36話 白の閃光
アルヴィスは再び目の前から消えた。先ほどの爆発で氷はすっかり吹き飛んでいた。
――風切じゃ!接近戦は避けろ!距離を取るのじゃ!
目の前に現れた、アルヴィスの激しい猛攻を前に、サクヤが叫ぶ。
いや、これでいい……
――接近戦では不利じゃ!何を考えておる!
俺はアルヴィスの隙を見つけ、アルヴィスに向けて一気に剣を突き刺す。アルヴィスも同様に、こちらに向けて剣を突き刺す。お互いの剣がお互いの身体へと刺さった。
鋭い痛みが腹部に走る。ぽたっぽたっと身体を伝って血が流れ落ちる。サクヤの叫びも聞こえた。
――大丈夫かイーナ!?
「馬鹿め、剣は通らないと言ったはずだ」
アルヴィスが高らかに笑う。確かに剣はアルヴィスの身体に、刺さっている。しかし、奥までは刺さらずに、浅いところで肉体強化によって止められているようだ。龍神の剣からも少し血がしたたり落ちて、俺の手をぬらしていた。そして、痛みを耐えながら俺はゆっくりと口を開いた。
「これで……いい……」
俺の言葉に、アルヴィスは再び笑みを浮かべ言葉を発した。その表情は勝ちを確信した、自信に満ちた笑みを浮かべていた。
「さよならだ九尾!」
――イーナ!
しかし、勝ちを確信していたのはアルヴィスだけではなかった。ここまでは想定通りである。アルヴィスの内部に剣をいれること、それが俺の狙いだった。
「……凍り付け ……アルヴィス!」
その言葉と共に、アルヴィスの身体が一気に凍り付いていく。
「なっ……」
傷口から一気に身体が凍り付いていくアルヴィスは、もはや身動きが取れないようだ。そして焦った様子で叫ぶ。
「何をした!九尾!」
俺はアルヴィスの問いかけには答えずに、ゆっくりとアルヴィスに向けて左手を向ける。
これで…… これで全てが終わるはず。
「さようなら」
その言葉の後、一気に閃光が走る。
残ったのは、俺の身体に刺さるアルヴィスの剣。それに凍り付いた腕の一部。それ以外は目の前に何もなかった。
――やったのう!イーナ!どうなるかと思ったわ!
「痛っ……」
刺された事なんて無かった。初めての痛みは予想以上であった。緊張が途切れたせいか一気に痛みが襲う。
――おい!大丈夫か!?
「イーナ様!?」
ルカ達が爆音を聞いて走ってきたようだ。そこには戦いを終わらせたであろうシータやシナツ、ルートも合流していたようだ。皆こちらをみて、心配そうな顔を浮かべている。
そんな、悲しそうな顔しなくても……
せっかく勝ったんだから……わらってよ
「ルカ…… 大丈夫…… アルヴィスは倒したよ……」
もう視界は、かすんでいた。まるで白黒テレビの様な映像である。ルカ達が来てくれたおかげか、一気に身体の力が抜けた。そのまま近づいてきたルカへと身体を預ける。
あれ……?
「……!」
「っ……!」
なにやらルカやナーシェが口を動かしているのは何となく見えるが、何を言っているのか聞き取れない。
そのまま、俺の意識はフェードアウトしていった。
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気がつくと、目の前には白い天井が広がっていた。
どこだここ……? それに……みんなは……?
眩しくて目がなかなか開けられない。それに身体も重い。起き上がるのもだるい。重い身体をなんとか動かして起き上がる。
「イーナ様!?」
「ニャ!?」
よく聞き慣れた声が聞こえる。
目の前には可愛らしい女の子と猫がいた。女の子の目は赤く潤んでいた。
そうだ…… アルヴィスとの戦いの後……
一連の出来事を思い出した。あれからどの位時間が経ったのだろうか……
アルヴィスに刺されたはずの、身体の傷はすっかり治っていた。ルカのケガの時もそうだったが、妖狐の回復力というものはすさまじいらしい。
俺は目の前の女の子と猫に声をかけた。
「ルカ…… テオ…… ただいま!」
「イーナ様……!!」
ルカが抱きついてくる。テオもルカと一緒に飛んできた。
「重い…… 2人とも重いよ」
笑いながら2人に向けて声をかける。すると、ルカとテオ以外のみんなもお見舞いしてくれていると言うことに気がついた。
「イーナ、ナーシェがあの後、すぐに手当てしてくれたんだぞ。ナーシェがいなかったら多分死んでいたな」
シータが笑いながら口を開く。
「そうですよ!無茶して!イーナちゃんのバカ!」
ナーシェも半泣き状態で叫ぶ。怒られてしまったようだ。
「ふん…… 少しは心配したぞ……」
ルートは照れくさそうに壁にもたれかかって呟く。それにシナツもいてくれたようだ。シナツは冷静に、それでも少し嬉しそうな声色で言った。
「まあ、良いじゃないか、これでひとまずは一件落着だ」
そう、俺達はサクヤを苦しめた元凶、それに、人々を苦しめた元凶を断ったのである。まだ病気自体の治療は出来ていないため、全て解決というわけではないが。
ひとまずはこの時を楽しむことにしよう。
とびっきりの笑顔で、みんなに向けて、俺は言った。皆も満面の笑みを浮かべている。
「ありがとう、みんな!」




