29話 妖炎に揺れる街
「おい、なんだあれ……?」
ルートはフリスディカの光景に唖然としていた。離れた先にうっすらと見える、フリスディカからは所々煙が上がっているようだ。そして、フリスディカの上空には巨大な飛空船が止まっていた。
「急いで!シナツ!」
俺はシナツに叫んだ。
俺達は、フリスディカの中でも、中心から離れた場所に位置するギルドの近くへと戻ってきた。
フリスディカの街はすっかり混乱しているようだ。中心部の方から人々の波が押し寄せてくる。
中心部の方向では、やはりいくつか煙が上がっていて、街は喧噪に包まれていた。
「教官!」
ギルドの近くでは、教官も救助活動に当たっていた。
「おう、イーナ無事だったか!なにやら、変な船がいきなりやってきてな! ひとまず、ここは大丈夫そうだが、街の中心の方はなにやらやばい雰囲気そうだ…… 俺も向かいたいところだが、人の波が邪魔をしてなかなか近づけないのだ。ケガをしているものも多いしな……」
ひとまず市民達は彼らに任せれば大丈夫だろう。中心部…… 奴らの狙いは……
「王宮です!イーナちゃん!」
ナーシェが叫ぶ。
奴らの狙いは、王と議会か……
「シナツ、王宮まで!行ける!?」
「まかせろ!案内は頼む」
再び、シナツの背にまたがると、シナツは俺達を乗せたまま、軽やかに屋根の上へと昇り、中心街の方へ向けて走り出した。眼下には、大量の市民がフリスディカの外園部へとむかって押し寄せる様子が見える。
「王様…… 無事だと良いけど……」
中心街に近づくにつれ、武装した兵士の姿も見え始める。街の路地を利用して簡易なバリケードが幾重にも作られ、その先には帝国の軍だろう、森で出会った帝国の兵士ラヴィルと似た様な鎧に身を包まれた人達が、慌ただしい様子で街を駆け回っていた。
「何か探しているのか……?」
シナツは空を駆けながら呟いた。俺はシナツに向かって叫んだ。
「ひとまずは王宮へ!お願いシナツ!」
武装した兵士だろう、倒れて動けなくなったものも多数いるようだ。中心街に近づくにつれ、その被害の全貌が明らかとなっていく。火に包まれている家もあれば、崩れてしまったような家も多々見受けられた。
王宮へたどり着くと、王国の兵士だろうか、何人かが血を流し倒れていた。多くはすでに息絶えているようだ。その中でも、1人の兵士はまだ、息があるようだった。
「大丈夫ですか!?」
ナーシェの問いかけに兵士は静かに口を開いた。
「帝国を名乗る兵士と、女が1人、王宮へ入っていった。女は魔法を使う。気をつけろ……」
魔法……
すると街の方向から多くの帝国兵らしき人達がこちらに向かってくる様子が見えた。こちらの存在に気付いたのだろう。
さらに、同時に多数の銃声が響き渡る。
「イーナちゃん!奴ら銃を持っています!どうしましょう!」
ナーシェが叫ぶ。
「ちっ…… おい!イーナ!先に行け!俺がここはなんとかする!」
ルートが俺達に向かって叫ぶ。
「先に行け! たって、ルート! 相手は銃を!」
俺の叫びにルートはただ
「先に行け!」
とだけ叫び、持っていた大きな鎌を構えた。
すると、騒動を聞きつけたのだろうか、王宮の方向からも、多数の兵士が現れた。
「イーナちゃん!王宮の方からも来ました!囲まれてます!」
「まずいね……」
どうする……?
『パン!パァン!パン!』
その時、異なる方向からも銃声が聞こえた。何人かの兵士にあたったようで、帝国の兵士達は動揺しているようだ。
「誰!?」
音の鳴る方向を見ると、よく見覚えのある、修羅の様な男が、数十人の部下と共に、そこに立っていた。横にはアマツがニッコリとこちらに向かって笑みを浮かべ、クールな表情を浮かべたセンリもいる。
「ミドウさん!」
「私達に任せろ!お前達は先に行け!」
ミドウが叫ぶと、ミドウの指示で、部下達は兵士に向かっていった。ミドウの部下達なら大丈夫だろう。そして、俺達のそばに急にアマツとセンリが現れた。
「イーナ~~!久しぶりだね~~!さあ行くよ~~!」
アマツは相変わらずであった。まあいい。心強い味方をまた得たのだ。ふっと俺の表情は緩んでいたようだ。
「ありがとう!アマツ!センリ! 行こう!王宮へ!」
俺達は、アマツ達と合流し、王宮の内部へと向かった。
王宮の内部には兵士はいないようだ。おそらくさっきの騒動で外へと向かったのだろう。しかし、王様は無事だろうか…… 急がなくては……
「はじめて王宮に入ったけど、王様がいるとしたらどこなんだろう?」
俺の問いかけに、ナーシェが答える。
「王立学校の卒業式の時に王宮には来たことがあります!こっちです!ついてきてください!」
ナーシェの案内で階段を駆け上がり、俺達はスムーズに王の間の前へとたどり着いた。一応聞き耳を立ててみるが、何も聞こえない。それどころか、王宮の中は不気味なほど静かであった。
「開けるよ……」
俺の言葉に皆が頷く。俺は静かに王の間に続く扉を開けた。ぎいっときしむ音が誰もいない王宮に鳴り響く。
そして……
誰かいる。
そう思った瞬間に、そいつはしゃべり出した。
「よく来ましたね……」
女の声だ。おそらく魔法を使うといっていた女だろう。相手に、こちらの存在がばれている以上、仕方が無い。一気に王の間へと突入する。
「なんのためにこんなことを……?」
俺が問いかけると、女は静かに話し出した。
「なんのため…… 帝国の皆々は大義のためと言うでしょう…… しかし、私は違います。人々に復讐するため、私は戻ってきました」
復讐……?それに……帝国じゃないのか……?
「あなたは…… 帝国軍ではないのですか?」
さらに、俺は問いかけを続ける。そして女は再び静かに口を開いた。
「帝国軍であり、帝国軍ではないのです。そう、私はあなたと同じ……」
まさか……
俺はその言葉にはっとした。魔法を使う女…… 復讐…… 点が線で繋がる。
「分かりましたか?九尾?」
やはり…… そして俺は女に向かって、再び聞いたのだ。
「あなたは…… あなたがリラさんですか……?」




