204話 黒竜集結
リンドヴルムとルウが黒竜の皆を連れて帰ってきてくれたのは、それからしばらくの日が過ぎてのことだった。その間も、ナーシェは、同じく医者であるルイやレーウェンたちと一緒に、日夜、邪魅の研究に没頭してくれていた。
リンドヴルムとルウは、十分すぎるほどの援軍を引き連れて戻ってきてくれた。すっかり元気になった様子のファフニールと、その傍らにはスウ、そしてヨルムンガルドも駆けつけてくれた。正直、ヨルムンガルドについては私も予想外だったので少し驚いてしまったのは事実であるが、来てくれただけでも大変ありがたい話である。
「イーナ!久しぶりだな!リンドヴルムとルウから話は聞いた。私達黒竜も是非協力させて欲しい!」
「前はすまなかったなイーナ。あれ以来、黒竜の里に来てくれないから、こっちから来てやったぜ!初めてお前の国に来たが……ファフニールの話通り、いい所じゃないか!気に入ったぜ!」
「ありがとう、ファフニールさん、ヨルムンガルドさん!みんなが来てくれただけで百人力だよ!」
するとファフニールの傍らにいたスウが表情をあまり変えずに、私に向けてぼそっと呟いた。
「イーナ様、私達と合流してからもルウはイーナ様の話ばっかりで……スウは少し寂しさすら覚えています」
「スウ!何を……!」
慌てふためくルウ。その様子を見て、スウもファフニールも笑顔を浮かべている。
「イーナ。お前には本当に感謝している。ルウもずいぶんと明るくなった。スウの言うとおり、お前達との旅の事を本当に楽しそうに話していた。それだけじゃない。こうして黒竜同士で手を組めると言うだけでも、私達に取っては夢のような話なんだ。欲を言えば、ガルグイユも一緒に来れれば良かったが……」
「俺がガルグイユの分も力になってやる。それで問題は無いだろう!」
「ルウばっかりにいい所を取られるわけには行きません。今度はスウも是非、ファフニール様やイーナ様のお役に立てるように頑張らせて頂きます」
「おいイーナ!俺達もいることを忘れるなよ!」
リンドヴルムが慌てふためくようにそう言葉にすると、再び皆の間に笑いが起こった。
「大丈夫だよ!リンドヴルム!それにルウも!皆頼りにしてるからね!」
久しぶりに会った黒竜の皆は、私達に取ってとても頼りになるような、そんな存在だった。すっかり暗くなっていた雰囲気が、ファフニールやヨルムンガルドの存在によって、明るく変わったのだ。
「それでイーナ!私達はどう協力すれば良い?もちろん戦いになる事はすでにリンドヴルムやルウからは聞いているが……」
ファフニールが真面目な表情へと戻って私に問いかけてきた。
「今は調査が必要なんだ。でも遠方の調査が多くて……私達と一緒に来て欲しい。シーアンの調査と、エンディアや連邦内との連携、そして南の大陸の調査……やらなきゃいけないことは一杯あるんだ!」
「待てイーナ。シーアンや味方との連携というのはわかるが……南の大陸に行くというのはどういうことなんだ?行くのはかまわないが……何もないぞ?」
ヨルムンガルドが不思議そうな表情で呟く。ヨルムンガルドだけではない。ファフニールも、他の黒竜達も皆、一体なんの用事があるんだと言わんばかりの表情を浮かべながら、戸惑っている様子であった。
「奴らの力を弱体化するための方法、その鍵が南の大陸にあると私は踏んでいる。見つかるかはわからないけど、賭ける価値はある。私はここを離れるわけにはいかないけど……ナーシェなら、必ず見つけてくれる。私はそう信じている」
「わかった、イーナがそこまで言うのなら私達も力を貸そう。私の里の者少しをナーシェに同行させる。それでいいか?」
「助かるよ!ありがとう!ファフニールさん!」
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すぐにナーシェは、ルイ、レーウェンと共に南の大陸へ向けて出発する準備を整えてくれた。危険を伴う旅にはなるが、黒竜がついていてくれれば、多少何かあっても問題は無いだろう。
「イーナちゃん!それでは、いってきます!私かならず探して見せますから!」
笑顔を浮かべながら元気よくそう言葉にしたナーシェ。
「大丈夫だ。イーナさん。ナーシェなら治療薬を見つけてくれる!それに、俺らだって……まさかこんな事になるとは思っていなかったけど……」
「そうだよ!それに僕たちが世界の命運を握っているって思うと、それだけでわくわくが止まらないんだ!」
いつの間にかルイもレーウェンも非常に頼りになる表情へと変わっていた。正直、私が彼らを誘ったものの、レェーヴを留守にする事も多く、彼らに色々と教えられたかというと疑問が残る。それでも、2人は自ら学ぶことをやめず、私の留守中も病院を守ってくれていたし、彼らの力は私達にとっても不可欠なものになっていた。
きっとナーシェなら、彼らなら大丈夫。
「イーナちゃん!待っていてくださいね!」
黒竜の背に乗り、空の彼方へと消えていったナーシェ達。その姿が見えなくなるまで、私はナーシェ達の姿を見続けていた。




