56話 フリーフェイス
アレナ聖教国西部に位置する聖都シュルプ。オルガに聞いたところ、アレナ聖教国の都市は聖都アレナを中心に4方向に4つの聖都があるらしい。中でも一番教会の勢力が弱まっているのが聖都シュルプだとのことだ。というのも、この街はフリーフェイスの拠点でもある。フリーフェイスは、若者を中心に教会の統治に不満を持った民達に人気を博しているらしい。
「イーナ!崖の上にでっかい聖堂が見えるだろ?アレがシュルプ大聖堂だ」
聖都シュルプは中央を巨大な崖で隔てられていた。崖の上は裕福なアレナ聖教徒達が住んでいて、優雅な建物が並んでいたが、今私達の居る崖の下はまさにスラムと言う言葉がぴったりであった。街の人々の服はぼろぼろにすり切れていて、皆どこかあきらめの表情を浮かべているように感じた。
「聖都とは言っても、ダウンタウンはこんな有様さ……それでいて、最近は病気まで流行りだしている。教会は白の十字架という医師団を派遣してくれるけど、お金がないんじゃ満足に治療もしてくれない」
「でも、シャウン王国とかで見た白の十字架は、みんな真面目に活動していたよ」
私がそう言うと、オルガは唇をかみしめながら言った。
「教会は教徒を増やそうとしている。国内が不安定だから、信者を増やそうとしているんだろう。甘い蜜を吸わせて勧誘し、国内はというとこの有様だ……」
みなに沈黙が流れる。正直私も、この目で見るまでは、ここまで国民が貧しい暮らしをしているとは夢にも思わなかった。
私達は、オルガに一件の古びた酒場へと案内された。酒場に入ると、オルガは申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「イーナ達、べつに、みんなを疑っているというわけじゃないんだが……アジトの詳細の場所については言えないことになっているんだ。ちょっとここで待っていてくれないか?」
「もちろん、事情は分かってるから大丈夫だよ!」
私の言葉にオルガは笑顔を浮かべると、酒場の里へと姿を消した。
「それにしても、アレナ聖教国の内部がこんな事になっているとは想像もしていませんでした……」
ナーシェが神妙な面持ちで口を開いた。するとナーシェの言葉にルカが続いた。
「イーナ様!オルガのために、私達になにかできることはないのかな……」
ルカの気持ちはよくわかる。だが、他国の事情に首を突っ込むというのも筋違いな気もする。そんな事を考えていると、シータがルカに言い聞かせるように優しく話しかけた。
「ルカ、気持ちは分かるが……この国の問題はこの国の中で解決するしかないのだ」
「そうだよ~~こういうのに関わると碌な事にならないから~~」
アマツも飄々とした様子でシータに続いた。ルカはなにやら納得していない様子である。
「ルカ、私達に出来る事は、医療しかない。治療が必要だというのならそれを提供することは出来る。でも、それしか出来ないんだよ。ここに来た目的は夜叉の消息を探すことであって、国を治す事じゃないからね」
「まあ、俺達には関係のない話だと言うことだ」
ルートは逆に全く興味のない様子である。このくらいはっきりしていた方が、この国では楽なのかも知れない。
それからしばらくの後、オルガは数人の若者を連れ、酒場へと戻ってきた。
「待たせたな!フリーフェイスの幹部のメンバーを連れてきた!」
「オルガからお話は聞きました。ロードと言います。以後お見知りおきを……」
ロードと名乗る男性は、すっと手を差し出してきた。見た目にも言動にも知性というか余裕の様なものが溢れており、まさにカリスマという言葉がふさわしい好青年であった。真っ直ぐな瞳の奥からは強い信念が溢れており、庶民から人気が出るというのも納得出来た。
「私はイーナといいます。こちらこそよろしくお願いします」
差し出された手を握り替えしながら、挨拶をすると、ロードは驚きの表情を浮かべながら口を開いた。
「あなたは……やはりただ者ではないようですね……」
「手を握っただけでわかるの?」
そう聞くと、ロードはゆっくりと頷いた。この時、私はロードに底知れぬ恐ろしさのようなものを感じたのである。まるで、全てを見透かされているような。
ロードの周りのメンバーも自己紹介をしていたが、正直何も覚えていなかった。それほどまで、ロードの事を考えてしまっていたのである。この男は何者なのだと。
「イーナ~~あの男はなかなかにやばいよ~~」
アマツが私の耳元でこっそりとささやいた。おそらく、アマツもロードに対し、何か感じるものがあったのだろう。
するとロードは、自ら納得したように深く頷き、静かに口を開いた。
「あなた方は信頼出来る方です。良ければ私どもの本部へと案内しましょう。ここでは、話しづらいこともあるでしょう」
そう言うと、ロードはにっこりと笑っていた。全て見透かしているというようなロードの表情に、悪魔と対面しているような恐怖すら覚えたのである。
だが、知的好奇心には人は勝てないものである。だからこそ私はついていくという選択肢を選んだ。
フリーフェイスのアジトは酒場から少し離れたところにあった。古びた路地裏の片隅に、それはあったのである。
「さて、ここなら大丈夫でしょう。イーナさん、あなたは何者なんですか?それに、他の皆さんも、人間ではないのでしょう」
「そうだけど、どうして、そこまで分かるの?」
私の問いかけに、ロードは笑いながら答えた。
「それは、魔法使いだからです」
笑いながら言うものだから、一瞬あっけにとられてしまった。だが、ロードからはなにやら常人では考えられないような力を感じていたし、おそらく本当なのだろう。
「あなたも魔法を使えるのでしょう?」
私はロードの言葉に静かに頷いた。正直人間にここまで見透かされたのははじめてだったので驚きが大きかった。
「ロードさん、あなたなら信じてくれると思いますが、私は九尾です。それにみんなも……」
そう言って、仲間達を順番に紹介していった。オルガをはじめとしたフリーフェイスのメンバー達は、驚きを隠せないような様子であったが、ロードは驚きの表情など全く見せずに、微笑みながら聞いていた。
「やはり……ただ、九尾というのは驚きました。神話にいた妖狐、そして夜叉……これこそが神のご縁なのかも知れませんね」
「ロードさん、あなたは魔法使いと言ったよね?」
今度は私がロードに質問する番である。するとロードはこちらの聞きたいことが全て分かっているかのように、語り出したのである。




