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183話 流血


「ねえ、イーナ~まだ頑張る気なの~?」


 何とか持っていた液体の小瓶を利用しながらノエルの攻撃を防ぐ。だが、ノエルが自らを傷つける度に、どんどんと場の空気が淀んでいく。もはや気持ちいいなんて代物ではない。回る視界と、少しでも油断すれば一気に吐いてしまいそうなほどの気持ち悪さ。それでも、ここで私が屈してしまえば、私もルウもノエルに殺されてしまう。


「あいにく……諦めだけは悪いタチでね……」


「もう早く楽になっちゃえば良いのに~!大丈夫だよ~!苦しくないよ~!だって、どうせ死ぬときには、もう意識はないんだから~」


 笑顔のままそう言い放つノエル。だけど、私とてただただノエルの攻撃を防ぐだけの後手に回っていたと言うつもりはない。


 強いて言うならば、運が良かったという言葉以外には見つからない。もし、この小瓶を持ち合わせていなかったとしたら、もうとっくに私はノエルに殺されていただろう。


 こんな状況でも心が折れない理由。一筋だけ見える勝利への道がまだ残されているからこそ、限界を超えた状態でも、まだ私の心は折れてはいなかった。


「ほら~ほら~! 苦しいでしょ! 気持ちいいでしょ!!」


 そう言いながら再び自らを傷つけるノエル。だが、ノエルはまだ自らの身体に起こっている異変には気付いてはいなかった。


 もう一つ、幸いだったのは、ノエルの血の効果時間が思ったよりも短かったと言う事である。ノエルはまだ気付いてはいないようだが、確実に周りの化学物質の濃度は薄くなってきているようである。先ほどまでぐるぐると回っていた視界が、ぼんやりとしか見えていなかった視界が、少しずつ、少しずつ元へと戻っていくのがわかる。


 いつまで経っても、倒れるどころか、だんだんと自らの剣の攻撃を的確に防ぎ始めた相手の様子に焦りを覚え始めたのはノエルの方である。


――おかしい、イーナの動きがだんだんと早くなっていっている……濃度が下がっている?


 ノエルの焦りは、私にも剣を通して伝わってきた。先ほどまで私を痛ぶるのを愉しむかのように、縦横無尽に暴れていたノエルの剣に迷いが生じてきている。いや、ただの迷いではないだろう。確実に効いているのだ。私の切り札が。


「イーナァ!一体、一体……なにをしたァ!?」


 先ほどまでの笑顔を浮かべていたノエルの表情は、もはや焦燥へと変わっていた。そして、薄くなった周りの化学物質を補うかのように、再び自らの腕を傷つけるノエル。だが、その血は固まって宙に放たれることはなく、どんどんとノエルの腕を滴り続けていた。


「……ノエル、手の内を晒した時点であんたは負けたんだ」


 私はもう確信していた。この勝負は私の勝ちであると。先ほどまでぼやけて見えていたノエルの姿がくっきりとした姿へと変わっていたのだ。


「……どういうこと?どうして私が……?」


「あんた、自らの血が固まりやすいと言っていたよね?飛散した血の塊の力だと。あんたの能力は血が固まったときにしか発動しない……」


 ノエルの能力。固まりやすいノエルの血は、体外に出た瞬間に凝血し、細かい粒子となって空気中へと放たれる。


 そもそも何故血を操作できるのか。魔法の力なら何らかの形でマナが関与しているはずである。だからこそ、私は固まった状態の血でないと操作できないと確信していたのだ。



 そもそも血がどうして固まるか。タンパク質の網のようなもので、絡め取られるような形で、血は固まる。凝固と呼ばれる現象である。つまり、おそらくは、その網で血とマナを一緒に絡めることで、マナによる血の操作が可能になっている。私はそう考察していた。


 そのマナごと固まった血の細かな破片を操作し、そして血に含まれる何らかの化学物質を利用し、対象の感覚をおかしくする。


「要は、血を固まらせなければ……あんたの能力は発動しない」


 私の言葉に自らの腕を見るノエル。ノエルの傷口から流れ出た血液は固まることなく、腕を真っ赤に染め、ぽたぽたと滴り続けていた。


「どうして……?」


「私を誰だと思っているの?モンスターの医者だよ?血が固まらなくなる薬なら、常備している」


 抗凝固薬。血を絡め取る網を作らせなければ、そもそも血が絡まることはない。いろんなモンスターの血液を採取し、サンプルとして利用できるように、どこに出かける時も私は懐に忍ばせていた薬の一つである。


「血が、固まらなくなる……?でもそんな薬いつの間に……?」


「打ち込んだのは、ノエル、あんた自身だよ」


「……まさか……」


 そう、私が途中からノエルの攻撃を防ぐために利用していた液体。凍った液体を斬ったノエルの剣は、水で濡れていた。ノエルの攻撃を防ぎながら、私は少しずつ、ノエルの剣に抗凝固薬を含ませていたと言うわけだ。


 その抗凝固薬は少しずつではあるが、自らを傷つけるノエルの手によって、傷口から体内へと入っていく。少しずつでも、直接血管に入れているのと同じワケであり、その効果が出始めたというわけだ。


「もう、あんたの魔法は発動しない。終わりだよノエル」


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よろしくお願いいたします。
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