67話 そんな大勢で来なくても
「それは、ありがたいお話ですが……本当によろしいのですか?」
ロードは、私の提案に、驚いた様子で、だが喜びを隠しきれない様子で確認をしてきた。私がその問いに対し、縦に首に振ると、フリーフェイスの面々は一気にわき上がった。
「使徒様が味方についてくれるのなら負けるはずが無い!」
「真の神の加護を受けたのは我々だ!奴らに正義はない!」
抵抗軍の士気は十分に高まった。これなら、戦うことも出来るであろう。だが、それでも戦力の差は圧倒的である。一国の軍隊、尚且つ戦闘に特化した魔法使いともなれば、寄せ集めの抵抗軍はすぐに壊滅させられてもおかしくはない。
「ロードさん、敵の戦力はどの位?」
「聖教会の正規軍ともなれば、10万は下らないでしょう。何よりも、数千人ほどではありますが、魔法騎士団は強敵です。対する我らは、戦える市民を合わせて、2万といったところ。普通に戦えば、まず勝つことはないでしょう」
ロードの言葉に、わき上がった会議室も一気に静まりかえった。
「聖都シュルプの反乱に合わせて、各地方で反乱が起きるという可能性はないのかな……?」
もし、教会の戦力が分散するようであれば、まだ勝ち目はある。いかにして勝ち筋を見つけるか。そうでなければ、抵抗軍に待っているのは死である。
「可能性はなくはないでしょう。ただ、期待はできませんね……教会のことですから、最低限の戦力は各都市には残しておくでしょう。そうなれば市民としては、なかなかに蜂起は難しいと思います」
こちらの戦力は2万とはいえ、一般市民も合わせての数字。魔法使い相手に戦えるとすれば、本当にごく一部の戦力しか期待出来ない。さて、なかなかに詰んでいる状況な気がしてきた。
すると突然、会議室に1人の男が慌てた様子で入ってきた。ロードがその男に問いかける。
「まだ会議中ですよ。一体どうしたのですか?」
「教会軍の先鋒隊が東方に現れました!」
「なんと……もう到着したというのですか……」
男の報告に、会議室は再びざわめきに包まれた。だが、先ほどまでと違うのは、歓喜によるざわめきではなく、教会軍急襲に対する混乱によるざわめきということだ。
思ったよりも教会軍は早く攻めてきた。こうなれば、布陣もへったくれもない。残された道は……
「籠城戦しかない……」
私の呟きにロードも同意した。完全に先手を打たれてしまった以上、奇襲による急戦は玉砕でしかない。そうなれば、じり貧であろうとも、籠城して、戦力を一点集中させて攻めてきた軍を各個撃破するしかないだろう。
「教会側としても、戦いを長引かせたくは無いはず……国内が不安定というのもあるし、何より教会が全力をあげても聖都シュルプを制圧できないとなれば、国内での求心力も下がる。多少無理をしてでも、攻めてくると思うから、隙があるとすればそこしかないかな……」
私の言葉に、ロードが補足するように言った。
「そうですね、幸いにも、聖都シュルプは崖のおかげで、入り口は限られています。他の地域の蜂起を期待して、粘るしかないでしょうね……それにしても、我々にとって絶望のように感じていた壁が、今や希望の壁になるとは、皮肉なものですね」
ロードがフリーフェイスのメンバー達に籠城戦の指示をすると、メンバーは一気に準備のために部屋を飛び出していった。すると、ロードは大きく息をついた後、私達に向けて深く頭を下げ、ゆっくりと口を開いた。
「お恥ずかしい話ですが……我々にとって皆さんだけが希望です。どうか、よろしくお願いします」
私達は、聖都シュルプの崖の上へと来ていた。遠方には、教会軍の大軍がこちらに向かってくるのが見える。実際に見ると、その迫力はすさまじいものであった。
「これで、先鋒隊かあ」
「イーナ様……大丈夫かな……」
ルカが不安そうな様子で呟く。正直言って、私も不安しかない。だが、これは勝たねばならない戦なのだ。すでに賽は投げられてしまっているのだから。負けること、それはすなわち『死』なのである。
「大丈夫だよルカ。ルカはナーシェと一緒に負傷した人達の治療をお願いね」
ルカに不安なところを見せるわけにはいかない。私の不安は抵抗軍の士気に直接影響するのを分かっていたから。それをくみ取ってくれてか、ルカとナーシェは力強く頷いた。
「大丈夫~~イーナ達なら負けはしないよ。なんたって、使徒様だからね~~」
アマツは怪しげに笑っていた。だが、今はアマツの言葉が何よりも頼もしかった。
教会の先鋒軍が聖都シュルプ近くへと到達すると、すぐに戦闘は始まった。
「イーナさん達は少しでも身体を休めていてください。先鋒軍は一般兵、我々の力でもなんとか戦えます。魔法騎士団が来るまではなんとか持ちこたえますので、その時は是非ともお力をお貸しください」
抵抗軍の指揮はロードが取ることになった。私達は崖の上から、戦況を見守っていたが、教会軍相手に、抵抗軍はなんとか踏みとどまっている。いや、むしろ、少しずつ押しつつすらあった。
地の利はこちらにある。それに、教会軍は何かに焦っているかのように侵攻をしてきていた。無理攻めである事は明白であった。
「士気が高い。これならなんとか耐えられそうだな」
シータの言葉に、私は静かに頷いた。だが、今善戦しているからといって、決して油断は出来ない。これはまだ、ほんの小突き合いに過ぎないのだから。




