169話 鳳凰が呼んでいる?
「それって……」
私の誘いの言葉に、リンは驚いた様子で口を開く。
「とりあえず、衣食住は保証するよ!流石に給料までは今は払えないかもしれないけど……」
「いえ!十分です!でも本当にいいんですか?私別に何か特技があるわけでも何でも無いのに……」
「大丈夫だよ!こっちの土地勘のある人がいてくれると言うだけで心強いし!」
そう、私達が今一番必要としているものは、この街、そしてこの国に関する情報である。現地の人であるリンならば、少なくても私達よりは確実にシーアンの事情に詳しいだろうし、案内をしてもらうにはうってつけである。すると、リンは、急に椅子から立ち上がり深々と頭を下げながら、口を開いた。
「ぜひ!よろしくお願いします!私でお役に立てることなら、何でもするので!」
リンは先ほどまでの不安を露わにした表情はどこへやら、すっかり希望に満ちあふれた顔へと変わっていた。
「い、いや……そこまで気負わなくても……」
「いえ!せっかく私に仕事をくれたのだから…… せめて、恩返しをさせて下さい!生活が保障されていると言うだけで、私は幸せですから!」
リンは見た目はまだまだ少女である。それにも関わらず、ここまでの覚悟が背負えるほどに精神面は大人びている。一体、今までどんな人生を送ってきたのだろうか。あまり深い追いするのも良くないことはわかっていたが、私はリンについ尋ねてしまった。
「そんなに、今まで大変な暮らしをしてきたの?」
「……私、昔はローナン地方っていう、リーハイから南に行ったところで家族と暮らしていたんです。でも、数年前、シーアン国内で内紛が起きて……ちょうど、私が住んでいたところも巻き込まれて、家族で逃げるようにリーハイにやってきたんです。父はその時に負った傷が元で結局亡くなってしまいました。母は1人で私を育てるために必死で働いていたのですが……」
だんだんとリンの声が震えていく。一体この年でどれだけの物を背負ってここまで生きてきたのだろうか。想像するだけでも、言葉が出ない。
「ごめんね、辛いことを思い出させてしまって……」
「いえ、それでも生きていかないといけないですから……私も必死に働こうとしたのですけど、良い教育を受けているわけでもないし、力があるわけでもない…… なかなか働くというのもこの街では難しくて……」
「ここに来たばかりで、私もあんまりよくわかってないんだけどさ、一目賑わっている印象を受けたんだけど……話を聞いている限りではそんな事もなさそうだね」
「この街は特にお金持ちとそうでない人達との差が激しいですから……皆、夢を求めてこの街へ来るんですよ」
誰もが成功を夢見て都会へと出てくる。だけど、誰もが成功するなんて夢みたいな話はない。結局は一握りの物だけが成功を収め、それ以外の者達は、今まで以上に苦しい生活を強いられることになるのだ。
リンの家族についてもおそらくそうであったのだろう。だけど、現実は厳しかったのだ。残されたリン1人では、仕事を探すのも、それにリーハイを出て他の場所で暮らすという選択肢をとると言うのも、困難であったのだ。だからこそ、リンはあんな行為をしてしまった。
「ねえねえ、リン、話題を変えて申し訳ないんだけど、そういえばさっきローナン地方に昔住んでたって言ってたよね?」
「はい、紛争が起こるまではすごく住みやすくていい所でした。私達の家族はそこで農業をして暮らしていたんです」
「ちょうど、私達もローナン地方に行きたいと思ってたんだ!」
「ローナン地方ですか…… でも、一体何をしに行くつもりなんですか?特に何かがあるというわけでもないですよ」
「私達、鳳凰伝説について調べているんだ!それで、ホウオウフルーツ?元々はローナン地方原産って聞いて、ローナンに行けば、何か鳳凰についてわかるかなと思って!」
私の言葉に、リンは少し考えこむように黙った後、ゆっくりと口を開く。
「鳳凰…… 私が小っちゃい頃、ローナン地方に住んでいた頃、一度だけ見たことがあります……見たと言っても、まだ小っちゃかったから、全然覚えてなくて、母から聞いた話なんですけどね」
「やっぱり!本当にいるんだね!」
すっかり興奮してしまった私の様子をみたリンは、おそるおそる、私の様子を伺うかのように、私に問いかけてきた。
「イーナさんは信じてくれるんですか?」
「信じるよ!」
「やっぱりイーナさんは不思議な方ですね。この話をすると、お前なんかが鳳凰に会えるわけがない。でまかせだって、皆に嘘つき呼ばわりされて…… 鳳凰はこの国の人々にとって、神みたいな存在ですから…… 鳳凰に選ばれた人間しか、出会えないとこの国では伝えられているのです。だからこそ、私だって信じられません。才能も無ければ、特別でもない。こんな私が鳳凰に選ばれるワケがないと」
「でも、リンは出会ったんでしょ!きっとまた会えるよ!リン、一緒にローナン地方に行ってくれない?これも絶対何かの縁だよ!」




