60話 お酒には妖狐を添えて
「イーナ君、ルカ君、お疲れ様!やはり私の目に間違いはなかったようだ!今日の給料だ。今日は売り上げも良かったから少しサービスしておいた。どうだろう!ここで働く気はないか!」
バー・フォックスイヤーで働くことにした私達。最初は、戸惑いもあったものの、大分接客にも慣れてきた最後の方には、なかなかにお客さんからのウケも良かったようで安心した。ルカもお客さんから大人気だったようで、楽しめたようである。勤務終了後、私達は店長とアリアと話をしていた。
「店長さん、今日はありがとうございました。ただやはり、私達にはやることがありますので……」
そう言うと、アリアは残念そうな顔を浮かべ寂しそうに口を開いた。
「そう……イーナちゃんやルカちゃんなら、もっと人気になれると思ったのに……」
「ところで、情報屋には会えたのか?」
店長が問いかけてきた。私達の事情を何も知らされていないアリアは不思議な表情を浮かべて、私達の方を眺めていた。
「今日は何も収穫無しです……でも貴重な経験をさせて頂いた事感謝しています」
何人もの客と話したが、情報屋とは会えなかった。そんなにスムーズに行くとは思ってなかったが、少し期待している自分もいた。残念。
「そうか……なら、どうだろう、情報屋が見つかるまでの間だけでもいいから、うちの店にいないか?情報を集めるなら、人の集まる場所で待っていた方が効率が良いだろう。それに、なかなかに客からも好評だったしな……なあ、アリア君?」
「そうですね!うちで働いてくれるというのなら大歓迎です。イーナちゃん達は情報屋をお探しなのですね!もし、情報屋が来たときには伝えるので、それまではよろしくお願いします」
アリアは先ほどまでと異なり、嬉しそうな様子で頭を下げた。
「いいんですか!こちらこそよろしくお願いします!ただ……」
そんな勝手が許されるのだろうか、そんな虫のいい話があるのだろうか。少し不安になった。
「ただ……、身元も分からないような私達にどうしてそこまで……?」
すると、店長とアリアは笑い出した。
「そんな事を気にしていたのか。この街の寄せ集めの街だ。皆生い立ちもなんのために働いているかも分からん。それぞれこの街に来た事情も違うだろうが、それでいいじゃないか」
「そうですよ、それに、うちの店は可愛い子なら誰でも大歓迎なのです」
なんかアリアからもナーシェと似た様なものを感じた……だがこんなありがたいことはないだろう。おそらくこの街はいろんな人が集まっていて、それぞれいろんな事情を抱えていて、そこは詮索しないという約束なのだろう。むしろドライな方がやりやすい。
「ルカ、良いよね?」
そう言うとルカも、楽しそうな表情で頷いた。店長は笑いながらこちらに確認をするように問いかけてきた。
「もちろん、さっきも伝えたが、するべき事が見つかったなら、その時はいつでも君たちのするべき事に戻ってくれてかまわない。それまでの間、お願い出来るかな……」
「ありがとうございます。明日からもよろしくお願いします!」
………………………………………
「すっかり夜も遅くなってしまったね……」
「でもルカ楽しかったよ!いろんなお話出来たし、みんなルカを可愛いって褒めてくれたし!」
「ま、まあ……ほどほどにね……」
ルカと一緒に宿へと帰った。ルカは楽しそうであったが、この環境に慣れすぎるのも良くない。もう夜も大分遅くなってしまった。みんな心配してるかな……
「イーナちゃん!ルカちゃん!心配してたんですよ!全然帰ってこないから……!」
宿のロビーでみんな私達の帰りを待っていたようだ。宿に入った私達を見つけるやいなや、ナーシェが泣きながら飛び込んできた。
「ごめんね……ちょっと事情があって遅くなっちゃった」
「ずいぶん遅かったね~~何か分かった~~?」
椅子に座ったまま、アマツがいつもの様子で聞いてきた。
「今日は何も。でも、アテは見つけたよ!明日からもしばらく通うことにする!」
「それはよかった。こっちも収穫無しだ。なかなか上手く行かないものだな」
シータが大変疲れた様子で静かに口を開いた。すると、泣きながら抱きついていたナーシェがなにやら不思議そうな様子で私に聞いてきた。
「……?なんだかイーナちゃん良い匂いがしますね……いつもと少し違うような……」
怖。ナーシェ怖。ストーカーかよ!と思わず突っ込みそうになったが、なんとかこらえる。
「あのね!ルカ達!9番地区のバーでおじさん達とお話しするお仕事をする事になったんだよ!可愛い服を着て狐の耳をつけて!」
ルカの発言に皆が一斉に困惑の表情を浮かべながらこちらを見る。アマツはニヤニヤしながらこちらを見ているし、シータは頭を抱えている。テオは意味がよくわかっていないようだ。ルートは表情一つ変わっていなかったが、持っているグラスをブルブルと小刻みに揺らしていた。そして……
「そんなふしだらな!私は絶対許しませんからね!!」
ナーシェはと言うと、泣きながら怒っている。よくわからない事になってしまった。あまりに騒ぐものだから周囲からの視線も痛い。宿の人が静かにしてくれと言うジェスチャーをこちらにむけてしているのがわかった。申し訳ない。
「ちが……これには事情があって……」
「いーえ!そんなお店で働くなんて!許せません!私がお客になって2人の安全を見に行きます!」
それでいいのかよ……
「さあナーシェ~~イーナのことだから大丈夫だよ~~あんまり騒ぐとみんなに迷惑がかかるよ~~私達は私達の仕事をしよう~~」
そう言いながら、アマツは混乱状態のナーシェをなだめながら、部屋へと連れて行ってくれた。こっそりとこちらにウインクをしながら。ありがとう、アマツ。後で何かお礼はします。
「お、おい、イーナ本当に大丈夫なんだろうな?」
ナーシェがアマツに連行されて部屋に戻った後、静寂を破るように、ルートが冷静を装ってこちらに問いかけてきた。だが、その声は見事に裏返っていたから、動揺が丸わかりであった。
「まあ、イーナのことだからちゃんと考えがあるんだろう。ルート、テオ、イーナを信じて見守ろうじゃないか」
ありがとうシータ。本当に良いやつだ。みんなにバーで働くことになった事情を説明すると、シータもルートもテオも理解してくれた。心配は相変わらずされたが、それは仕方が無い。
ロビーでの話が終了した後、私達はそれぞれの部屋へと戻った。明日こそは、何か良い情報をつかめるように……そう思いながら、私とルカは眠りについたのだ。




