164話 絡まれて絡まれて
「なにこれ!イーナ様!ルカこんな美味しいご飯初めて食べたよ!」
「……これ、滅茶苦茶美味しいです!」
旅と言えば、食事。宿に一度着いた私達は、早速シーアンの首都、リーハイの街へと繰り出していた。スパイスをふんだんに使ったシーアン国の料理は、ものすごく美味しいのである。どちらかというと、私の口に合うような料理というのもあるが、正直、私達の国のあるアーストリア連邦の国々の料理とは一段も二段もレベルが違っていたのだ。
「おっ!お嬢ちゃん達、よくわかってるね!どこから来たんだい?」
あまりに料理のおいしさに興奮する私達に、酒場のマスターだろうか、ニコニコと嬉しそうな顔をしながら近づいてきたのだ。
「アーストリア連邦から、エンディアを通って……シーアンに来た所なんです!」
「旅人さんかあ!それにしてもずいぶんと遠くからきたもんだな!俺も話でしか聞いたことはないけどよ、アーストリアっていやあ、西の端の方じゃねえか!そんな若いのに、大したもんだ!それにお前ら、なかなか良い飲みっぷりだな!どうだ、せっかくだからこっちの自慢の酒も一緒にどうだ!ちょうど良いのが入ってるんだ!」
「良いのかおっさん!」
酒という単語に、反応したのはリンドヴルムである。すっかり顔を真っ赤にしながら、リンドヴルムは手にしていた酒を一気に飲み干した。
「やるねえ!兄ちゃん!」
「おい、俺も混ぜてくれよ!」
リンドヴルムの飲みっぷりをみた、周りの男達も集まってくる。気が付けば、酒場の中は私達を中心に人だかりが出来ていたのだ。
「おい、お前らどこから来たんだ!ここら辺のもんじゃねえよな!」
顔を真っ赤にした男の1人が、リンドヴルムと肩を組みながら大声をあげる。リンドヴルムも負けじと大声を上げながら、男に言葉を返した。
「レェーヴ連合だ!アーストリア地方にある国だ!」
「レェーヴ連合……?きいたことねえな……だが、アーストリアといやあ、この大陸の一番西だろ?お前ら本当にアーストリアから来たのか!?」
「そうだ!」
「人は見かけによらねえもんだな!すっかりいいとこの坊ちゃん嬢ちゃんだと思ってたら……」
そして、2人で息を合わせるかのように、がははと大声で笑う、リンドヴルムとおっさん。
「イーナ様……そろそろ、リンドヴルム様……」
ルウが、私の耳元でこそっと呟く。
「そうだね、そろそろ……」
流石に、これ以上リンドヴルムに飲ませるわけにも行かない。潰れたリンドヴルムの世話はなかなかに手がかかる。
「ごめんねマスター……そろそろ、お勘定を……」
………………………………………
「自分で歩けるら……!」
「うるさい、黙って歩け馬鹿」
結局、ミズチにすっかり酔いつぶれたリンドヴルムを支えてもらいながら、私達は店を後にする事にした。おっさん達に引き留められそうになったが、何とか隙を見て抜けだし、外に出てすぐのことである。すっかり夜も深くなり、暗くなった道に、数人の男が立ちはだかる。
「おい、おまえら待ちな」
よくよく見ると、男達の手には物騒な武器が握られていた。一瞬、白の十字架の可能性も頭にはよぎったが、どう見ても強そうには見えない。おそらくはただのチンピラであろう。冷静に考えれば、ミズチとすっかり酔いつぶれたリンドヴルムがいるとは言え、ルカもルウも一目は非力そうな少女にしか見えないし、ナーシェも大人とは言え、舐められるのも無理はない。それに私もおそらくは、そうであろう。
「なに、私達急いでいるんだけど?」
「なかなか威勢が良いじゃないか!死にたくなかったら、金をだしな。命だけは助けてやろう」
こんないかにもなやつらに絡まれたのなんて久しぶりである。
「イーナ様……やってしまいましょうか?」
ルウは静かな声色で、私の耳元でささやいた。
「やめとこう、他国まで来て騒ぎを起こすのも面倒になるかもしれないし……」
どうやら、私達のやりとりが男達にも聞こえたようで、先頭に立っていた男が怒りを浮かべながら叫んできた。
「おい、女。聞こえてるぞ。誰が誰をやるって?大人しく金だけ出してれば無事に済んだのによ!」
――仕方無い、正当防衛だ……
武器を構えながら、私達の元へ近づいてくる男達に対し、私も反撃をしようとしたその時、突然に聞き覚えのない男の声が響き渡った。
「おい、お前らそこで何をしている?」




