41話 人手が足りないなら増やせばいいじゃない
私達は一度フリスディカに戻ることにした。どちらにしても準備が重要である。どの位時間がかかるかも分からないし、作戦を練った方が良いだろうという判断だ。何より、病院を長期間不在にするわけにもいかない。
タルキスの王リチャードに、再び訪れることを約束して、初めてのタルキス訪問は終了したのである。
「さて、やらないといけないことは沢山ある。何からするべきかな……」
フリスディカにあるリラクリニックにて、皆を含めた話し合いが行われようとしていた。
「イーナ、申し訳ないが俺はタルキスへはついてはいけない。大神の森をあまり長く離れるわけにはいかない」
「仕方無いよシナツ。わかってる」
当然である。むしろシナツが申し訳なさそうにしているのが申し訳ないくらいである。
「まずこれからやらなければならない事は、大きく分けるとクリニックの運営・ウイルスのサンプリング・実験器具の調達そして研究だね。研究をするとしたら、下手をしたらしばらくフリスディカに帰れなくなる可能性も高い。」
「イーナよ、提案があるのだが」
シータがここで口を開いた。
「クリニックの運営だが、聞けばなかなかに評判が良いとのことで、来客も増えている。イーナやナーシェの負担を考えると、ここはスタッフを増やすと言うのはどうだろうか」
確かに、現状皆が手伝ってくれているとは言え、ナーシェと2人だと正直、クリニックを回すだけでも精一杯ではあった。すると、ナーシェが何かひらめいたかのような明るい表情を浮かべ提案を出した。
「私の知り合いの医者を何人か紹介しますよ!イーナちゃんの話に興味を持ってる子が何人かいるので!是非とも一度話してみたいと言っていました!」
「ありがとう!人員調達はナーシェにお願いしてもいい?」
少し話が進展した。医者が増えるというのは非常に心強い。するとここで、意外にもルカからも提案があった。
「ねえ、イーナ様!妖狐の里のみんなに手伝ってもらうのはどうかな!イーナ様が直接教えた子達なら手伝ってくれるかも!」
確かに、私が教えたあの子達なら、医者のサポートがあれば犬猫の簡単な診察なら出来るであろう。
「イーナ様!私一度妖狐の里に戻って話してくる!久しぶりにみんなにも会いたいし!」
「そうだね!シータ、ルカと一緒に妖狐の里にいってもらえないかな?」
その提案をシータは快く引き受けてくれた。これで人員問題は何とかなりそうだ。
ナーシェ、シータ、ルカにクリニックの人員補充は任せるとして……あとは……
「テオ、飛空船の改造って出来たりしない?」
「ニャ!どんな改造がお望みなのニャ?」
「実験室が欲しい!あと実験器具として、いくつかつくって欲しい物はあるから後で詳しく説明するね!」
やはり現地で実験も行えた方がいい。特に生物を相手とするとなると鮮度が命である。それに病原性があると分かっているものを、むやみやたらに拡散させるわけにはいかない。
「任せるのニャ!ケットシーに作れないものはないのニャ!」
これでまた一つ解決だ。驚くほどに順調だ。
それから、
実験器具。といっても、スポイトやビーカーといったものではない。必要なのは……
「細胞が必要だ」
生物を実験で扱う以上、生体は必要だ。だが、動物実験など闇雲にやっては無駄に命を浪費するだけである。特にウイルスは増やすためには生きた細胞がどうしても必要である。そこで、私は一つの案があったのだ。
「大蛇の能力って再生だったよね?であれば、おそらくは活発な細胞分裂が行われているって可能性が高い。人の遺伝子が入っているっていう仮説が正しいなら、細胞分裂が盛んで人に近いって言うのは、ウイルスを増やすのに適していると思う!」
「つまり、大蛇に身体の一部をもらってくるって事ですか?」
ナーシェ、そしてルカもなんとか話について来れているようである。他の者はちんぷんかんぷん状態だ。
「そう、ある程度準備が整ったら、またそこらへんについては詳しく説明するよ!まずは細胞を得られたときに、すぐに育てられるように、培養液を用意しないといけない。せっかくゲット出来ても、すぐに死んでしまったら意味がないからね!最初は培養液の原料のひとつ、血液を集めるのが大事かな!」
「血が必要なんですね!それならクリニックをしながらでも集められそうです!私は、基本的にフリスディカで勧誘出来るので、イーナちゃんとルートさんの3人で、クリニックを回しましょう!」
「それでいい?ルート」
ちらっとルートの方を見ると、最後まで名前が出なかったのが寂しかったのか、少しそわそわした様子でただ一言だけ口にした。
「勝手にしろ」
「なら、このプランで行こう!みんなお願いするね!」
ナーシェはすぐに2人の医者を紹介してくれた。レーウェンは、ナーシェと同期の医者らしい。学生時代は一緒によく研究をしていたらしく、2人とも優秀な成績だったそうだ。
そしてもう1人がルイである。彼は、ナーシェより、大分年が下で、まだ10代だとのこと。10代で医学部卒業って……天才か……
「ナーシェから色々と話は伺っています!ぜひともイーナさんに色々教えて頂きたく、ちょうどありがたいお話を頂き、大変感謝しています!」
レーウェンは真面目な好青年といった雰囲気だ。一方ルイはというと、
「現在の医学はつまらないです。もっと多くのことを知りたいのできました。それ以外興味はありません。」
「ルイ!失礼だろ!お願いしますくらい言いなさい!」
レーウェンがルイに一喝を入れた。まあこのくらい尖っている子の方がこちらとしてもおもしろい。
「2人の力があれば、もっといろんなことができるようになる!こちらこそ,至らない点も多いとは思うけど、よろしくお願いします!」
私が2人に頭を下げると、慌ててレーウェンもよろしくお願いします!と、大きな声をあげながら頭を下げた。ルイはというと、特に興味なさそうにたたずんでいた。
レーウェンとルイが入ったことで、大分負担も軽くなった。というか、もはや2人だけで病院を回せる位に、彼らは優秀であった。そして、
「イーナ様!ただいま!」
「連れてきたぞ!」
ルカとシータは2人の妖狐を連れてきてくれた。アンとマイ。彼女らは、妖狐の里で私が直接教えた弟子である。
「イーナ様!お久しぶりです!」
「イーナ様の力になれると聞いて!是非ともよろしくお願いします!」
2人の可愛い弟子もメンバーに加わり、これならしばらく不在にしても、十分に診療も回せそうである。
テオに頼んでいた改造も、一部夜叉の手助けを借りながら完成が見えてきた。
次なる目標は……
「大蛇に会いに行こう!」




