203話 ナーシェの仕事
「エンディアが危ない?どういうことなんですイーナちゃん?」
「私はずっと邪魅が人間を滅ぼしたものだと思っていた。でも違う。滅んだのは人間自身の行いに過ぎないはず……」
「人間の行い?」
「邪魅はおそらく、悪い存在というよりも、むしろ人間にとって益虫とも言える存在だったと思う。多分、人間に寄生して、マナを使う力を高めてくれる一種の魔鉱石みたいなものかな…… もちろん、サクヤの時みたいに沢山寄生されれば、それはそれで害にはなるけど…… 私達はすごく遠回りをしてしまったけど、結局やるべきことはアルヴィスの時と一緒なんだ!」
私達は一度アルヴィス率いる帝国と戦った。あのときは帝国軍の連中は皆、私達と似たような力を使っていた。色々考えすぎて、考えも脇にそれそうになったが、私達がやることはあのときと同じだと言うことだ。
「それなら、確かに鳳凰の力でどうこうできるような話ではありませんね……」
「そう、すごく便利な生物兵器、だけど人間の邪な心に取り入って、文字通り魅了する。誰だって、魔力を使いこなしたい……そう思うはず。そして、結局一度人間はその力に溺れて滅びた……」
「なら……!白の十字架は…… それにシーアンは……」
「あそこまで大規模なクーデターを成功させるためには力が必要だ。それも邪魅の力で陣営の兵力を底上げしたと考えれば説明はつく。使い方次第で毒にも薬にもなるような存在……それが邪魅」
「でも、それなら復活と言っていたというのは……」
「おそらくアルヴィスの奴もまだ完全では無かったんだと思う。逆に言えば、白の十字架陣営は、アルヴィス以上の奴らがゴロゴロといると言うことになるけど……」
考えただけでも恐ろしい。邪魅の力がどの程度かはわからないが、おそらく最低でも、魔法を使わないような一般の人も、そこそこの魔法使いまで引き上げられる能力を持っているのだろう。ましてや、魔法使いを中心とするアレナ聖教国の連中ならば、もっと能力を引き上げられても全くおかしくはない。そう考えれば、アレナ聖教国の連中が白の十字架の研究に肩入れをしていたというのにも合点がいく。
もしそうだとすれば、白の十字架陣営に立ち向かうための方法は二つしか無い。一つは、邪魅の力をどうにかして消し去ることが出来れば、敵の戦力を大幅に削れることにはなる。もう一つは、力と力のぶつかり合いで相手を上回ること。
「私達にいまできることは、時間の許す限りで、何とか体内から邪魅を取り除く方法を考えるしかない。そうじゃなかったら、もう、魔法戦争のようなものを打ち勝つしか方法はない……」
「そんな……!そんな事本当に出来るんですか!?」
「出来るかどうかはわからないけど……少なくとも生物である以上、何らかの方法はあるとは思う…… まあ最悪のパターンは想定しておいた方が良いかもね」
それでも、希望はないわけではない。多かれ少なかれ、アレクサンドラが邪魅の研究に関与していたのは明らかである。そのアレクサンドラが、わざわざ誰でも使える魔鉱石なんてものを開発している以上、何か邪魅にも欠点がある事は間違いないのだ。
「鍵があるとすれば、南の大陸…… わざわざアレクサンドラが拠点をあんな場所に置いていたと言う事は…… きっと何かがあるはずだよ!」
「南の大陸ですか……確かにまだまだ調査の進んでいない場所ではありますが……」
と言うのも、私には一つ心当たりがある。現代でよく使われていた寄生虫に効果のある駆虫薬。確か菌が作っていた物質を利用していたはずだ。あんまり詳しくは覚えてないけど…… もし、そのことをアレクサンドラが知っていたとしたら、その鍵になる物質は、アレクサンドラが拠点を置いていたマルセーヌの街の近くにあると言うことになる。
いずれにしても、新大陸となると、リンドヴルムやルウが帰ってくるまでは身動きも取れない。私達は今できる事をやるしかないのだ。
「ナーシェ、もし皆が戻ってきたらナーシェが中心になって南の大陸で研究をして欲しい。他の王達との話もあるし……任せてもいい?」
「もちろんです!イーナちゃんはイーナちゃんのやるべき事をしていてください!それに、この分野で私がお役に立てないで、どこで役に立つというのですか!任せてください!必ず、発見してみせます!」




