202話 思い出せ
ある程度方針が決まった後、すぐに、私達は持っていた寄生虫のサンプルを調べるために病院へと戻った。サンプルを保管していたとは言っても、この世界の医療技術を考えると、冷凍保管するのが精一杯と言うところであった。幸運にも、妖狐の力のお陰で、冷凍させること自体はさほど難しくはなかったのだ。
ただ、現物があるからと言って、調べるというのも簡単な話ではない。何せ、私は寄生虫に関して、そこまで知識があるというわけではないのだ。見た目は白い小さな虫体ではあり、見る人が見れば、もしかしたらその正体も判別がつくのかもしれないが、私からしたらただの白い虫である。
わかっていることは、血流に乗って身体の中を動き回ると言うこと。そして、アレクサンドラ達によって、原種からある程度改良されていると言うことだけである。
――どうしたものかなあ……
すると、突然にナーシェが驚きの声を上げた。
「ぎゃっ……!イーナちゃんこいつ!生きてますよ!」
ナーシェの声に慌てて私は白い虫の方を見た。確かに先ほどまで完全に凍っていたはずなのに、再び白い虫は動いていたのだ。
「……おかしい……」
「ですよね!凍っても死なないなんて……!一体どうしたら……!」
「いや…… これだけ強い生命力を持っているなら……そもそもどうして邪魅は生命活動を止めていたのかと言うところに……私は何か引っかかっているんだ……」
何かがひらめきそうではあるが、あと少し、あと少しのところで、ケツ尾rんが見えてこない。そして、ナーシェの叫び声が部屋にこだました。
「ど、どういうことですか!!とにかく気持ち悪いです!」
「……だって、冷静に考えたら、寄生虫で人類が滅亡するなんておかしくない?私達の世界よりも遙かに文明が進んでいたのにも関わらず…… そのくらいいくらでも対処出来るはず」
「それはそうですけど!!」
「だから、何か大きな勘違いをしている……そんな気がしてきて仕方が無いんだ……でも、この虫が関わっていることは明らかだとは思う」
「だとすれば、他の可能性があるとすれば……毒とかですかね?」
「毒……」
ナーシェの言うとおり、凄まじい速度で成長した邪魅が何らかの毒を生み出したという可能性は考えられる。だが、何かしっくりとこない。成長した虫と言ったって大きさはたかが知れている。人間が滅びうるほどの毒を一気に生み出すなんてなかなか難しいだろう。
思い出せ。思い出すんだ私。
人間は、オーバーテクノロジーの末、滅亡した。そのテクノロジーには魔鉱石の発見が大きく関わっていた。そして、邪魅は人間が生み出した生物兵器である。アレナ達はシェルターを利用することにより生き延びた。と言う事はシェルターの中までは邪魅の影響は届かなかったと言うことである。
そして、アルヴィスは何故神通力を使えたのか。神通力が使えたのもおそらくこの虫のお陰であろう。確かに今の人間達の中には、私達の血が残っているとは言え、あれほどまでに使いこなせたというのは、不思議なものである。いや、アルヴィスはまだいいにしても、ノエルたちについてはそれでは説明がつかない。
そもそも何故、鳳凰の力で邪魅を対処出来なかったのか。別に鳳凰の力があれば、この虫が原因だとすれば、他の世界に隔離をすればすむ話であることは、間違いない。
私の頭の中でパズルのピースが埋まっていく。そして私が導き出した結論。もし、この仮説があっていたとなれば、鳳凰が対処しようと思ってもできない理由も、鳳凰が私に託したという理由も何となく理解できる。そして、白の十字架の連中が邪魅の力に固執する理由もわかる。
「こいつは……もしかしたら……」
「何かわかったんですかイーナちゃん!?」
「もしかしたら、これは私達にしか解決できない問題なのかも知れない……それに、このままだと……今度はエンディアが危ない」




