167話 偶然見知らぬ少女と出会ったとか
「泥棒!?」
ふと、さっきまでいたはずの少女の方へと目線を向けると、そこにもう少女の姿はなかった。まさか、あの女の子が……?
「おい、イーナ!あいつあっちの方向に走っていったぞ!」
ミズチの声に、私もミズチが示した先を見ると、確かに走り去っていく女の子が見えた。小さな身体を生かして人混みの合間を抜けていく女の子。だが、足元がおぼつかなかったのか、転んでしまったようで、大人達に取り囲まれそのまま観念したようだ。それにしても、あんな小さな、それに一見普通の少女に見えた女の子がなぜ泥棒など……
私達もその人混みの方へと寄っていく。
「ごめんなさい!どうしてもお腹がすいて……!でもお金持ってなくて……」
どうやら、食べ物を受け取ったまま、お金を払わずに逃げ去ったようで、少女はただひたすら泣きながら謝り続けていた。
「謝ったらすむと思うなよ!こっちだって生活がかかっているんだ!金さえ払えば、見逃してやる!」
男が叫ぶ。
「ごめんなさい!私、お金持ってなくて……!」
ただ泣き続ける少女。その騒ぎで、どんどんと人が集まってくる。
「なら、大人しく軍に捕まるんだな!例え、幼いとは言え盗みは盗みだ!今軍を呼んでくるからな!」
「ごめんなさい!いつか返しますから……!それだけは!」
「ちょっと待って!」
私の声に、少女も、被害者の男もこちらを見る。それだけじゃない。事の顛末を見守っていた通行人達の視線も私へと集まっていた。
「私が代わりに払うよ!いくらだった?」
少女の服を汚してしまった事に対する謝罪のつもりでもあったが、何よりもこんな小さな女の子が泣きながら謝っている姿を見ているのがいたたまれなかったというのが一番大きかった。さっきの逃げ方といい、私にはこの子が、特段普段から盗み慣れているというようには、到底思えなかったのだ。
「お前、こいつの知り合いかなんかか?別に払ってさえくれりゃ、こちとら文句はないけどな」
「違うけど……ちょっとさっきその子とぶつかっちゃって、服を汚しちゃったから……」
「妙な奴もいるもんだな。おい、お前良かったな!このお姉さんに感謝しておけ!もう二度とするなよ!」
………………………………………
「で、なんで泥棒なんかしようと思ったの?」
支払いを済ませた私達は、女の子と一緒に、近くにあったお店へと来ていた。まだ目は赤かったが、ようやく、女の子も落ち着いてきたようで、私に問いかけに静かに口を開いた。
「……お腹がすいて、こうするしか思いつかなくて……お姉さんごめんなさい!そしてありがとうございました」
「はいよお待ち!7人分ね!あとこれは猫ちゃんの分!注文はお揃いかな!」
目の前に並んだ料理に、すっかり女の子は目を奪われているようであった。だが、全く手をつけようとはしない。やっぱりどうしても私には悪い子のようには見えなかった。
「とりあえず食べようか!お腹もすいてきたところだし!」
「でも、私お金持ってない……」
少女は申し訳なさそうにうつむいている。
「いいよいいよ!服汚しちゃったし!そのお詫びも兼ねてね!気にしないで食べて!」
「そうだよ、一緒に食べようよ!ね!」
ルカも同じくらいの歳の女の子に対して笑顔を向ける。女の子はゆっくりと食べ物を口へと運び、そして口の中に入れた。次の瞬間、女の子の目から大粒の涙がどんどんとこぼれ落ちてきた。
「美味しい…… こんな美味しいご飯…… 久しぶり……」
その姿に、なんだか私も嬉しくなる。そのまま、女の子は号泣しながら、夢中にご飯を食べ続けていた。




