48話 家に帰るまでが旅
「ねえ、さっき盗賊を騙るっていっ……!」
「あーお姉さんそれ以上は言わないお約束だよ!」
少年が無邪気に答える。その笑顔の裏にはなにやら底知れぬ恐ろしさのようなものを感じる。
「最近はこの辺りは治安が特に悪くてね!お姉さんたちこの国の人じゃないでしょ!用事が無いなら、早く帰った方がいいと思うよ!」
そう言うと、2人の男達は消えていった。
「今の人達って……」
「彼らが本当の盗賊団だったのでしょうか?」
「たぶんね」
ナーシェと顔を見合わせながら、会話をする。ルカとテオは何が何だかよくわからないと言った困惑の表情を浮かべている。
「こっちに攻撃してきてればさっさと斬り捨てられたものを……」
ミズチさん怖い。切り捨てるなんて物騒な。そして一番怖いのが、本当にやってしまいそうなところである。
「まあまあ、向こうはこっちが目的じゃなかったっぽいし良いじゃない」
私の言葉にアマツも続いた。
「そうだよ~~私ももうちょっとのところでなんとか抑えたけど~~」
この戦闘狂達、本当に恐ろしい。なんとか道中抑えなければ。いつ暴走するのだろうかとひやひやする。
そこから、ラングブールまでは何事も無く、たどり着いた。ラングブールからは飛空船で移動である。とりあえず、今日はラングブールで泊まって、明日はタルキスへ戻るという予定だ。
「人間の街は久しぶりにきた。大分発展したものだな」
「私ははじめてきましたよ!こんな大きな街!」
ミズチとカブラは物珍しそうな顔でラングブールの街並みを眺めている。
「大蛇の里から出る事ってやっぱり滅多にないものなの?」
私の問いかけにカブラが興奮した様子で答える。
「はい、基本的に全て大蛇の街で用事は済みますし、わざわざ迷いの森を抜けて人間界に行く必要は無いですからね。大蛇の皆は人間が嫌いなものも多いですから」
「まあ知らないのも無理はないよ~~夜叉以外のみんなは基本的に人間と関わろうとしないものだし、そもそも関わるメリットもないからね~~むしろイーナが変わってるんだよ~~」
アマツが補足するように答える。元々妖狐も人里離れた場所で質素に暮らしてたし、そんなものなのかもしれない。するとさらにナーシェが説明を続けた。
「そもそも、こんなに街が発展しだしたのも連邦が出来てからなんです!平和になったことで、大きくなったというわけですね!だから、カブラさんはもとより、ミズチさんが街の様子を知らないのも無理はないです」
それにしても、ミズチとカブラはすっかりお上りさん状態である。
「ミズチさんとカブラさんは飛空船もはじめてだよね?」
私は少しわくわくしながら、2人に聞いてみた。最初に飛空船に乗ったときのことは、今も鮮明に覚えている。この2人が乗ったらどんな反応するのだろうか。
「ミズチ様!ミズチ様!見てください!地上があんなに遠くに!」
「まるで鳥になったようだな……」
明くる日、私達は飛空船での移動を始めた。ミズチは、冷静に振る舞っているようだが、興奮を隠しきれない様子がひしひしと伝わってくる。こんな時くらい素直になれば良いのに。口に出しそうになったが、流石にそれは言わなかった。
「最初の目的地はタルキスだよ!飛空船ならあっという間につくから楽しんでて!」
タルキスに寄るのは、主に2つ用事がある。一つは、王様に挨拶をすること、そしてもう一つは発症した犬をもらえるようお願いすることである。そもそも、狂犬病……ではないかも知れないが、仮にここは狂犬病であるとして、狂犬病ウイルスは、発症した動物の唾液中に多く存在する。大蛇の細胞が手に入り次第、すぐに細胞培養、そしてウイルス自体を増やせるようにする。今も疾病に苦しむ民は沢山いる。早く予防法を見つけることが今の私の使命である。
タルキスに到着した私達は、早速王宮へと向かった。しばらくぶりに会った王のリチャードは、相変わらず堂々としていて尚且つ気品があった。王に今までの進捗、そして、病気になった犬が欲しい旨を伝えると、リチャードは快く了承してくれたのである。
「うーーーー!」
「イーナ様!このワンちゃんなんだか様子がおかしいよ!」
「ニャ……怖いのニャ……」
リチャードから頂いた犬は、今にも鉄で出来た檻をかみ砕きそうな勢いでこちらへと敵意をむき出しにしている。
「おい、イーナこいつをもらってどうする気だ」
ミズチが疑問をぶつけてくる。
「おそらくこの子の唾液の中には、疾病の原因のウイルスがいるから、それを取ってきて増やすんだ。増やすために、細胞が必要なんだけどね」
ちょっと言い方が嫌らしかったかも知れない。
「なるほどな、それで大蛇の身体の一部を分けてくれと言うことか。なぜ大蛇でなければ駄目なんだ?」
「大蛇の神通力『再生』、生物学的に言えば、細胞分裂が非常に活発だからそういう機構が成り立っているのかなって思って。細胞分裂が盛んなら、増やすのも簡単だし、一番研究に適しているという仮定だよ!一番難しいのは細胞を増やすことだからね!」
そんなもんなのかと、ミズチは納得したようだ。正直分からなくても無理はない。
「そういうことならイーナ様!私でお力になれるのなら!」
ここで、カブラが嬉しい提案をしてきてくれた。ちらっとミズチの方を見ると、諦めたような様子で一言、
「九尾に貸しを作っておくというのも悪くはない」
これはOKということであろう。
「ありがとう!ミズチさん、カブラさん!絶対成功させます!」
「しかし、まずはフリスディカで温羅に会うのが先だ。その後でもいいな。どうせ、お前も来るのだろう?」
「もちろん!フリスディカの滞在の間は任せてよ!どちらにしても、ここよりも病院の方が確実に環境は良いし、戻ってからの方が嬉しい!」
「そうか、フリスディカにはお前の病院とやらもあるのだったな」
そういうと、ミズチは少し笑っていた。
こうして私達はフリスディカへと戻ったのである。




