208話 連合軍総大将リチャード
「早速だがイーナ。協力するのはいいとして、一つだけ確認したいことがある。イーナの国、レェーヴ連合とやらは、どの位の戦力を持っているんだ?申し訳ないが、シーアンが攻めてくるとなれば、こちとら死活問題なんでね。そうだろう?イナンナ!」
早速、スヴァンが私達に問いかけてきた。私達だって、戦力を出し惜しみするつもりなど毛頭無い。だけど、エンディアとラナスティア二つの国にそれぞれ戦力を分配するとなれば、力としては弱くなってしまうのは事実である。ここは仕方無い。せっかくスヴァンが協力してくれると行っている以上、こちらとしてもできる限りの条件を掲示しなければならないのだ。
「確かに、もしシーアンが順当に攻めてくるとすれば、我々エンディアかラナスティア、どちらかの国境付近が主戦場になるでしょう。まあ、本当に素直にきたら、の話ですが」
スヴァンの言葉に、イナンナは冷静にそう答えた。
「もちろん、私達レェーヴは出せる戦力は全て出すつもりだよ!でもイナンナさんの言うとおり、素直に来ればの話であって、そんなわかりやすく攻めてくるとは到底思えないんだ……」
いや、まてよ……
「……そういえば、ラナスティア国って……昔はシーアンとアーストリアを繋ぐ大動脈の位置にあったんだよね?」
「なんか引っかかる言い方だが……まあその通りだ。飛空船が開発されてからはすっかりかつての勢いも衰えてしまったからな」
そう、かつて東西の交通の中心として栄えたラナスティア国はタルキスやシャウンを有するアーストリア連邦からシーアンに向かうのに主要な交通ルートの中心であったのだ。なぜ、そんな国の勢いがなくなってしまったかというと、山地が広がるラナスティアは魔鉱石の大鉱脈があり、飛空船が飛ぶことが出来なかったというのが大きな原因である。
だが、白の十字架が、魔法を使いこなせる軍隊を作ったのであれば、話は変わってくる。魔鉱石の鉱脈があると言うことは、それだけ強力な魔法を使えるという利点もあるのだ。
そして、相手だって馬鹿ではない。いくつかの国同士で言ってみれば連合軍を形成する可能性だってすでに考えてはいるだろう。そうなれば、飛空船を利用し、大量に兵士を送り込めるエンディアよりも、飛空船が使えない山間にあるラナスティアの方が攻め方としては容易であろう。
「多分、シーアンが攻めてくるとしたらラナスティア……スヴァンさん、あなた方の国だ」
「何故そんな確信を持ったかのように言える?イーナよ。場所の利点で言えばエンディアの方が使いやすいとは思うが……」
タルキスの王リチャードが私に尋ねてきた。
「まず数で言えば、こちらの方が確実にうわまっているとは思う。でも、内陸であるラナスティアが飛空船が使えないと言うことは、それだけこちらも援軍を送り込めないと言うことだし、もし相手が数で劣っているとしたら、より狭い山間の方が戦いやすくはなると思うんだ。おそらく、シーアンの軍の個人個人はかつて無いほどに強力にはなっているし、そうなれば各個撃破で戦っていく方が、向こうの勝率は高くなる」
「なるほどな、確かに一理ある」
「もちろん、エンディアに攻めてくる可能性だって大いにありうる。だからラナスティアに全ての戦力を詰め込むという訳にはいかない。それにエンディアに兵を大量に置いておけば、それだけ相手への牽制になるし、より手薄そうなラナスティアを狙ってくる可能性が高くなる。何より、そんなに大量の兵士をラナスティアに送ったところで、狭い山間であれば、ただ数が多いだけになってしまう。だからこそ、ラナスティアには少数精鋭の部隊を置くべきだと思うんだ」
「さっきから、いいようにいってくれるね。一体人の国を何だと思っているんだか……だが、ラナスティアを守る為に力を貸してくれると言うのであれば、俺達としても願ったり叶ったりだ。そうなると決戦の場所は、ラナスティア東部の山岳地帯と言うことになると言うことだな」
「ラナスティアの防衛には私達があたるよ!魔鉱石の影響があった方が、私達だって戦いやすい」
「まて、イーナ。だが、お前が最前線に出ては、誰が本陣を守るというのだ?私はてっきりお前がこの連合の総指揮を務めるものだと思っていたが……」
「連合軍の総指揮はリチャードさん、あなたにお願いしたい。歴戦の経験があるあなたならきっと、こんな大軍であっても必ず統率が取れる」
「そうですね、リチャード王。私もイーナさんの考えに賛成です。これだけの大軍となれば、それを扱いきれる者、あなたを除いて他にいないと思います」
イナンナも笑顔でそうリチャードに向けて言葉を発した。この場にいる誰も、私とイナンナの言葉に反論する者はいなかった。少し困ったような表情を浮かべていたリチャードであったが、私とイナンナが送り続けた視線に遂に根負けしたような様子で、頷きながら答えた。
「わかった。イーナ、イナンナよ!こちらのことは任せろ。今から、この連合は私が指示を出す」
「イーナ、お前は言っていたとおりラナスティア方面に回ってくれ。ラナスティア方面の全権はお前に任せる。スヴァン、地元のことだ、お前達が一番よく山のことは知っておるであろう。イーナと共に協力して任に当たってほしい」
「スヴァンよろしくね!」
「あいよ、かわいこちゃんの頼みとあれば、このスヴァン一肌脱がせてもらいましょうかね!あ……じじいか……」
ぼそっと呟いたスヴァンに、ぎろっとした視線を送るリチャード。その迫力に、思わずスヴァンも何も言えなくなってしまったようだ。それにしても凄まじい威圧感である。
「イナンナ、それにロッテルとカカ、お前達はエンディアの指揮に当たって欲しい。イナンナ、エンディア方面のこと、頼んだぞ」
リチャードの言葉に力強く頷く3人。
「そして、本陣はタルキスにおく。万が一、アーストリア連邦内で有事が起こったときのため、シャウンにも兵を置く必要がある。シャウンに置いておけば、大体の場所はどこでも行くことが出来るしな!ノア、そちらは任せたぞ!」
リチャードが大将として指示を出してくれたことで、私達の布陣はある程度決まってきた。それこそ細かい戦力の調整はあるものの、大まかな布陣としては先ほどリチャードが述べたとおりである。
刻一刻と、決戦の時が近づいてきていた。




