66話 holy wars
聖都シュルプが陥落した。
その噂は一気にアレナ聖教国全土へと知れ渡ったのである。
アレナ聖教会内部は大きく揺れていた。使徒の出現。そして、大司教の1人であるマーズ大司教の死。国内の混乱は、教会の地位そのものを脅かしていた。
「聖都シュルプ陥落の件だが……噂によると、妖狐の力によると言う」
「本当に妖狐の仕業なのか。反乱軍によるデマという可能性はないのか」
「反乱軍に魔法騎士団一部隊をつぶすことができると思うか?」
「真偽のほどは分からんが、放置しておく訳にもいくまい。どちらにしても第13師団がやられたとなれば、聖都シュルプは制圧する必要がある」
アレナ聖教会の総本山、聖都アレナの大聖堂の一室で、大司教達による会議が行われていた。大司教達の中でも中心に座る、ムーン大司教は会議の結論を下した。
「それぞれの聖都に常駐する魔法騎士団以外の全ての師団を聖都シュルプ方面に全軍配備しろ。そして、アレも用意するんだ。抵抗する者は全員国賊とみなせ」
………………………………………………
使徒の出現。マーズ大司教の死。そして、民衆の味方であるフリーフェイスが、本格的に聖教会に対し反旗を翻したこと。最初こそ、民衆は圧政からの開放に歓喜していたが、騒動から数日も経つと、聖都シュルプの人々は混乱に陥っていた。
アレナ聖教会の魔法騎士団が聖都シュルプの制圧のために全軍出撃したという噂が聖都シュルプまで回ってきたのである。
中には、黙ってやられるだけなんて冗談じゃない!自分も戦う!と、立ち上がる者もいた。
だが、フリーフェイスの呼びかけに応じる者は増えたが、教会軍による粛正を恐れ逃亡する者、自暴自棄になる者も同時に増え、街の治安は一気に悪化したというのが現状である。フリーフェイスの面々は治安の維持に相当な割合を回さざるを得なかった。
そしてちょうど、フリーフェイスの本部で、私達とロードをはじめとする幹部達との会談が行われようとしていた。
「さて、今後の方針について話そうと思うのですが、まずその前に……」
ロードの声で会議は始まった。
「知らぬ者はいないでしょうが、こちらは使徒である妖狐のイーナさん、そして夜叉のアマツさん、そして仲間の皆さんです」
フリーフェイスの幹部達の中には、はじめて顔を合わせる者もいる。少し遅くなったが、私達の挨拶タイムというわけだ。
「ご紹介に授かりました、九尾のイーナです。この度は、多大なるご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」
私は、聖都シュルプの混乱を引き起こした原因である。今は、ただただ申し訳ないという気持ちしか無かった。いても立っても居られなく、ひたすらに頭を下げ続けるしかなかった。
「そんな、使徒様が謝るなんて……あなた方は我々の希望なのです!」
幹部の1人が声を上げる。それに続いて、皆も同様に声を上げた。すると、エンケの村の近くで出会った少年と目が合った。
「お姉さん、あのときに出会った人だよね?」
すると、周囲のメンバーがその少年に向かって言った。
「おい、ディアずるいぞ、お前なんで黙ってたんだ!」
「仕方無いじゃん!その時は使徒様って知らなかったんだし!」
「……さて、本題に戻ろうか。魔法騎士団がこちらに侵攻してくる件だが」
ロードの一声で、騒がしくなっていた会議室が一気に静まった。
「教会は全力で、シュルプを制圧する気らしい。我々ごとな」
「なんでも、使徒様が現れたことも、我々フリーフェイスがながしたデマだという話を流しているらしい」
「教会も混乱していると言うことだろう。叩くなら今しか無い」
「それにしたって、街の中のごたごただけで手一杯だって言うのに……」
議論が続いていたが、メンバーの1人の言葉で、一気に会議室が重い空気に包まれた。そう、フリーフェイスとしても、迎撃に万全の準備が取れないというのが現状であったのだ。
「イーナ様……どうするおつもりなの?」
ルカが、私の耳元で呟いた。個人的には、混乱の原因となってしまった以上、関与しないわけにはいかないと言うのが本音ではあるのだが……同盟やら、妖狐、そして仲間達の意見を無視するワケにはいかない。
ルカを見つめると、ルカはこちらの意図をくんでくれたかのように、力強く頷いてくれた。
そして、テオも、シータも、ルートも、ナーシェも。
彼らにしても、同じであった。理由はどうあれ、教会は先に、イーナとルカに手を出したのである。
「仲間に手を出された以上、俺達もただ見ているというわけにはいかない」
シータが皆を代表するかのように、立ち上がりながら言った。私達の意向は決まった。
あとは……
「アマツ、夜叉はどうする?」
するとアマツは、にっこりと笑いながら口を開いた。
「そりゃもちろん~~私達だって仲間を殺されてるんだしね~~それにもう手は打ってあるよ~~」
思わず、私もアマツにつられて笑みを浮かべてしまった。私達はもう部外者ではなくなってしまっていた。ならば、この国に関与するというのも筋違いというわけではない。私達も戦うべき理由が出来た。
「フリーフェイスの皆さん。私達も一緒に戦います!一緒に教会軍を迎え撃ちましょう」




