59話 フォックス・イヤー
「ルカ、離れちゃ駄目だよ」
「大丈夫だよイーナ様!情報屋さんを見つけに行こう!」
私とルカは再び9番地区へと来ていた。
「お嬢さん達、うちのお店で働かない?きっと人気になるよ!体験だけでも良いからさ!」
少し小太りのおじさんが笑みを浮かべて話しかけてくる。おじさんの奥にはバーと書かれた看板がきらびやかに光っている。
「風俗ならお断り」
ちょっと不機嫌な様子でおじさんに冷たく返すと、おじさんはまだ諦めずに、勧誘をしてきた。
「違うよ、ただの飲み屋さ!お酒をついで話を聞くって言うだけ!簡単だろ?」
「ごめんね、私達今ちょっと情報屋を探しているところだから……」
そう言って断ろうとすると、おじさんは笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「ならちょうど良い。お客の中にも情報屋が沢山居る。うちの店は価格も高いからな……下品な連中はこないのさ」
ちょっとだけ心が揺らいだ。このまま闇雲に探すよりは、体験入店でも入ってみれば、なにか分かるかも知れない。でもルカを危険な目に会わせるわけにはいかない……
「本当に変なことはしない?」
「大丈夫さ!神に誓って!プレイだのそういうのはない!!」
「イーナ様?プレイって何?」
純真なルカは不思議そうな顔を浮かべている。このまま純粋に育ってくれるのを願うばかりである。
「とりあえず体験だけでも大丈夫?今日だけとか……」
「大丈夫さ、大丈夫!バー・フォックスイヤーは君たちを歓迎するよ!」
ん……?フォックスイヤー……?
おじさんについて、お店に入ると、中は高級そうなラウンジといった雰囲気であった。特にいかがわしいとかそういった様子はない。ひとまずは安心である。ただ一つ気になる点といえば……
女の子達が狐耳をつけているのだ。
「わーイーナ様!見て!見て!みんな可愛い!」
「狐耳……」
「この店の売りは狐耳だ!君たちにも狐耳をつけて接客してもらう!」
「あら!店長おはようございます!新しい女の子ですか!可愛い!!」
お店に入った私達に気付いた女の子の1人が、こちらへと向かってきた。ちょっと露出の多い着物を着た大人っぽい美人さんである。頭にはしっかりと狐耳がついている。
「そう、今日体験入店をしてもらうことになった……えーと」
「イーナです!よろしくお願いします!」
「ルカだよ!お願いします!」
「イーナちゃんとルカちゃんね!私はこの店のチーフをやっています、アリアと言います!今日一日よろしくお願いします」
そう言うとアリアは深く頭を下げた。つられるように、私達も頭を下げる。
「イーナ君とルカ君!後詳しいことはアリア君に聞いてくれ!体験でもきちんと給料は払うからな!」
そう言うと、店長は再び外へと出て行った。お店のことはチーフのアリアに任せているようだ。
「じゃあ、まずみんなに挨拶しに行きましょうか!」
アリアに連れられて、女の子達の所を順番に回った。誰も彼もがみんな美人であり、これは高級店というのもうなずける室の高さであった。
「これで、挨拶は終わりかな!お疲れ様!休憩がてら裏へ行きましょうか!2人のコスチュームを準備しに行きましょう!」
お店のバックヤードも、きちんと整理されていて綺麗であった。正直、9番地区はもっと汚い場所だと思っていたので驚いたが、この店に限っては大丈夫であろう。部屋に入ると、アリアは片隅にある箱を漁り始めた。
「これくらいかな~~うーん……」
アリアはふりふりのついた着物を次から次へと引っ張り出している。その様子を見てルカは目をきらきらさせている。大丈夫だろうか……
「ルカちゃん!似合うーー!」
「イーナ様!どう?」
アリアが出してきたコスチュームに袖を通したルカはいつも以上に可愛かった。というか可愛いという感想以外出てこなかった。
「じゃあ次はイーナちゃんね!」
そう言うと、アリアは怪しげに目を光らせながらこちらへと迫ってきた。ルカまでもが目をぎらぎらさせながら迫ってくる。
「ちょ……ちょ……ちょっとま……」
――諦めるのじゃイーナ
…………………………………………
「イーナちゃん!可愛い!!すごく似合ってるわ!」
「そ……そうかなあ……?」
「そうだよ!イーナ様!可愛いよ!」
露出が多い服なんて着たことなかったし、落ち着かない……まあ、みんな褒めてくれるし大丈夫だろうきっと……ちょっと恥ずかしいというか大分恥ずかしいけど……慣れるよねきっと。うん。
一通り、お酒の説明を受けた後、私達の仕事が始まった。日も大分傾いてくると、お店の方も客が増えてきた。最初は少し怯えながらも、先輩の女の子達と一緒に席についてお酒をついだりお話をしたりとしているうちに、だんだんと接客にも慣れてきた。ルカはと言えば、もうすっかりお客さんからも女の子達からも人気になっていたのだ。やるなルカ。こちらも負けるわけにはいかない!
そんなこんなで、私達のバー・フォックスイヤー体験入店の一日はあっという間に終わったのである。




