166話 ホウオウフルーツ
ワン王との会談を明日に控えた私達は、情報収集の為にリーハイの街へと繰り出した。店が大量に建ち並ぶ大通りは、人に溢れフリスディカ以上の活気が溢れていた。流石東の大国シーアンの中心都市と言うだけある。
「どうだい!ホウオウフルーツ良いの入ってるヨ!」
おばちゃんが路上を歩く人々に声をかけていた。その果物の名前が気になった私は、おばちゃんの元へと向かった。
「ねえねえ、ホウオウフルーツって?」
「おっ、嬢ちゃん、どっからきたんだい!」
「おばちゃん、私がこの国の人じゃないってわかるの?」
すると、果物屋のおばちゃんは笑いながら私の問に答えてくれた。
「そんな珍しい格好ここらじゃ見たことないよ!それに、この国でホウオウフルーツを知らない人はいないからねえ!」
「そんなに有名なんだ!ホウオウフルーツってどんなのなの!」
「これさ!」
おばちゃんが指した先には、緑色の所々棘が生えたような、ウニのような球体が大量に置かれていた。てっきり名前から色鮮やかなフルーツを想像していたが…… 思ったよりは大分地味な果物である。
「これがホウオウフルーツ?」
「そうさ!シーアンの守り神とされる鳳凰様にあやかって名前がつけられたこの国の名物なのさ 。一見地味だけど、ちょっと待ってな……」
そう言うと、おばちゃんは包丁をこしらえ、大量に並んでいたホウオウフルーツを一つ手に持った。何とも手に持つと痛そうな見た目ではあったが、棘のように見えていたものは思っていたよりも柔らかいようで、おばちゃんは、棘など意にも介さずに手に持つホウオウフルーツに包丁を入れた。
ぱかっと割れたホウオウフルーツは内部は色鮮やかな真っ赤な果物であった。切り口からあふれ出す赤い果汁は、太陽の光を反射し、キラキラと光り輝いている。思わず、よだれが出てしまいそうなほど美味しそうである。
「ほら、ちょっと食べてみなよ!」
おばちゃんはホウオウフルーツの実の部分を器用に包丁で取りだし、私の方に向けて差し出してくれた。一体どんな味がするのか、少し緊張したままおそるおそる口へと運ぶ。口に入れた瞬間に、はじけるような香りが口中へと広がる。そして、どんどんあふれ出してくる果汁。とても甘い、そして爽やかな味が広がった。
「これ、美味しい!」
思わず、私も興奮して、おばちゃんに対して笑みを浮かべる。おばちゃんも私の様子を微笑ましく見つめてくれていた。
「そうだろそうだろ!元々ホウオウフルーツは、シーアン南部が原産なんだ!古くから鳳凰伝説が残るローナン地方が発祥とされているんだよ!」
「ローナン地方?」
「そうさ、このリーハイがあるのが、ちょうどシーアンの中央あたり、ここから南に向かうと、ローナン地方と呼ばれる熱帯地方が広がっているんだ!後は西側には山の広がるローシャ地方、そして北部は平野が広がるローペイ地方と呼ばれているんだよ!」
「ありがとう!私達まだシーアンに来たばっかりで、シーアンの事よくわかってなかったから助かるよ!ホウオウフルーツいくらなの!」
おばちゃんにはシーアンについて色々と教えてもらった。流石に、このまま買わないで去るというのもあんまりだろう。少し多めにホウオウフルーツを購入し、果物屋を後にした。
紙袋に包まれたホウオウフルーツを持ちながら、私達は街の探索を続けた。物珍しいおそらくシーアン伝統のものであろう衣装、そして初めて見るような食べ物。全てが私達に取って新鮮な光景である。だが、なかなか鳳凰や霊亀についてのめぼしい情報というのは集まらなかった。
それでも、全く情報が無かったというわけでは無い。あくまで可能性の話にはなるが、ホウオウフルーツの発祥の地とされるローナン地方、そこに行けば、何か鳳凰に関する情報というのも手に入るかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、突然に私の身体に衝撃が走った。その衝撃に、思わず私も尻餅をついてしまう。考え事に夢中になっているあまり、走ってきた少女の事が眼に入っていなかったようだ。
「大丈夫!?ごめんね!考え事をしていて!」
「ごめんねお姉さん!ちょっと急いでいたから……!私は大丈夫!」
少女はすぐに立ち上がると、私へと頭を下げた。よく見ると、少女が手に持っていたであろう食べ物で、少女の服は汚れてしまっていた。何とか私の服は大丈夫であったが、ぶつかってしまった以上、このまま放っておくというわけにも行かなかった。
「服……汚れちゃってる!」
その時、突如として、人混みの中から、男の叫び声が道にこだました。
「泥棒!だれか!そいつを捕まえてくれ!」




