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185話 つまらない相手


「何故動けるのです?」


 目の前に立つミズチを、信じられないという目で見るレヴィン。まさか、自らの能力を使ってもなお、立っている者をレヴィンは未だ見たことがなかったのだ。


「あいにく、このくらいの状況なら経験済みだ」


 そう言い放ちながらも、ミズチの額からは一筋の汗が流れていた。お互いが互いの様子をうかがいながら、時だけがただ流れていく。先に沈黙を破ったのはミズチであった。


「どうした?びびってるのか?」


 吐き捨てるように、ミズチが口を開く。


「無礼な口を…… 良いでしょう、挑発に乗るとしましょう」


 ミズチの挑発を受けたレヴィンは、ミズチに向けて剣を構えながら突っ込んでいく。


平然とした様子でミズチは立ってこそいるが、それでもなおレヴィンの能力は発動している。


――最初こそ、冷静さを失ってしまったが、冷静に考えれば能力を発動している以上有利なのはこちらである。ならば、ここは奴のペースに流されてはならん。


 レヴィンがそう考えるのも当然である。明らかに誰が見ても状況はレヴィンに有利である。


そして直後、剣と剣が交わる音が森へと響く。火花を上げながら剣と剣が交差し続ける。レヴィンの怒濤の攻めに、ミズチは受け続けるのがやっとといった様子であった。


――やはり、私が有利。このまま押し切れば勝てる!


 ミズチの呼吸はすっかり乱れていた。レヴィンの能力の元、重くなった身体を動かし続けるのはいつもに増して、消耗が激しいのだ。


「どうした?さっきまでの勢いはどこへ消えた!」


 レヴィンはさらに、激しい打ち込みをミズチに向け繰り出した。今こそたたみかけるとき。レヴィンはそう理解していたからこそ、一気呵成に攻め立てたのだ。だが、レヴィンの激しい攻撃をミズチは消耗こそしながら的確に受けて続けていた。次第に、仕留めきれないという事実にレヴィンはいらだちにも似た様な感情を覚えていった。


――何故だ?何故仕留めきれない?それにこいつの剣……確実に私の剣を捉えてきている…… 何故だ?


 そんなレヴィンの焦りを見透かしたかのように、ミズチハ攻撃を受けながら静かに口を開いた。


「所詮能力任せじゃその程度か……」


 ミズチの言葉に、顔を真っ赤にしながら力任せに剣を振るうレヴィン。自らが有利な立場に立っているはずなのに、ミズチを仕留めきれないという焦燥から、ミズチの挑発に容易に乗ってしまっていた。


「無礼な!無礼な!無礼な!」


 レヴィンが振りかぶるように剣を頭上に上げたその時、レヴィンに生じた隙をミズチは見逃さなかった。まるで獲物を仕留めるときのヘビのような視線がレヴィンを襲う。ミズチの殺気の篭もった視線を受けたレヴィンは、蛇ににらまれたカエルのごとく、一瞬動きが止まった。


「もう、お前に興味は無い。俺はあいつほど甘くはないぞ……」


――まずい……ガードを……


――遅い……


 一刀。レヴィンがミズチの剣を防ごうと反応したときには、すでにミズチの剣がレヴィンの身体を両断していた。


「な……」


 ミズチが剣を収める音が静かに森へと響く。森は時が止まったかのように、一瞬の静寂に包まれていた。そして、刹那の制止の後、血を吹き出しながら真っ二つになったレヴィンの身体が空しく地面へと崩れ落ちていく。真っ赤に染まった背後を見ることすらせず、ミズチは一言呟いた。


「つまらない相手だったな」


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