33話 疾きこと風の如く
「ドラゴンと戦えるとは…… なんたる栄光!」
ルキウスは目の前に立ちはだかる強大な存在に、武者震いしていた。
「終わりだ」
シータは静かに呟いた。そして、シータの言葉と共に、一気に周辺が凍り付いた。ルキウスが動く前に。そして、ルキウスは、動くことはもうすでに出来なかったのだ。
「なっ……」
ルキウスは、自分へと向けられたドラゴンの息吹を目前に静かに呟いた。
「これが…… ドラゴンの力か……」
俺達は宮殿へとたどり着いた。
首都、エールヴィアの中心部に存在する宮殿。それは豪華絢爛とはかけ離れた、言ってみれば退廃した帝国の象徴とも言えるような建物だった。
そして宮殿の前には2人の男が立っている。
「ここは通りたくば、我々を倒してから行くんだな!」
左側に立つ、鎧に身を包んだ、坊主の男が大きな声で叫ぶ。
「ふん、ばかばかしい。俺1人で十分だ」
ルートはそう言うと、男達へと突っ込んでいった。
「威勢の良いのが来たな」
右側の長髪の男はゆっくりと剣を抜いた。そして、ルートの鎌の一振りをかわすと、そのままの勢いで斬りかかったのだ。
「ルート!」
俺の叫びと同時に、シナツが消える。そして再び現れたときには、ルートを口にくわえていた。
「おい!お前なにをするんだ!」
ルートがシナツに食いかかった。シナツはルートを下ろすと諭すように言った。
「むやみに突っ込むな。あのままだと死んでいたぞ」
「っ……」
ルートは何も言い返せないようだった。そしてシナツはこちらに向かって叫んだ。
「イーナ!ミドウ!ここは俺達に任せろ!お前達は先に行け!」
「でも……」
「良いから先に行け!」
ルートも叫ぶ。
「……分かった!頼んだ!シナツ!ルート!」
そう、今は突き進むしかない。それに、シータも早く終わればきっと助太刀に来てくれる。
俺に出来るのは味方を信じることだけだ。
そして、俺達は宮殿の内部へと入っていった。
「さて、シナツ、どうするよ」
ルートがシナツに問いかけた。
「まずは、相手の能力が分からない以上、むやみに動くわけにもいかん。出方をうかがうぞ、俺に乗れ」
シナツが風切を使って坊主の前に現れると、ルートは持っていた鎌を喉元めがけて一気に振り抜いた。その直後、大きな鈍い音が鳴り響いた。
「っ!」
「肉体強化っ……!夜叉の力だ…… やはりこいつら神通力を……」
シナツは再び、ルートと共に、相手から距離をとった。すると、もう1人の男がルートとシナツに向け手を上げた。
「炎渦」
その言葉と同時に、周辺は一気に炎に包まれた。
「ちっ…… あいつ、なにやらイーナと似た様な力を使いやがるな」
ルートがシナツの方を向いて言った。
「それに、あんな固い奴どうしろってんだ…… 刃が通らないんじゃ仕方無いぜ……」
坊主の男がこちらを向いて大きな声で話す。
「なかなか良い一撃だったぞ。だが相手が悪かったな! お前名前はなんという?」
「なぜお前になんぞ名乗らなければならないのだ?」
ルートは不機嫌そうに言葉を返す。
「それもそうだな!」
その言葉と共に、坊主は拳をこちらに向け、押し出した。それと同時に、一気に衝撃が訪れる。
「衝撃波……」
「ちっ…… 耳がきーんとしやがる」
ルートは衝撃波の影響を少し食らったようだ。
「どこを見ている?」
長髪の男がルート達に向け、火の玉を飛ばす。2人はなんとかかわしたが、展開はあまりよろしくないのは明らかである。
「じり貧だな……」
ルートの呟きにシナツが答える。
「おいルートよ、俺に考えがある」
そう言うと、シナツはルートに近づき策を告げた。
「なるほどな、やってやろうじゃないか」
そう言うとルートは2人に向かって突っ込んでいく。狙いは……
長髪の男!
ルートは鎌を長髪の男に向け思いっきり振ったが、長髪の男はひらりとかわし、距離を取った。再びルートが突っ込んでいくが、男は複数の火の玉を飛ばしてくる。
「シナツ!」
「任せろ!」
シナツは、飛んできた火の玉に向かって突っ込んだ。途端、シナツの身体は炎に包まれた。
「馬鹿め!自滅しやがった!」
坊主の男が叫ぶ。しかし、シナツは身体に炎をまとったまま、風切を使って、坊主の男へと突っ込んだのだ。
「なっ……」
坊主の男は一気に燃えさかる炎へと包まれた。こうなれば、肉体強化も関係ない。そのまま、男は燃え尽きていった。シナツを包んでいた炎はすっかり消えていた。そして、シナツは、その様子を見て一言、静かに呟いた。
「ふん、大神の力なめるなよ……」
「なっ……」
長髪の男は一連の様子を見て、取り乱したように叫ぶ。
「なぜお前は無事なのだ!?」
炎に包まれたはずのシナツの身体は少し焦げている程度で、無事であった。そしてシナツは再び冷静に口を開いた。
「大神は風を操るのだ。覚えておけ。まあもうすぐに忘れるだろうがな」
直後、長髪の男の前にはルートがいた。男は取り乱してルートの存在を忘れていたのだ。
「しまっ……」
「あばよ」
そして、ルートの鎌は鋭く男の首元をえぐっていった。




