214話 業火の魔女
「誰だと思っているって!笑わせるぜ!おい、お前らは手を出すな!威勢の良いお嬢ちゃんには、俺がしっかり教育してやらないとな!」
1人の魔法使いの男が、笑みを浮かべながら高らかに叫ぶ。慢心してくれているのはありがたいとしか言いようがない。彼は自らの力に溺れ、完全に忘れているのだろう。ここが戦場であると言うことを。
彼のルールに会わせる必要も無い。敵を倒せば勝ち。それが戦場のルールなのだ。
「炎の術式 陽炎」
私の呟きと共に、笑みを浮かべていた男は一気に炎の中に包まれていく。断末魔のような叫び声と共に、男の巨体は一瞬で灰へと変わった。
炎の術式「陽炎」。見たものを燃やし尽くす九尾の力。かつては制御出来なかった力であったが、術式を使いこなすのにも慣れてきた今ならその力を制御することも問題が無かった。
「なんだ!一体何が起こった!?」
途端にパニックになる魔法使い達。まさに私にとって、彼らが獲物に変わった瞬間である。統率の崩れた魔法使い達は、もはやただの的と言っても過言ではなかった。
「炎の術式 炎渦」
逃げる隙は与えない。さらに魔法を続けて、魔法使い達、そして周りにいるシーアン兵達の心を折る。私の言葉と同時に、炎が彼らの周りを取り囲んだ。一層パニックを増すシーアン兵達。魔法使いの中には、何とか自らの魔法で炎を消そうとする者もいたが、付け焼き刃の魔法ではそれすらも叶わなかった。
「おい、一体お前は何者だ……」
「私が何者かを、あなたたちが知る必要なんてある?」
私の言葉と同時に、炎に包まれ、また1人と消えていく。
「ぐぎゃああああああああああ」
「くそがあ!水の術……」
「陽炎」
「ぎゃああああああああああ」
次々と炎に飲まれていく魔法使い達。抵抗を試みる者もいるが、魔力の絶対値が違いすぎる。言ってみれば、奴らの力は即席の力と言っても過言ではない。私からすれば、ただの子供だましの力に過ぎないのである。
1人また1人と炎に飲まれていくまさに地獄絵図とも言えるような光景に、流石に敵も完全に戦意が折れてしまったようであった。武器を捨て逃げ去ろうとする者、命乞いをするもの、様々であったが、だからといって手を抜くと言うことは許されない。ここは戦場なのだから。
「クソ!退くな!みなで対抗すれば!」
皆で対抗すれば……?本当に敵うと思っているのなら認識が甘すぎる。
「皆で対抗すれば……? 何?」
私の言葉に、シーアンの兵士達が身体をびくつかせる。
圧倒的な力で次々とシーアン兵達を飲み込んでいくその姿を、味方であるラナスティア軍もただ見ていることしか出来なかった。炎を纏いながら、敵を業火の渦に飲み込んでいくその姿を見た1人の兵士が呟く。
「……女神様だ……」
味方ですら恐怖を覚えるその姿。その姿を見て生き延びたシーアン兵の中では、目の前に広がる地獄のような光景をもたらした彼女をこう称した。「業火の魔女」と。
その名は、いずれシーアン国内で長く語り継がれていく事になることは、今の時点では誰も知らなかったのだ。




