172話 飛空船にて
「待って下さいね……イーナさんが国の代表……と、……つまりは、えーっと……女王……? ええっ!女王様?」
「ま、まあそんな感じかなあ…… ちょっと違うけど……」
すっかりパニックを起こすリン。いつかは言わなきゃいけないことではあったし、こうなることもわかっていた。あんまり言いたくはなかったけど……
「ま、まってください……じゃあ……わ、わたし、女王様にぶつかって……それにお金も……」
顔面が青ざめていくリン。何とかパニックを治めようと、私も必死でリンにフォローをする。
「大丈夫だよ!ぜんぜん、気にしないで!今まで通りで大丈夫だよ!あとは、ミズチ。彼もレェーヴ連合のトップの1人だよ!それと、ルカとナーシェとテオと……リンドヴルムとルウ」
だが、リンは私の言葉が全く頭に入らないようで、ただただ呆然としていることしか出来なかったようである。まあそんな事を言っていたらいつまで経っても出発が出来そうになかったので、ひとまずは飛行船へと皆で乗り込むことにした。飛空船に乗った後も、リンの頭の整理は追いついていないようで、ただただ念仏のように独り言を繰り返している。
「イーナさんが女王…… イーナさんが女王……? このままじゃ、私打ち首……?それとも磔……?」
「そんな事しないって!」
「すっかり怯えさせてしまったようだな、イーナ」
ミズチが苦笑いをしながら私へと語りかけてくる。心なしか、ミズチは、リンがパニックに陥っているのを楽しんでいるようにすら見える。
「さて!そろそろ離陸するのニャ!準備をするのニャ!」
テオの声で飛空船が少しずつ空へと浮いていく。先ほどまですっかりパニック状態であったリンも機体が上昇するにつれて、平静を取り戻しすっかり飛行船のフライトに夢中になっているようだ。
「すごい!浮いてます!すごい!」
「でしょ!これでルカもイーナ様と一杯旅をしてきたんだよ!」
ルカとリンは年が近いこともあるのだろうか、もう打ち解けているようである。ルカにも新しい友達が出来て、私も嬉しい。その様子をルウは少し羨ましそうな様子で見つめている。
「ルウも行ってくれば?」
とんっとルウの背中に手をさしのべ、ルウへと声をかける。ルウは珍しく焦ったように私へと言葉を返してきた。
「楽しそうだなって思っただけです!私が入ったら邪魔しちゃうかもしれないし……」
「大丈夫だよ!ルカもリンも良い子達だし!もちろんルウも!」
今度は、リンと一緒に外を眺めているルカへと声をかける。
「ルカ!」
私の声にルカは楽しそうな表情で、こちらへと振り向いた。
「何?イーナ様!」
「せっかくだから、飛行船の中をリンに案内してあげたら!ルウもこの飛行船のことまだよくわからないだろうから、ルウも一緒に!」
「イーナ様……!」
ルウは慌てたように私の名を呼ぶ。そんなに気にしなくてもいいのに…… そう思っていると、ルカが笑顔を浮かべながら私に向かって頷き、そしてリンの手を引っ張ったまま私の隣にいるルウの近くへと寄ってきた。
「ルウ!行こう!ルカが案内するよ!」
そのまま、奥へと消えていく3人。リンとルウのことはルカに任せておけば大丈夫そうだ。ルカならすぐに誰とでも打ち解けられる。
「ルカちゃんすごいですよね!すぐにリンちゃんとも仲良くなって……」
「ナーシェだってそうだよ。最初から私達とも仲良くしてくれたし!」
ちょうど私達が初めてフリスディカへとついたとき、ナーシェとは偶然に街の中で出会った。ナーシェは私達の正体を知ってもなお、以前と変わらぬ態度で接してくれた。なかなかそんな人間も珍しいだろう。
「懐かしいですね! まああれもイーナちゃんが可愛かったから……!」
「おい、ナーシェ!お前までイーナを妻にするつもりなのか!」
リンドヴルムがここでワケの分からないことを言いながら乱入してくる。
「大丈夫ですよ!リンドヴルム君!イーナちゃんは皆のものですからね!」
一体何が大丈夫なんだかよくわからないが、リンドヴルムもなんだか納得した様子である。すっかりポンコツキャラになってしまっているが、大丈夫なんだろうか?
「長旅でも、退屈しなさそうだな……」
ずっと皆の様子を見ていたミズチがぼそっと呟く。言葉こそ、ちょっと棘があるように思えるが、ミズチもよく見ると少し笑みを浮かべていた。私も小さくミズチの言葉に頷く。私がこの世界に来てから、皆と出会ってから退屈をしたことなんてない。そしてきっとこれからも。
そのままフライトは続いた。そして、そうこうしているうちに、私達はあっという間に、ローナン地方へと到着したのである。




