199話 姫の目覚め
「イーナ戻ったぞ!」
無事に飛空船へと帰ってきたミズチとリンドヴルム。戻ってきたのは2人だけではなかった。カラマと、リーハイの街で初めてカラマと出会ったときに一緒にいた部下の女性も一緒であった。だが、カラマは何も言わずに、ただ虚無と言った表情のまま動かなかった。なんとか部下の女性に支えられながら立っているのもやっとというような様子であった。
聞きたいことは沢山あるが、今はまず退くのが先である。のんびりしている時間はない。
「テオ!出発!」
「了解なのニャ!」
すぐさまに地面を離れ宙へと浮いていく飛空船。まずは、エンディアまで、無事に退くことが私達に課せられたミッションでもある。
「さて……」
何とか無事に離陸を終え、機体も安定してきた。それにしても、今回の偵察の任を、ミズチに任せて本当に良かったと私は思っていた。出発前に、カラマを連れ戻してきてと頼んだのを見事に果たしてくれただけではなく、部下までも無事に連れてきてくれるとは思ってもみなかったのだ。
「状況を整理したい。リーハイの街で何が起こっていたのか」
そこで言葉を発したのは、カラマの部下の女性であった。彼女は、ショックを受けた様子でありながらも、なお凛とした様子で、口を開いた。
「現体制に対するクーデターです。いきなり街中で爆発や火の手が上がったと思ったら、一気に王宮に兵士達がなだれ込んで……街で警備任務をしていた私は、街の人々の避難活動に当たっていたのですが、気が付けばもうリーハイはこのような有様に……思ったよりも兵士達の裏切りも多かったようで、みるみるうちに状況が悪くなっていって……カラマ様と合流は出来たものの、とても王宮の方へと近寄れるような状況ではありませんでした……」
その言葉で私は、この女性がいたからこそ、カラマもこうして一緒に戻ってくることが出来たのだと確信した。
「そう……ありがとう!君のおかげで、カラマさんともまた合流できた!自己紹介をまだしてなかったよね……私はイーナ。レェーヴ連合国の代表だよ」
「私は、弐番隊副隊長補佐のロコと言います。イーナ様のことは、カラマ様よりお話は伺っておりました。この度はありがとうございました!こうしてカラマ様が無事だったと言うだけで……」
動揺こそしているもの、ロコについては話し方もしっかりしているし、大丈夫であろう。問題は、その横で放心状態に陥ってしまっているようにすら思えるカラマの方である。ロコの説得を受けたのだろうか、大人しくしているような様子ではあるが、なかなかに精神的に不安定になりかけているカラマに、私は声をかけた。
「カラマさん!あなたの気持ちもわかるけど、このまま一旦エンディアまで退かせてもらう。エンディアまで戻れば、シーアンと友好関係にあったイナンナ女王の協力も得られるかもしれない。いいよね!」
「……ああ、すまない」
………………………………………
エンディアに向けて移動していた私達。特段、トラブルもなく、順調に進んでいた。そんな折、ナーシェが慌てて私の元へと駆け寄ってきた。
「イーナちゃん!大変です!」
「どうしたのナーシェ」
「ルカちゃんが目を覚ましましたよ!」
アガレスとの戦いで無理をしすぎてしまった反動か、あれ以来ルカは眠ったまま目を覚ましていなかった。命に関わるような様態では全くなかったものの、それでも私は後悔の念に駆られていた。
もし、あのときルカに無理をさせていなければ… もう少し早く戻っていたら……
ルカの看病をナーシェと交代で行いながら、ルカの寝顔を見る度に、私の中にそんな気持ちが大きく芽生えていたのだ。
それでも。
「ルカ!!」
ルカの寝ていた部屋のドアを開けると、そこには起き上がって、こちらに変わらぬ笑顔を見せるルカの姿があった。いつもと変わらないルカ。それが私にとってどれだけ大切な存在であったか。
「イーナ様……騒がしいよ!」
「ルカ!ごめんね!私のせいで!無理をさせてしまったから……」
「イーナ様が、その剣を託してくれたから、ルカもがんばれたんだよ!それに、いっつもイーナ様もこうして、皆に心配をかけてばっかりで、たまにはルカの気持ちもわかった?」
そう言って笑顔を浮かべてくれたルカ。その言葉に私もついつい笑顔を浮かべてしまった。そう、いつも私が突っ走ってしまっているせいで、ルカやナーシェ達には同じように心配をかけてしまっていた。自分が頑張ればとずっと思っていたけど、こうして、他の人を見守るしか出来ない立場になってよくわかった。
「そうだね、今までごめんねルカ、ナーシェ」
「ホントですよ!いっつも私ばっかり心配する立場になるんですから!ルカちゃんまでイーナちゃんと似てきてしまったら、私の心労も2倍なんですから!」
むくれるようにそう言うナーシェに、私とルカはただ笑うことしか出来なかった。




