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61話 情報を制するものは戦を制する

 私達がバーフォックス・イヤーで働き始めてから3日目のことであった。大分仕事にも慣れてきて、裏方でお酒の準備をしていると、アリアが興奮した様子で話しかけてきた。


「イーナちゃん!あの方が情報屋さんの1人よ」


 ついに来た。私は気合いを入れて、情報屋の元へと向かう。アリアもついてきてくれるとのことで非常に心強い。


「初めまして!イーナと言います」


「お、新しい子か。可愛いね!よろしくー」

 

「そうなの。彼女、何でも探してることがあるらしくて、どうしても情報屋さんに会いたいって、今うちで働いているのよ」


 アリアがフォローしてくれた。すると、情報屋の男はこちらに興味を持った様子で酒を飲みながら口を開いた。


「ほう、お嬢ちゃん、一体どんな情報が欲しいんだい。人探しか?それとも……」


 いきなり結論を言ってしまっても良いのだろうか。それにどこまで言って良いものなのだろうか。少し悩んでいると、アリアがすかさずフォローしてくれる。


「大丈夫よ、イーナちゃん。彼は信用できるわ。うちの常連さんだし、いつもうちの子達にもよくしてくれているの」


「そうだぞ、まあちゃんと対価はいただくがな」


 アリアの言葉に、情報屋は冗談っぽく笑いながら返答した。


「ありがとうございます。実は今、ある人を探していて……」


 言葉を慎重に選びながら、私は話を続けた。


「実は、私シャウン王国から来たのですが、仕事でこちらに来ていた知り合いが行方不明になってしまって」


「シャウンからきた女の子とは珍しい。ん……まてよ。シャウンか……なるほどな……まさかな……」


 情報屋は少し考えた後に、何かを思いついた様子でぶつぶつと呟いていた。そして、しばらくの後に、またこちらに向けて、語りかけてきた。


「お嬢ちゃん、何となく察しはついた。俺の想像したとおりの話ならここでは少し話しづらい。詳しくは明日話そうじゃないか。ここに来てくれ」


 そう言って情報屋は一枚のメモ用紙をこちらに渡してきた。そして、テーブルに置いてあった酒を一気に飲み干し、私達に向けて笑顔でいった。


「今日は来て良かったよ、なにやら面白い話をいっぱい仕入れられそうだしな……」


 そして、そのまま情報屋は颯爽と店から出て行った。こちらに不敵な笑みを浮かべながら。情報屋を見送った後、アリアが嬉しそうな顔を浮かべながら口を開いた。


「よくわからないけど……イーナちゃん!良かったわね!情報屋さんが見つかって!でも、少し寂しくなっちゃうな……」


 そのまま、特に何事もなく、その日の勤務を終えた後、私達は店長とアリアに礼を告げ、店を立ち去ったのだ。店長もアリアも名残惜しそうではあったし、私も寂しさが無いといったら嘘になる。だが、こればっかりはどうしようもない。立ち去り際に、アリアが素敵な笑顔でこちらに向けてエールを送ってくれた。


「イーナちゃん!ルカちゃん!頑張ってね!そして、またいつでも待ってるわ!」


「ありがとう!店長、アリアさん、本当にお世話になりました。また、会えること楽しみにしています!」


 ルカも隣で、ぺこりと深く頭を下げていた。ルカにとっても、貴重な経験になったのであろう。なかなかこんな経験なんて出来ないしな。本当に感謝しかない。


「イーナ様!楽しかったね!ルカまたいつか来たい!」


「そうだね。またいつか来よう!」


 そして、私達は意気揚々と宿に戻った。


 明くる日、私達は情報屋から貰ったメモに書いてある場所へと向かったのだ。9番地区にある細い路地裏。案内書きでもなければ絶対にたどり着けないであろう。これも店長やアリアのおかげである。


「ここかな」


 案内に書いてある家の扉を叩くと、昨日の情報屋が顔を出した。


「おう、来てくれたのか。中へどうぞ」


 情報屋の言葉に従って、ルカと共に中に入る。建物の中は薄暗く、大量の本が並んでいた。そして、情報屋は部屋の奥にあるテーブルへと腰掛け、こちらに向けて不敵な笑みを浮かべながら問いかけてきた。


「さて、早速だが本題に入ろうか。実は、俺の情報では、今シャウンから妖狐や夜叉を名乗る連中が、この国に来ているという話があるのだが……」


「もうすっかりお見通しというワケね……」


 そこまで知っているのなら、今更隠しても仕方が無いだろう。それにしても、情報屋のネットワークは恐ろしいものだ。私は、情報屋に対し、ここに来た目的を話した。


「なるほどな、お前さんの話の真実のほどは分からないが、まあ信じることにしよう。確かに、夜叉がこの国にいると言う情報は俺にも入っていた。実際に接触したことはないが」


「なら、情報屋さん何か知っているの!?」


「ああ、実は先日聖都アレナにて、処刑が行われたらしい。何でも神を自称する者に対しての制裁だとのことだ」


「まさか……」


 情報屋は腕を組みながら、淡々と語っていった。


「ああ、もし、お前さんの話が本当だというのなら、処刑されたやつ、そいつが夜叉である可能性は大いにありうる。教会としても、都合の悪い存在は早く始末したいだろうしな……」


「でも、この国では夜叉は使徒のはずじゃ……」


「だからこそ都合が悪いんだよ。ただでさえ、国内の不満が高まっている。そんなときに使徒が実際に現れたともなれば、教会側にとっては民衆の心が離れる危険性の方が高い。お前さんもあんまり言いふらさない方が良いぞ。この街の噂の拡散速度を舐めない方が良い」


 そしてもう一つ、懸念すべき事項が出てくる。もし仮に、さっきの話が真実だとしたら……夜叉をも超す力を持っている可能性が高いと言うことだ。私は、情報屋に探りを入れてみた。


「ねえ、情報屋さん、私の知っている夜叉であれば、普通の人には戦闘で劣ることはまずないとは思うのだけど……」


 すると、情報屋は少しあきれた様子で、こちらに忠告するように口を開いた。


「お前さん、本当にこの国の事何も知らないんだな……なぜ、教会がこんな有様の中でも力を持ち続けているか。あいつらは魔法使いだ。特に最近では魔法の力を強化する術まで身につけたという。だからこそ何も力を持たない市民は従うしかないんだ。必死に神に祈りを捧げながらな。そしてこれもあくまで噂なのだが……力を持った教会は他国への侵略を考えているという話もある」


 そういえば、アレナ聖教国は帝国とも繋がっていたとの噂もある。あの噂が本当だとすれば、より強い力を使いこなしていても不思議ではないだろう。最近力を増してきたと言う情報からも、帝国との何らかの技術的つながりがあった可能性は高い。


「ありがとう情報屋さん。思ったよりも状況が悪そうだね……」


 情報屋は少し心配そうな様子で言葉を返してきた。


「俺から言えるのもこのくらいだ。俺も今の教会は気に食わん。今の奴らはただの権力の塊だしな。そして、お前さんがおかれている状況はお前さんが思っているよりもずっと悪いと言うことは忘れない方が良い。油断はするなよ」


「気をつけるよ、ありがとう情報屋さん。あと、お礼はどの位渡せばいい?」


 私がそう言うと、情報屋は笑いながら答えた。


「使徒様からはお礼なんて受け取れないぜ。それこそ罰当たりってもんだ。俺は信仰深いアレナ聖教徒だしな。まあ、面白い話を聞けたって事で十分よ。どっちに転ぶかは分からないが、確実に運命の歯車は回っている。俺はこの国の行く末を静観させてもらうさ」


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『Re:わたし、九尾になりました!』
わたし、九尾になりました!のリメイク版になります!良かったらまたお読み頂ければ嬉しいです!





『memento mori』
新作になります!シーアン国のルカの物語になります!良かったらよろしくお願いいたします!




FOXTALE(Youtube書き下ろしMV)
わたし、九尾になりました!のテーマソング?なるものを作成しました!素敵なMVも描いて頂いたので、是非楽しんで頂ければと思います!

よろしくお願いいたします。
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