165話 夜に出歩くのは危険です
暗くて姿こそ良く見えなかったが、声からして男である事は間違いなかった。男の手元にはきらりと光る日本刀のような刀が見えた。
「おい、なんだてめえは、こいつらの仲間か?」
先頭に立っていた男が、突如現れた謎の男に向けて言葉を放つ。不気味なほどの静寂の中、コツンコツンと歩く音だけがこだましていた。
「おい!てめえなめてんのか!返事くらいしやがれ!」
「この国で悪さを企てる不届き者…… 見過ごすわけにはいかない」
冷たく静かな男の声が響く。その威圧感たるや恐ろしいものであった。目の前のチンピラ達とは全く異なる。この男は強い…… そう感じていたのは私だけではなかったようだ。ミズチやルウですら、その男の一挙手一投足にすっかり目を奪われていた。
「おい……なんだあいつ……」
チンピラ達の中にも、ざわつきが現れた。それは、男が一歩また一歩と足を踏み出すたびに、次第に大きくなっていく。
「無視してんじゃねえよ!お前は一体何者だ!」
チンピラ達のリーダー格の男、先頭の男が叫ぶ。だが、その男の顔、そして声色からは、さきほどまでの余裕はもうすでに消え去っていた。
「私の名はカラマ…… それだけで十分だろう」
カラマが自らの名を名乗ると、途端に男達の顔は恐怖に包まれていった。すっかり蚊帳の外になった私達はただそのやりとりを見つめていることしか出来なかった。おそらくカラマは、私達の敵ではない。それはわかっていたが、その圧倒的な存在感にいわば気圧されてしまっていたのかもしれない。
そして、それを受けている男達の恐怖と言えば、想像するに恐ろしいものである。やはり、悪いことはするものではないと、心からそう思った。
「カラマ…… まさか……」
「なんで、弐番隊副隊長の男がこんなところに……」
チンピラの男達は逃げようとする者もいたが、すっかり恐怖に支配されてしまったようで、もはや足元もおぼつかないようだ。
「はったりだ!てめえふざけやがって!」
先頭の男はカラマに向かって突っ込んでいった。次の瞬間、カラマの突きが男のみぞおちに直撃した。そのまま力なく倒れ込む男。そして、すっかり腰を抜かしてしまったチンピラ達にカラマは冷たい目線を向け口を開いた。
「大人しくしろ。そして、自らの行いをきちんと反省するのだな」
「カラマ様~~!そんな奴ら私達だけで十分だったのに~~」
遅れてカラマの部下だろうか、カラマと同じ服装に身を包んだ数人がカラマの元へと駆け寄ってきた。
「そうもいかんだろう。シーアン国の威厳にも関わる話だ」
「こいつらは私達に任せてください。きっちり絞っておきますから!」
「ああ、頼んだぞ、私は彼女たちに用がある」
チンピラの男達はそのままカラマの部下達に連れられていった。そして、カラマはそのまま、私達の元へと近づいてきたのだ。
「お見苦しいところを見せて申し訳ありません。私はシーアン国軍弐番隊副隊長カラマ。リーハイはあまり治安が良くないので、気をつけていただきたい」
先ほどまで放っていた、獲物を狩る狼のような威圧感は、すでに消えていた。目の前にいるカラマは、ワン王と同じく礼儀正しそうな好青年と言った印象だった。
「ありがとうございます。私はレェーヴ連合代表イーナ。それにミズチとルウ、ルカとナーシェとテオです。酔いつぶれている彼の事は気にしないでください」
「イーナ様、早速で申し訳ないですが、王からの言葉を伝えさせて頂きます。明後日の朝、王が是非時間を取って頂きたいとのこと」
おそらく、あのときワン王が言っていた使いの者とはカラマのことであろう。
「わかりました。是非お伺いさせて頂きます」
「ではその旨、王に伝えさせて頂きます。それに、宿までは私がお供いたしましょう。先ほども言ったとおり、特に夜は物騒なことも多いので……」
そのまま宿へと帰った私達。カラマは私達が宿に入るのを見届けてくれていた。
それにしても、カラマのあの凄まじい気合いというか、威圧感は凄まじいものであった。戦っていなくても、彼は強いとわかるほどに。ある意味では、私達よりもよっぽどモンスターである。
そんなこんなで、私達のシーアン滞在一日目は終わっていったのである。
…
……
「カラマよ、どうであった?」
「はい、特段怪しいところはないかと」
「ご苦労だった。引き続き頼む」




