217話 乱入者
「……絶対零度」
私の呟きと同時に、一気に足元から氷が広がり、私達の周囲を氷の壁が包み込ん。その光景に、驚きの表情を浮かべながら、思わずリオンが口を開く。
「魔法……だが、術式を唱えているような様子はなかった……まさか」
こんな魔法でリオンを仕留められるなんて思ってはいない。それでも一瞬ではあるが、リオンに隙が出来た。その隙を逃すわけにはいかない。ここからは私のターンだ。
「魔法使いを相手にしたことは初めて?」
龍神の剣と魔法による二重攻撃。それでも、すぐにリオンは身を立て直し、私の攻撃に対応してきた。攻撃の主導権がこちらに移ったことはいいが、それでもリオンを仕留めるためには、まだもう一押しが足りない。
互角の戦い、それは周りで2人の戦いを見守っていた者達も皆が理解していた。ラナスティアの兵士、そしてシーアンの兵士達も、2人の戦いの行く末を固唾をのんで見守っていた。皆が2人の戦いに視線を送っていたが、誰も2人の戦いを邪魔しようとする者はいなかった。それはイーナのすぐそばで、戦いの行く末を見守っていたアマツにも言えることであったのだ。
「イーナ様……負けないで……」
必死の思いを込めて、ルカも2人の戦いを見守っていた。もはや、皆が戦うことを忘れ、言ってみれば大将同士の戦いに魅了されてしまっていたのである。
結果として、歴戦の猛者であるアマツでさえも、「近づいてくる敵意」に対する反応が遅れてしまった。
――まずい!
そう思ったアマツは、何とかルカに向かって飛んできた剣に反応するも、防ぎきれずに、ルカの身体を何者かの剣がかすめたのだ。
「ルカ!」
突然のアマツの声に、私はリオンとの戦いの最中でもあったにも関わらずに、声のした方向を向いてしまった。幸運にも、リオンもその声に反応したようで、私達の戦いは水を差されるような形で、止められてしまったのである。
「あらら、仕留められると思ったんだけどね」
「お前は一体?」
「ボクはエール。白の十字架の1人さ。よろしくね」
エールの持っていた剣には、ルカの血であろう赤い血が滴っていた。幸いにも、エールによって斬られたルカはさほど重症ではなさそうであった。それも、アマツのお陰である。
だが、しかし本当に奴らはタイミングが悪い。目の前のリオンでさえ、手一杯だというのに、さらに奴らまで参戦してくるとなれば手が回らないのは目に見えている。助けに行きたいのは山々であるが、そんな事をしている余裕は今の私にはない以上、アマツに任せるしかない。
「リオンさん、申し訳ないけど、これ以上戦いを長引かせるわけにはいかない。全力を持ってあなたを倒す」
私の今やるべき事、それは目の前にいるリオンを打ち破ること。そう理解していた私は、少し距離が開いたリオンに向けて呟いた。だが、リオンの口からは、思いがけない言葉が返ってきたのだ。
「……興ざめだ。おぬしとの戦いはここまでだ」
「リオンさん?一体どういうことなのかな?」
リオンの言葉を聞いたエールが、不気味な笑顔を浮かべながら、リオンに言葉を返す。正直、私も今の状況を理解できていなかった。何故、リオンが私との戦いをやめたのか。シーアンからすれば、こちらが手間取っている今が、たたみかけるチャンスである事は目に見えて明らかであったからだ。
「……一つ言わせてもらう。俺はあくまでシーアンのために戦っている。お前らと協力するつもりは毛頭無いんでな」
エールに向けて、リオンが冷たく吐き捨てる。
一体どうなっているんだ?こいつらは味方ではないのか?私はすっかり困惑状態に陥っていた。一体誰が敵なのか。この混沌とした戦場で私はその答えを見失ってしまいそうになっていた。
そしてエールは笑みを浮かべながら、リオンのことなど意に介さない様子で口を開いた。
「ふーん、そう。まあ良いけど。アガレス!」
「ぐっ……」
突如として低いうめき声が耳に届く。再び、リオンに目を向けた私は、すぐさまリオンの身に起こっていた異常に気がついた。リオンの腹部からは、血にまみれた1本の剣が姿を見せていた。
「ぐぅ……貴様!アガレス……!」
リオンの背後にいた男、それは因縁の相手アガレスであった。
「……くだらん」
リオンを貫いたアガレスは、吐き捨てるようにそう呟いた。アガレスの姿を見た私はそのままアガレスに向かって斬りかかった。あの男は危険だ。一度手合わせしたからわかる。あの男を放置しておいたら戦況を一気にひっくり返されてもおかしくはない。
リオンの身体から一気に自らの剣を引き抜き、私の剣を防ぐアガレス。剣と剣が交わる音が戦場に響き渡る。リオンは苦しそうな声を上げながら、そのまま地面へと倒れ落ちていった。
「モテモテだねアガレスは……」
「よそ見している余裕はあるの~~?」
突如としてエールを襲う拳。アマツの一撃をひらりと躱したエールは、ニヤニヤと笑みを浮かべながら、アマツに言葉を返した。
「そう、じゃあ君のお相手はボクということかな?お手柔らかに頼むよ」




