51話 エゴサーチ
同盟の発足から約1年、私とナーシェは学会へと参加していたのである。連邦中から勉強熱心な医者達が集まる学会。そこである研究の成果発表を行っていたのだ。
「東国で流行りつつある病、その病に効く薬を開発しました。」
そう、私達はついにワクチンを完成させたのである。大蛇の細胞で増やしたウイルスを用いて、何回も失敗を繰り返した。そして、注射しても発症しないウイルスが完成した。
「この薬を打つことによって、病気にかかることを未然に防げます」
私の言葉に、聞いている人々がざわつく。
未然に防ぐだと?そんな事が可能なのか?
あえて病気にかかるとは……そんな治療法があったとは……
私達の発見をまとめると2つある。
一つは、ワクチンそのものの製造に成功したこと。
そしてもう一つは、ウイルスを増やせる培養細胞の発見である。
この発表を契機に、もう一つ大きな変化があった。王立医学学校からスカウトが来たのである。
「イーナさん、是非うちの学校で教鞭を取って頂けませんか?」
つまり、教授にならないかという誘いである。非常に魅力的な話ではあるが、丁重にお断りをした。理由はいくつかあったが、教授のポストに就けるほど、しっかり研究をしているわけでは無いし、何よりこれ以上いろんな立場に縛られるのは避けたいというのが大きなところである。
お断りをする代わりに、私は大蛇の細胞を元に増やした細胞を学校に提供した。私達だけが使うよりも、もっと研究に熱心なものたちが使えば医療の進歩も早いだろう。
「イーナちゃんらしいですけど……なんだかもったいない気もしますね!」
ナーシェが笑いながら言った。
「九尾の立場が一番大切だからね!それよりもナーシェこそなんで断ったの?」
スカウトを受けたのは私だけではない。同じく一緒に研究をしたナーシェもであった。
「私はイーナちゃんのそばにいたいのが一番ですからね!」
ナーシェは笑いながら言った。なにやらとんでもない事を言っているような気もするが気にしないことにしよう。
ナーシェと共に雑談をしていると、ミドウとアマツがやってきた。
「イーナよ聞いたぞ、お前またとんでもない事をやったんだってな!」
「久しぶり~~イーナ~~!元気してた~~?」
「久しぶりですミドウさん、アマツ。今日いらしたのはどんな用事ですか?」
ミドウとアマツが揃ってくる時は大抵何か用事がある時である。私は、彼らの来訪の目的を尋ねた。
「少し気になることがあってな」
「気になること?」
「アレナ聖教国のことだよ~~」
アレナ聖教国。連邦に属しない中立国であるらしいが、不穏な噂もいくつかある。ただ、連邦に属していないということで、なかなか情報も入ってこないということだ。そもそも4神同盟ができたのも、この国が起因している。
「実はアレナ聖教国に調査に向かわせてた部下と連絡がとれなくなった。我々としてもこのまま放置しておくわけにはいかぬ。アマツが向かうと言ってくれているが、イーナにも一緒に行ってもらえないかというお願いに参った」
ミドウの言葉にアマツは飄々とした態度で口を開いた。
「私は大丈夫って言ってるんだけどね~~」
さらにミドウは続けた。
「特に東国の方は流行り病が多くあると聞く。そのせいで治安が悪くなっているという事情もあるし、不安から宗教信仰が盛んというわけだ。アマツ1人よりは医者であるおぬしらにも同行してもらえば安心ということでお願い出来ないだろうか?」
「アマツが行くと言うことは、危険が伴うということですか?」
聞くまでもなくわかる話ではあったが、一応ミドウに確認をした。
「正直、どんな状況なのかまだ分からないとしか言えん。ただ、夜叉の者と連絡が取れなくなったということは、少なくとも何らかの原因があることは間違いない。もし人間が原因と言うことであればかなり危険を伴うことになるかもしれん」
危険が伴うと分かっているところにわざわざ向かうというのは抵抗がないわけではない。だが、今や同盟がある以上、夜叉の頼みを無下にするわけにもいかないし、何より、また新しい病気と出会うかも知れない。どちらにしても、アレナ聖教国は元々興味があったし、私はアマツと共に行くことを決めた。
「分かりました、ただ少しだけ準備をする時間をください。一週間後に出発ではいかがでしょうか?」
「大丈夫だよ~~イーナ~~またよろしくね~~」
「留守の間は俺が責任を持って病院や妖狐のことを見ておく。すまないがよろしくお願いする」
ミドウは深々と頭を下げた。
次の日、私とナーシェはフリスディカにある王立学校の図書館に来ていた。目的はなにかアレナ聖教国に関する資料を探すことである。これから、しばらく滞在・調査する国である。先にある程度調べておく必要がある。
「イーナちゃんこれなんてどうですか!」
ナーシェは一冊の古い本を持ってきた。いつからここにあったのだろうか、それも分からないほどにその本はぼろぼろであった。
「アレナ聖教について書いてある本みたいですね!」
分厚くて読む気が失せそうだが、そんな事を言っていても仕方が無い。そっとページをめくるとやはり中は文字がびっしりと敷き詰められている。見た目からわかるように、破れていて読めないところも多い。
「うえっ……」
「読み応えがありそうな本ですね……それにぼろぼろです……」
それでも少しずつ読み進めていく。えーとなになに……
最初はアレナ聖教の歴史について書いてあるようだ。唯一神アレナのもとに……こういう話はなかなかに苦手である。
しかし、本を読んでいくと、私達は驚くべき文字を発見したのである。
妖狐、大神、夜叉、大蛇……四神と呼ばれている者達の名を。




