31話 帝国って大体敵国だよね
「おうイーナ!外はあらかた片付いたぞ!」
ミドウ達夜叉の活躍もあり、ひとまずフリスディカの騒動はおおかた収まったようだ。
「ありがとうミドウさん……」
ミドウもこちらの様子を見て、なにやら察したようだ。
「まあ、気にするなイーナ。お前は自分のやるべき事をやった。誇るべき事だ。それに王は無事らしいしな!」
俺はすっかり王様の存在を忘れていた。聞けば、王は、自分の部屋から街へと抜ける隠し通路を使って逃れたらしい。競馬場に行くために使うための通路がこんなところで役に立つとは夢にも思わなかっただろう。
「ねえ、ミドウさん、アルヴィスって…… 聞いたことある?」
俺のその言葉にミドウは神妙な顔を浮かべる。
「エルナス帝国の第一皇子。それがアルヴィスだ。しかし、帝国は先の戦争で、自分たちの兵器が暴発し、滅びたはずだが…… 今日私達が相手にしたのは確かに帝国軍だった。お前……何か知っているのか?」
俺は事の顛末をミドウへと話した。大神の森での一件、それにリラのこと。
「なるほど、ノーマークだったが、帝国の事、少し探ってみよう。どちらにしても、しばらくは皆何も出来ないだろうしな。今は休んだ方が良いぞ」
そうだ、まだこの騒動は終わっていない。後片付けもままならない状況である。
ひとまず、夜叉達は残党がまだいないか、それに被害状況の確認のためにそれぞれ散っていった。アマツとセンリもここで一旦お別れだ。
「シナツ達はどうする?」
「イーナ、お前このまま終わるわけじゃないだろう?俺達も父の敵は取らねばならない。その時まで同行しよう」
そう、このまま終わるわけにはいかない。リラさんのためにも。
「とりあえず、行く当てもないでしょ?うちの病院に来ると良いよ」
その言葉に、ナーシェはなにやら思い出したような様子で、叫んだ。
「イーナちゃん!病院!病院は無事でしょうか!?」
俺達は急いで、病院へと向かった。
病院は、ひとまず無事のようだ。特に、被害を受けた様子もない。
「ナーシェ、せっかくだし、被害を受けた人達の診療もしない?」
「そうですね!まだ街が混乱している以上、一旦落ち着いた方が良さそうです!」
それから、数日間、ナーシェは傷ついた人達の治療で忙しそうであった。ルカやテオ、シナツも手伝ってくれたようで、最初は市民も何となく疑っているような様子だったが、今となっては、フレンドリーな可愛い狐、しゃべる猫や犬と言うことで、むしろ人気を集めているようだ。
俺も空き時間は病院で、ナーシェの診療を手伝っていた。流石に治療をする事は遠慮したが、薬の知識ならある程度人間の医者とも通じるところはあるし、何よりナーシェの医療ミスが心配だったと言うのが大きいところではあった。こんなこと言えないけど。
「おお、イーナよ!おぬしのおかげで助かったぞ!」
そして今日、俺はシータ、シナツと共に、王宮へと来ていた。王様に招待されたのである。ミドウ達もいた。
「王様、無事で何よりです!」
まず何よりも、こうして王様が無事である事が確かめられて良かった。王様は俺の競馬友達だし。
「それで、被害状況はどうなのですか?」
俺は王様に尋ねた。
「むう、わしはなんとか逃げられたが、議会は大きなダメージをおったようでな。何人も犠牲者が出ておる。議会が運営不可能と言うことで、特例で、しばらくはわしが政をせねば行かんと言うわけでな」
なるほど、なにやら王様が疲れているように見えたのはそういうわけか。明らかにやつれている。
「それに、被害を受けたのは我が国だけじゃないそうだ。連邦に加盟する諸国も同時に攻撃を受けたらしい。中には王が亡くなった国もいくつかあるそうだ。この国は皆のおかげでまだ被害は少ないようだ」
不幸中の幸いだろう。確かにラヴィルやリラのような強力な能力を持った人間が1人いれば、国も転覆してしまうことは言うまでもない。
「連邦が成立し、帝国も滅んだとみなが思い、平和に慣れ過ぎていた代償がこんな形で訪れるとはな……」
王様は厳しい表情を浮かべ言った。
「平和でいいじゃありませんか。私は、人間もモンスター達も平和に暮らせるような社会の方が素晴らしいと思います」
俺の言葉に王様も同意する。
「さよう、しかし、そのためには、わしらの前には大きな壁が立ちはだかってしまった。これはなんとかせねばなるまい。例え一時的に平和を失ったとしても」
そして、王様はさらに続ける。
「のう、イーナよ、おぬし人間ではないのだな。初めて会ったときからなにやら不思議なオーラを感じていたのだが。ミドウからは妖狐と聞いたぞ」
王様の言葉に少し動揺してしまったようだ。
「良いのじゃ、わしはおぬしが悪い存在だとは思えん。それにわしを救ってくれたしな。そう、これからの時代、人間だけの社会ではいけないのだな。おぬしらのようなものたちとも、種族関係なく手を取り合って生きていかねばなるまい」
その言葉に俺は少し、感動した。俺の努力が無駄では無いということが証明された瞬間でもあった。
「のう、イーナ、それにミドウや大神よ、わしは、おぬし達が堂々と街中を歩ける。そんな国にしたいと、今回の事件を機に強く思ったのじゃ。しかし、そのためには平和が必要じゃ。おぬし達の力、平和のために、わしらに貸してくれないだろうか?」
なるほど、流石王様したたかである。そう大義を言われては、こちらも賛成するしかあるまい。
「私は、私のやるべき事があります。そのために、取り払わなければならないことは王様と一緒です」
俺は想いを込めて力強く、王様へと発言した。シータも笑顔で頷いてくれた。
ミドウは、まあ多分最初から王様とも繋がっていたのだろう。夜叉は抜かりない。
シナツも、同意してくれたようだ。目的は一緒である。
こうして、人間、妖狐、夜叉、大神による共同戦線が張られることとなったのだ。
「して、イーナよ、おぬしには中心となって帝国と戦って欲しい。おぬしが中心となればついてくるものも多いだろう。兵士達にも伝えようではないか」
競馬では散々なのに、こうなると流石に王様である。俺よりも一枚も二枚も上手である。俺は従うしか出来なかった。その感情がやはり少し漏れてしまったのだろうか、王様は俺の顔をみて、笑いながら言った。
「そんな顔をするなイーナよ!その代わりと言ってはなんじゃが、先日帝国が乗ってきた飛空船、おぬしにやろうではないか!」
飛空船……?
俺が飛空船を持つの……?
予想外な展開に、俺はすっかり困惑していたようだ。その様子を見て、王様もミドウも笑っている。
「で、ですが、王様、飛空船の運転方法など知りませんよ!」
俺の言葉にミドウが答えた。
「安心しろ!飛空船の運転に精通したものをおぬしに預ける!それならば安心だろ?」
確かに、これでシータの力を借りなくてもいける範囲は広がる。シータは少し寂しそうな顔をしていたが。
「まずは、おぬしの理想とやらの為にも、帝国の脅威は打ち払わねばなるまい。辛い戦いになるとは思うが、皆頼んだぞ」
なんか上手くしてやられた感もあるが仕方無い。
病院は、俺達が戻ってもまだ忙しそうであった。次から次へと患者が来る。それに加えて、なにやらルカ目当てで来る、健康なものもいるとかで迷惑な話である。大神が上手く追い払ってくれているようだが。
なにより、俺達は着実に前へと進めている。きっと大丈夫。
あと少し、あと少しだよ、リラさん。




