210話 ラナスティア来訪
「お待ちしておりましたよイーナ様。それに、レェーヴ連合の皆様は美女揃いときたものですね」
「こら、場をわきまえんかスヴァン。イーナ殿、それにレェーヴ連合国の皆様。ようこそラナスティアへ。私がラナスティア現王のサジタルと申します。先日早速シーアン国が我が国に向けて出兵をしたという情報が入って参りました。我らと共に戦ってくださるというお話、大変心強い限りです。どうかよろしくお願いいたします」
ラナスティアに到着した私達を出迎えてくれたのは、こんな状況であるにも関わらず、相変わらずと言った様子であるスヴァン、そしてスヴァンからは想像も出来なかった厳格そうな王であるサジタルであった。
「サジタル王、この度の申し出、受けて頂き大変感謝しております。我々レェーヴ一同も全力で戦わせて頂きますので、我々の力でシーアンを共に打ち破りましょう!」
「ありがとうございます。我々ラナスティアはすでに東部にあるラナスティア大平原に布陣は敷いております。イーナ様達が到着次第、我々もすぐに向かうつもりでした!」
サジタル王は、力強くそう答えてくれた。もうすでに、ラナスティア軍の主力は出陣を行っており、サジタル王とスヴァン、そして彼ら直属の少数の部隊が私達の到着を待ってくれていたのだ。
「わかりました。私達はすぐにでも出発できます。シーアンの動きの方は、今の時点ではどんなものなのでしょうか?」
あとは、シーアンがどこまで迫っているかという問題だけである。もしもうすでに布陣の近くまで迫っていると言うことであれば、私達だってそんなのんびりはしていられないのだ。
「こちらで調べた情報によると、シーアン軍はちょうど国境の辺りにさしかかったとのことです。そこからラナスティア大平原まで来るとなると、5日程度は猶予があるでしょう」
「5日もあるなら十分です。ファフニールさん、彼らも一緒に乗せることはできる?」
「もちろんだ。2,3人であれば、問題なく輸送できる」
私の提案をファフニールは快諾してくれた。黒竜の助けがあれば、飛空船が使えないラナスティアであっても、特段問題なく移動が出来る。
「おお、まさかドラゴンの力を借りられるとは……」
「ドラゴンに乗れる日が来るとは思っていなかったぜ……」
ざわざわと兵士達がざわつく声が響く。ファフニール達黒竜の存在によって、ラスラディア陣営の士気が上がっているのがわかった。
「ドラゴンが味方している以上、こちらの勝ちは揺るがないでしょう。飛空船が使えないラスラディア平原において、空中を制することが出来るドラゴンの力は何よりも強力。シーアンに勝ちの目はありません!」
兵士の中でも少し立派な格好をした男がそう叫ぶ。その声に、兵士達の間からも勝ちどきに似た声が次々と上がる。
だが、そんな事は上手く行かないであろう事は私達はわかっていた。クーデターに成功して調子に乗っているシーアン国だけならまだしも、白の十字架が後ろについている以上、事はそんな単純ではないのである。
「そんな楽観は出来ないよ。そんな事は相手もわかっている以上、向こうも無策で来るとは到底思えない」
「そう、なんと言っても相手は改造人間だ。魔法を使いこなす以上、レェーヴの方々が来てやっとイーブンになったと言ってもいい。兵士長油断はするなよ」
先ほどまでの様子とは全く違う、真面目な様子でそう兵士長に言葉をかけたのはスヴァンであった。
「そのためにも、早くラナスティア大平原に行ってまずは地形を確認したい。早く着ければそれだけ対策を練れる時間ができるし……」
私とスヴァンの会話を聞いた兵士達は、先ほどまでの勢いはどこへやら、不安そうな様子に包まれていた。そんな様子を察知したスヴァンは、再び元の調子へ戻った口調で言葉を続けた。
「まあ、そんな心配しなさんな、みんな。シーアン軍の大多数は、どうせ烏合の衆。大したことはないさ。しっかり準備をすれば容易に打ち破れる」
「だね!私達もそこはあんまり心配はしていないよ!魔法が使えるって言ったって、使いこなせるほどにはなっていないはず……」
そう、そこについては私もあまり心配はしていない。使いこなせないような力を手に入れて傲慢になっている状態の人間ほど油断をするものである。今回のシーアン側の作戦だってどう考えても無茶なものであることはわかりきっている。普通に考えれば、敵陣に向かって全軍で突っ込もうなど、数で優位とは言えばかげた話であるのだ。そうなると、考えられる可能性は二つ。一つは完全に力に溺れた新政府の暴走。もしくはそれに見せかけた白の十字架の連中の罠。まあ、今回の件についてはおそらくどちらもであるとは私は予想していた。
白の十字架の連中からすれば、シーアン国の新政府がどうなろうが知ったことではないだろう。彼らの狙いは世界を手中に収めること。彼らからしたら、シーアン軍が壊滅しようとどうなろうと、こちらの中枢さえ落とせれば勝ちなのである。
「問題は、白の十字架の奴ら。どうせシーアン軍本隊は言ってみれば陽動のようなもんだと思う。奴らがどこで動いてくるか。奴らの対処は私達でなんとかする。そこまで、いかに優位を保てるか。それはラナスティア軍の皆さんの力にかかっているんだ!」
「なかなかイーナ様も人使いが荒いねえ…… 承知した。化け物の相手はモンスターさんに任せると言うことで…… やっぱり人間の相手は人間がしないと道理が通らないもんな」
「ふむ、イーナ殿。早く向かいたいという気持ちはよくわかるが、遠路はるばるここまで来た身。今日はここで休んでいくのが良いだろう。出発は明朝。全軍でラナスティア大平原へと向かう。それでよいだろうか?」
「もちろんです。我々もそうして頂けると助かります」
サジタル王の言葉に甘えて、一晩ラナスティアで休息を取った私達は、早速、次の日にラナスティア大平原へと向かった。




