63話 断罪と救済
「いきなり死罪ってそんな……!」
「静粛に!被告人発言を慎みなさい!何か異論のあるものはいますか?」
私が必死に声を上げようとすると、ローブの男達が、私とルカの口元に、布を無理矢理あてがい、口をふさいできた。こんなの裁判でもなんでもない。傍聴の人々はニヤニヤと笑みを浮かべていた。まるで、私達の処刑を見世物として楽しみにしているかのように。この国は、教会は、どこまでも腐っているようだ。
「意義無しとのことで、裁判は終了とする」
同じく、口をふさがれたルカは涙目になり、こちらを必死に見ている。だが今となってはどうしようもない。
「執行は明日、断罪の崖にて行う!」
明日……!?そんな無茶苦茶な話があるだろうか。おそらく、この国に来ていた夜叉も同じように言いがかりで処刑されたのであろう。その心中を思うたるや、怒り以外の感情が湧いてこなかった。
ルカとの接触も禁止され、独房で一晩を過ごした。必死に考えたが、この状況を打破する方法は浮かばなかった。残された手段は、みんなを信じること。流石に二晩も帰ってこなければ、それに処刑を見世物にするのであれば、みんなにも伝わるだろう。大丈夫。絶対助けに来てくれる。
ただ一つ、不快だったのが、一定時間ごとに巡回に来る見回りの男達が、皆口々にニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべ、こちらへと罵声を浴びせてくることである。私だけならまだしも、ルカにまで何かしていたら絶対に許さない。
大丈夫だよねサクヤ?
――ああ、皆を信じろ。あやつらなら必ず助けに来てくれる
そして、翌日。私達は、教会の連中と一緒に、断罪の崖と呼ばれる場所に来たのである。切り立った崖の眼下には、聖都シュルプの街並みが広まっている。そして、私達の処刑の噂を聞きつけたのだろうか、処刑場と思われる広場には幾人もの人が集まっている。上品な服に身をまといながらも、皆下品な笑みを浮かべているその様子はまさに地獄絵図そのものだった。
こんな皆に見せつけるような形で処刑をするのか……悪趣味な連中だ……
私とルカは、広場にある十字架の前へと連行された。そして、十字架に腕と足を縛り付けられたのだ。
「イーナ様……!」
今にも、消えてしまいそうな、不安そうな声でルカはこちらを眺める。
「大丈夫、ルカ。みんなを信じよう」
すると、ローブを着た男が周囲の人々へ向けて、大声を上げた。
「皆のもの!きけい!この者どもは、我らが聖なる父アレナ神の使徒を自称した不届き者である。今より、この者どもに断罪と救済をあたえたまえ!」
その声を聞くやいなや、人々が一斉にこちらに向けて、罵声を浴びせながら、小石を投げつけてきた。小石が肌に当たる度に、鋭い痛みが身体に走る。こんな悪趣味な処刑法が今時あるのだろうか。ルカも必死に耐えているのだろう。ただルカの泣き叫ぶ声に、私はもう我慢の限界であった。
「やめろお!ルカには手を出すんじゃねえ!」
必死で暴れるも、腕も足も強固に結ばれていて、全く動きそうにない。絶対に絶対に……絶対に許さない!こいつらだけは!
「ぐぎゃああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああ!!!」
突然、断末魔のような声が広場に響き渡った。その声は次第に奥からこちらへと近づいてきた。広場の皆はパニックになりかけており、議長をはじめとした教会の奴らもうろたえていたが、私には分かる。何が起こっているか。血しぶきと共に、私達の救済の時がやってきたのだ。そして、彼らへの断罪の時が。
「遅くなったな。すまなかった」
その声は今までに聞いたどの声よりも、私に安堵を与えてくれた。だが、その声は今までに聞いたどの声よりも、怒りに満ちていた。そして、私が思っていた以上の援軍を引き連れてきてくれたのである。
「お前ら、よくも俺達の仲間に手を出してくれたな」
「イーナちゃんルカちゃん!大丈夫ですか!」
「イーナ~~まだ生きてる~~?」
「ニャ!ボクらが来たからにはもう大丈夫なのニャ!」
そして、
「イーナさん。ルカさん。私達の争いに巻き込んでしまったこと、詫びる言葉もございません。せめて、あなた方のために、我々フリーフェイスも立ち上がりましょう」
ロードを先頭に、フリーフェイスのメンバー達も一緒に来てくれたのである。オルガも剣を持って応援に駆けつけてくれたのが見えた。あの、エンケの村の近くで出会った2人の男達もメンバーにいるのが分かった。
みんなありがとう……
広場の混乱を尻目に、シータとルートが私達の元へと駆け寄ってくれ、すぐに、私とルカの手足を縛っている紐を外してくれた。
「イーナよ、これを。使う元気はあるよな?」
シータは私の相棒を優しく差し出してくれた。9番地区で囲まれたときに、投げ捨てた私の相棒。これがあればもう負ける気はしない。
シータから相棒を受け取ると、全身に力が溢れてきた。おそらく魔鉱石の力だけではなく、この数日間の間に奴らへとたまった怒りも含まれているのだろう。今なら、どんな相手にも負ける気がしない。今までに無いほどの力を感じる。
「おい、お前ら!」
私の声に、議長をはじめとした、教会の奴ら、そして、私達をあざ笑っていた民衆が動揺した。その瞬間、敵味方含め、全員が私を見つめているのが分かった。まるで一瞬時が止まったかのような感覚だった。
シータや、ルート、ナーシェもテオも、今までに見たことのないような表情で、瞳を大きく開いて、こちらをじっと見ているのが分かった。助けに来てくれて、本当にありがとう。信じていたよ。
ルカはぼろぼろに泣きながらも、そして傷つきながらも、皆と同じように私をじっと見ていた。ごめん、ルカ……私のせいで、こんな目に合わせてしまって……
そして、アマツだけはいつもと変わらないような様子で、いや、同じように見えたが、そうではない。その表情は今までに見たことがないくらいに、楽しそうに笑っている様に見えた。まるで新たな修羅の誕生を喜んでいるような様子で。
フリーフェイスの面々がこちらを見て、膝から崩れていった。さっきまで私達をあざ笑っていた連中も同様に、皆崩れ落ちて、跪いている。
――おい、イーナ……そち……
そして、その止まってしまった時を引き裂くかのように、私は叫んだのだ。
「今から私が、お前らに断罪と救済を与えてやる!」




