57話 魔法もハサミも使いよう
「昔から魔法使いが迫害されてきたのは知っていますか?魔法使いはごく希に生まれる、いわば突然変異。人々はその力を恐れ、魔女狩りなどを繰り返してきました」
魔女狩り。その犠牲になった大いなる先人が居る。人と妖狐の有効を目指して、道半ばで心をおられてしまった先人。他ならぬリラである。
「そんな中、魔法使い達は、人里離れた地に自分たちの国を作りました。それがアレナ聖教国です。全ては人間を支配するために……それがアレナ聖教会の目的です」
「魔法使いによる支配……」
「私も、アレナ国では名家と呼ばれている家の出身です。ですが、私は支配だの復讐だの、そういう考えは間違っていると思うのです。魔法使いであろうと、そうでなかろうと、同じ人間です。だからこそ、手を取り合って生きていくべきなのです」
おそらく、ロードも私やリラと同じ理想を持っているのだろう。だからこそ、聖教会に対抗する道を選んだのだろう。
「でも、どうやって?」
「力に頼るだけでは、同じことの繰り返しです。ですが、力に対抗するためには力が必要です。だからこそ、本意ではありませんが、民を助けるという正義を掲げ義賊のような行為を行っています。理解しろとは言いませんが、我々にはこうするしかないのです。何かを変えるためには痛みを伴うものなのです。」
それほどまでに、この国では聖教会の持つ力が大きいのであろう。ロードの表情からも、その苦悩がうかがえる。何かを変えるためには痛みを伴う……その言葉は重いものであった。
「もちろん、協力してくれなんておこがましいことは言いません。あなた方にはあなた方の事情があることは分かっています。ただ、使徒であると言われている、あなたがたに縋っているだけなのかも知れませんね」
この廃れゆく国の唯一の救いは信仰であるという。それほどまでに使徒という存在はこの国においては大きなようである。
「神は世界に危機が訪れようとするとき、10人の使徒を引き連れて救世に来ると言われています。そしてあなた方がこの国に現れた……」
「そんな……大げさな……!」
「いえ、確実に運命の歯車は回り出しているのです。私達がここまで活動してきたのも無駄ではなかった。それが知れただけでも救いなのです」
私としては、たまたまこの国に来ただけなんだけどな……そんなプレッシャーをかけられても困ると言うのが正直な所ではあったが、あんまり悪い気もしなかった。でもこの際、はっきりしておいた方が良いだろう。
「申し訳ないけど、私達はこの国の内情に関与するつもりはないよ。この国に来た理由は同盟関係にある夜叉の仲間の消息をおってのこと、そして世界で流行っている、いろいろな病気について調べること。それだけは分かって欲しい……です」
申し訳なさから、最後少しだけ語尾が弱くなってしまったがなんとか言い切った。この国の内情の問題はこの国の中で解決すべき話であるし、べつに私達がどうこうする義理もない。仮に神話で救世主と崇められていてもだ。ここで私達が特段の理由もなく介入するようなことがあれば、それこそ、私達のエゴになってしまう。
「分かっています。せめて、あなた方に協力だけはさせて頂きたい。あなた方のお仲間である方々、その消息についてはこちらでも調査をしてみます。何か分かったらお伝えします」
ロードは落胆の表情など一切見せずに、柔らかな表情で言った。そして、少し険しい様子で続けたのである。
「イーナさん。あなたは治療でこの国を回っていると聞きました。それだけでも、我々にとって救いである事は間違いないのです。ですが、白の十字架には気をつけてください。あなたの国では問題はないでしょうが、この国においては白の十字架も大きな権力の一つ。この国で医療を行うというのであれば、いずれ相まみえることもあるでしょう……」
白の十字架が権力を持っているのであれば、この国の中で好き勝手治療をされるのは、確かに面白くはないはず。目をつけられる可能性は大いにありうる。でも、目の前に疾病に苦しむものがいる以上、見過ごすわけにはいかないと言うのも私の信念である。
ちらっとナーシェを見ると、ナーシェも力強いまなざしを向けている。以心伝心ではないが、やはりそこは譲れないと言うのは私もナーシェも一緒のようだ。
「そうなれば、いつかは一緒に戦う時が来るかもね」
私は冗談めかしてロードに向けていった。するとロードも笑いながら答えた。
「そうならない日が来ることを祈っています」




