195話 鳳凰を名乗る少女
「私の世界?どういうこと?それにどうして…… 私の名前を?」
目の前にいたのは、赤みがかった長い髪と、くりっとした目を特徴とした可愛らしい女の子であった。どうやら、敵意を持っているという様子ではなさそうだし、会話は出来そうではあるが…… 正直、会ったこともない少女に、こんなにフレンドリーに話しかけられている現状に、私は少なからず戸惑っていた。
「まあまあ、あれだけ君の名前が呼ばれていたら、誰だってわかるよ!」
少女は無邪気な様子で笑っていた。なんだか少し面白くない。一体何が気に食わないかというと、私は目の前の少女の事を何一つ知らないのに、向こうは、私達のことを全て知っていると言わんばかりの余裕である。だけど、もし化したら、私の記憶違いかもしれないし、もし本当に面識があったとしたら、それは大変失礼な話になってしまう。
「ごめんなさい、申し訳ないけど…… 何処かであったことあった?」
私の問いかけに、再び少女は笑みを浮かべながら答えてくれた。
「あーごめんごめん。わからないよね!私は鳳凰だよ!」
「「鳳凰!?」」
思わずルウと、驚きの声が重なってしまった。まさか、鳳凰がこんな少女だったなんて、確かに言われてみれば、優雅に空を飛んでいた姿と同じような気品が……あるか……?
そう考えていた私の心の内を読み取ったのか、鳳凰を名乗る少女は少しむっとしたような様子で、私に語りかけてきた。
「むっ…… 君今何か失礼なことを考えていなかった?」
――ばれた……?
「ばれるよ!なんたって、私は鳳凰だからね!この世界を作り出した存在なんだから!」
どうやら、見た目通り、性格は真っ直ぐというか、少し幼さも残っているようである。それはさておき、私が引っかかったのは、彼女の言葉。「世界を作り出した」とは一体どういうことなのかと言う事だ。聞きたいことは山ほどあるが、まずは、機嫌を取り戻す必要があるだろう。
「ごめんね!まさかこんな可愛い女の子が鳳凰だとは想像もしてなかったから……!」
私の言葉に、少女は思わぬ食いつきを見せてきた。
「可愛い!?私やっぱり! イーナ!やっぱり君は出来る子だと思っていたよ!うんうん!私かわいいよね!」
すっかり機嫌が直った鳳凰。まあ、少しめんどくさそうな部分はあるが、何となく扱いやすそうである。
「うんうん、かわいいか~~ まあ、君達も相当可愛いけど!私のかわいさには敵わないよね!」
ルウと2人で、あきれながら鳳凰の言葉にひたすら同意を続けた。鳳凰の可愛いトークはしばらく続く。遂に耐えきれなくなった私は、鳳凰の損ねないように、気をつけながら、本題へと話を戻すべく話を切り出した。
「あの……鳳凰さん。聞きたいことが山ほどあるんだけど…… 世界を作り出したってさっき言ってたけど……」
「あーごめんごめん!すごい話がそれちゃったね!まずは、どこから話そうかなーー。ちょっと話が長くなっちゃうかも知れないけど……聞いててくれる?君達にとっても大切な話だから!」
先ほどまでの私可愛いトークに比べれば、多少長い話になろうが全然平気である。私とルウは鳳凰の言葉に力強く頷いた。
「まずね!信じられないかもしれないけど…… 私は神なの!これは本当の話!」
うんうん、鳳凰は神と。それは知って……
「ごめん、どういうこと?」
いきなり頭の中に落とし込めるにはハードルが高い話が来た。鳳凰は神?全然理解が追いついていかない。
「言葉通りだよ!ここをわかってくれないと話が進まないから!とりあえず流して!」
突拍子もないカミングアウトについつい言葉を上げてしまったが、鳳凰の言うとおり、このままでは全く話が進まなそうなのは事実である。ここは、ひとまず鳳凰の言葉をそのまま受け入れることにしよう。
「私の力は異なる世界を作って渡る能力。この場所は、私と君達しかいない場所。さっきまでの世界とは異なる場所。時間という概念もなければ死という概念もない私だけの場所。そして、イーナ。君をこの世界に呼んだのも私の力なんだよ」
「この世界に呼んだ?どうして?」
いまいち話が読めてこない。世界を作ると言われても、なんだかぴんとこないし、どうして私をここに呼ぶ必要があるというのか。すると、鳳凰も私のそんな表情を読み取ったのか、慌てたような素振りで、言葉を付け足した。
「ごめんごめん、言葉が足りなかったね!イーナ!君に目をつけてこの世界に呼んだのは私。死にかけていた君を、私が呼んだの」
死にかけていた?一体どういう……
そこで私は、鳳凰の言葉の意味を理解した。まさかとは思うが、現に私はここにいる。到底信じられないような話であるが、もしそうであれば、彼女の言っている事も筋が通る話になる。それは私自身の存在が証明しているのだ。
「そう、あのとき、崖から見事に落ちて死にかけていた君をこの世界に呼んだの。この世界のために。九尾を失わせないために」




