65話 Ruler of the World
「イーナ!」
炎が消えると共に、私の身体からも急激に力が抜けていった。ふらついてバランスを崩しかけたが、シータの支えで、私はなんとか立っていた。全身が鋼のように重い。
「ごめん、シータありがとう。後は任せていいかな……」
すると、シータの奥にもう1人、男の顔が見えた。フリーフェイスのロードである。
「イーナさん、後は我々にお任せください」
シータは、ロードの言葉に静かに頷き、こちらに向けて優しい表情で言った。
「大丈夫だ、イーナはゆっくり休んどけ」
その後、私の意識は静かにフェードアウトしていった。
気がつくと、ベッドの上に私は居た。起き上がろうとするが、まだ微妙に身体が重い。すると、私が目覚めたのに、気がついたナーシェとルカが笑顔を浮かべ、こちらへとやってきた。
「イーナちゃん!大丈夫ですか!?」
「イーナ様!目を覚ましたんだね!良かった!ルカ心配してたよ!」
すぐに、記憶がフラッシュバックしてきた。そうだ、途中でどうしても眠くなってきてしまって、そこから……
「そういえば、教会は……?フリーフェイスはどうなったの?」
ナーシェは少し心配そうな表情を浮かべながら、ゆっくりと語り出した。
「イーナちゃん、あのすさまじい力で教会を圧倒したときの事覚えていますか?」
あのとき、体中からすさまじい力がわき上がってきていた。自分自身冷静さを欠いていたのも含めて、受けた苦痛、奴らへの怒り、そして皆の表情……全て鮮明に脳裏に焼き付いている。
「イーナちゃんが、大司教や、魔法騎士団と呼ばれる魔法使い達をやっつけた後、フリーフェイスのみんなを中心に一気に街は制圧されました。ダウンタウンの人達もみんな、あの光景を見て立ち上がって押し寄せてきて、上の住人達も、すでに戦意はありませんでしたから」
聖都シュルプの混乱を、フリーフェイスのメンバーは必死に収めようとしているらしい。その話を聞くと、いたたまれない気持ちで押しつぶされそうになった。過程はどうであれ、この事態を引き起こしたのは私自身である。
そんな私の様子を見かねてか、ナーシェが笑顔で励ましてくれた。
「大丈夫ですよ!イーナちゃんが責任を感じることではありません!遅かれ早かれこうなっていました!たまたまその中心にイーナちゃんがいたというだけの話ですよ!」
「そうだよ!イーナ様のおかげで、ルカも助かったし!一時はどうなるかと思ったけど、いつものイーナ様に戻ってくれて良かった!」
その時、ルカの必死の叫びが私の脳裏で再生された。
――これ以上は、これ以上は……イーナ様がイーナ様じゃなくなってしまう!
私はおそるおそる2人に尋ねたのだ。あのとき、何が起こっていたのかを。
「ね、ねえ……あのときの私どうなってた??」
「明らかにいつもとは違っていました」
ナーシェはゆっくりと、冷静に語り出した。
「確かに、姿形はイーナちゃんそのままでした。でも、雰囲気というか、発しているオーラというか、別人かと思うほどでした。妖しく瞳を見つめていると、何処か違う世界に引きずり込まれそうで……正直怖かったです……」
「あのときなんであんなに力が湧いてきたのか、正直分からないんだ。でも、怒りに身を任せちゃって……使いこなせなくて……みんなに心配をかけちゃったね……ごめんなさい」
「イーナ様!謝らないで!そんな事を言ったらルカが、失敗しちゃったせいだし……イーナ様はルカの為に一生懸命だったの知ってるもん!」
ルカは必死に、こちらを励まそうとしていた。でも、私もルカが命がけで、私を止めてくれたのを知っている。ルカが命がけで、私を守ってくれたのを知っている。
「ルカ、あのとき私を守ってくれてありがとう!」
私がそう言うと、ルカは泣きながら、私の元へと飛び込んできた。
――使徒の力。
それはすさまじいものであった。
瞬く間に、聖都シュルプが陥落した。
神話の使徒様が教会に裁きを下したと、圧政に苦しむ民衆は皆、使徒様の降臨に歓喜した。だが、またその光景を見たものの中には、使徒様を別の呼び方で呼ぶものもいた。聖都シュルプに悪魔が降臨した、と。
聖都シュルプの自治を任命されたマーズ大司教をはじめとして、魔法使いの中から選抜された魔法騎士団が一瞬で灰と化したのである。
我々もまさかこれほどまでの力だとは思ってもみなかった。今後、敵対することがないことを祈るばかりである。まさにアレは、この世界の支配者にすらなり得る力であった――




