68話 一の矢
抵抗軍は必死に迫り来る教会軍を食い止めていた。だが、あまりにも敵の数が多すぎる。それにおそらく先鋒隊は、教会軍にすれば、様子見に過ぎないのであろう。ある程度こちらの戦力を削ってから、本隊を投入してくるのは目に見えていた。
「じゃあシータ、私達も動こうか」
「いいのか?温存しておけってロードが言っていたが……」
「そうだけど、こんなの温存したところでどうにかなる問題じゃないでしょ。大丈夫!ほんのスパイスだよ!」
「スパイス?」
「使徒の力を見せれば良いんだよ。まずは敵の士気をそごう」
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教会軍は高をくくっていた。仮に相手に使徒が居たとしても、戦力の差は圧倒的。物量で押し込めば、すぐに陥落するに決まっている。
となれば、誰が功績を挙げるかと言うのが重要になる。だからこそ、部隊長達は功を自分の物にするべく、聖都シュルプへと我先にと言わんばかりに侵攻していたのである。
「隊長!奴らなかなかにしぶとく粘っています!」
「ふん、時間の問題だろう。たかが街一つ、それに所詮寄せ集めの集団だ。すぐに降伏するか、無様に散っていくかのどちらかだろう」
先鋒隊第1部隊隊長オズワルドもそのうちの1人であった。
「幸運にも、我々にも大きなチャンスが巡ってきたのだ。魔法使い達ばかり大きな顔はさせられん。ここで、我々がシュルプを落とし、大功を上げようではないか!」
隊長の言葉に、部達の士気も上がる。教会軍もひとまとまりではなかった。この国で大きな力を握っているのは間違いなく魔法使いであった。一般兵の中にはそれを面白く思っていない者も数多くいる。彼らにとっては、今回は大きなチャンスであるのだ。
「た、隊長!シュルプの方から何かがやってきます!」
部下の1人が声を上げる。次第に、部隊の中でのざわつきが増していった。
――なんだ、一体何が起こっている?
オズワルドが空を見上げると、そこには一匹の大きな竜が居たのだ。
――一体何だ、あの竜は?
竜は、豪火を吐きながら、教会軍を蹴散らしていく。動揺はすぐに部隊全体へと広まる。
「まさか……使徒の黒竜では?」
「本当に使徒がいるだと!」
誰かが言い出した『黒竜』と言うワードに、さらに教会軍は動揺を増した。
「隊長!大変です。先鋒が押し返されています!」
「ええい、分かってる!」
オズワルドの中にも焦りが生じていた。だが、今更退却を命じるわけにもいかない。街一つ落とせず退却など、とんだ恥さらしである。それならば死んだ方がマシだ。
「ええい、つっこめ!なんのことはない!街を落とせ!」
だが、動揺により、すっかり統率を失ってしまった部隊は、もはやオズワルドの指示を誰も聞いていなかった。
――まさか、あんな竜一匹に俺の部隊がやられるだと……
オズワルドが呆然と立ち尽くす間にも、部隊は次々とやられていく。戦場は、教会軍の悲鳴が響き渡り地獄絵図とかしていた。
「隊長!第2部隊が壊滅との報告です……!」
――な……
パニックになった部隊は、悪い報告だけはすぐに回るのであった。第2部隊壊滅の知らせは、教会軍の先鋒にダメージを与えるには十分すぎる情報であったのだ。
「ええい、こうなれば、俺が先陣を切る!お前らついてこい!」
オズワルドは聖都シュルプに向け突っ込んだ。オズワルドは理解していた。我々は負けたのだ、と。だが、武人としてのプライドが負けを認めることを許さなかった。
――せめて、少しでも敵にダメージを!
その一心で無謀とも言える突撃をしたのである。
「そんなに急いでどうしたのおじさん?」
オズワルドはすっかり戦場の最前線に来ていた。オズワルドの目の前には、無邪気そうに笑う少年と、無表情の長身の男がいた。
「一体あいつはなんなんだ!?」
息を切らしながらオズワルドは目の前の男達に問いかけた。
「あーあれね、僕たちも知らなかったんだ!すごいよね!一気に形勢がかたむいちゃったもん!」
「ふざけるな!」
オズワルドの怒りは頂点に達していた。あんなワケの分からない竜一匹に部隊は壊滅させられ、しかも、目の前の生意気な少年にまでコケにされている。オズワルドは目の前の少年に向かって一気に斬りかかった。
だが、冷静さを失ったオズワルドは戦う前からすでに負けていたのだ。次の瞬間、オズワルドの首は、身体を離れ宙を舞っていた。
「駄目だよ、おじさん。迷いが多すぎる」
ディアは笑いながら、地に転がったオズワルドに対して、呟いた。
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「シータ、お疲れ!」
竜となったシータが私達の元へと帰ってきた。
「おう、イーナの策見事にはまったな!」
シータに竜となってもらい、敵に姿を見せる。策と言ってもたったそれだけの事だったが、思った以上の成果を得られた。教会軍の先鋒はほぼ総崩れ状態であった。
初戦は完全勝利と言ってもいいだろう。
「でもまだ、本隊はこれからだよ!」
そう、視線の先、平野の遙か向こうには、教会軍の大軍がさらに押し寄せてきていた。戦いがさらに激しさを増していくのは明らかであった。




