包まれていった。同時、教会軍の阿鼻叫喚の声と、動揺の声が戦場に響き渡った。
「なんだあの女は……魔法使いか!」
「あんなのに敵うわけがない……」
次第に教会軍と、私達の距離が開いていった。完全に教会軍は怖じ気ついていたのである。すると、ディアとリデルが動揺した教会軍へと突っ込んでいった。2人の剣術の腕は素晴らしく、敵軍はどんどんとちりぢりになっていく。
「氷結魔法!」
ローブを被った男達が叫ぶと、周囲は一気に凍り付いた。すんでの所でディアとリデルはかわしたようで、こちらへと身軽に戻ってきた。
「お姉さん!いよいよ敵さんも本気だよ!」
「大丈夫、魔法使いは私に任せて」
確かに強力ではあるが、アルヴィスやリラに比べれば、大したことはない。今、私に出来る事。それは相手により深い絶望を見せることである。
「氷の世界」
その言葉に、周囲が一気に氷に包まれる。教会軍の兵士達も一瞬にして凍り付いていった。叫ぶ暇も無い間に。
「レベルが違いすぎる……」
「貴様、ただの魔法使いではないな……」
すっかり戦意を失った魔法使い達は私にとってもはやただの的であった。龍神の剣を引き抜き、剣に炎を宿す。相手の懐に入ると、次の瞬間、相手はすでに燃え上がっていた。
「き、貴様何者だ……!」
まだ1人、生き残っているローブの男がいた。なにやら、他の男達とは少し服装も豪華であり、おそらく、部隊のリーダーか何かなのだろう。わずかではあるが、他のもの達よりも強い魔力を感じた。
「私が何者かって?それを聞いて一体どうするの?」
男に問いかけると、男は怒ったような様子でこちらに手を向けて、魔法を放とうとした。
「遅い」
次の瞬間、男はすでに真っ二つになり、空中で燃え尽きていった。
それにしても……
一体、何人倒せば良いのだろう。倒しても倒しても、敵は湧いてくる。これではキリがない。善戦こそしているものの、次第にこちらの軍にも疲労の色が見え始めているようだ。
「使徒様!何かが前方から来ています!」
その声に、私はとっさに前を見た。すると、前方には明らかに人間とは異なる奴らの大群が見えたのだ。その姿は、サルと言うべきか、チンパンジーと言うべきか、とにかく人間ではなかった。そして、明らかに異質な魔力を放っていた。あいつらはやばい。
「みんな!一旦下がって!」
私の声に、抵抗軍の味方に緊張が走った。すると、1人の抵抗軍の男が叫びながら、そいつらにめがけて突っ込んでいったのだ。
「ふん、こちらには使徒様がついているんだ!恐れることはない!」
「まっ……まって!」
私の叫びも空しく、次の瞬間、男は一気に奴らの一撃で宙を舞っていた。手には鋭い木の槍のようなものを持っていた。そして、奴らが歩いた後には、緑色の絨毯が力強く生い茂っていた。すると、こちらを威嚇するように奴らの1人が力強く叫んだ。
「我々は狒々の一族なり!我々を敵に回したこと死んで後悔するがよい!」




