158話 炎と水のコラボレーション
いよいよ本格的な戦闘が始まる…… まさにその時、私の横で口を開いたのはイナンナであった。
「イーナさん、すでに祭壇の周囲には封印術を施しております。結界がある以上、私が解除するか、死ぬまでここからは出られません」
「それって私達も同じって事だよね……?」
「ええ、巻き込んでしまい申し訳ございません。ですが、最悪の時には私の命に替えてでも、麒麟を封印いたしますので……」
よく見ると、麒麟の背後、空の方にはドーム状に膜のようなものが確認できた。おそらくアレが秘術の一つなのだろう。あんな魔法見たことないし。
「問題ないよ。決着をつければいいんでしょ?」
「ええ、その通りです」
「何をごちゃごちゃ話しておる!」
どうやら、イナンナとの会話が麒麟の怒りに触れたようで、再び激しい雷が私達の方へと飛んできた。麒麟の攻撃を防ぐべく、術式を唱えようとした私の前にイナンナが出る。
「水のベール!」
イナンナがそう唱えると、私達の周囲に水の幕が出来たのだ。麒麟が放った電撃は、水の幕に当たると、激しい音を立てながら消滅した。
「イナンナさんも魔法を……?」
‘「ええ、あなた方ほどではありませんが……」
封印術や結界術を使えるのだから、魔法を使えたとて何ら不思議ではない。さすが、ミスラに天才と呼ばせるだけあって、魔法の腕も非常に高い。
「来ますよ!イーナさん!」
「大丈夫!今度は私が!」
イナンナに負けるわけにはいかない。私にだってレェーヴ連合の長としてのプライドがあるのだ。
「炎の術式 紅炎!」
再び無数の炎が、麒麟の放った攻撃に向かって飛んでいく。激しい爆風と共に、白煙が舞い上がる。白煙で視界が遮られてもなお、麒麟の攻撃は止むことは無い。次から次へと繰り出される麒麟の雷を2人がかりで捌いていく。
「イーナ様…… それにイナンナさんもすごい……」
目の前で繰り広げられている魔法と魔法のぶつかり合い。それを見ていたルカやナーシェは、思わずその戦いに釘付けになっていた。炎と水のコラボレーション、そして雷の魔法が飛び交う祭壇は、一種のショーのように激しく、そして美しかったのだ。
「リンドヴルム!ルウ!サポートを頼む!ミズチも!」
麒麟の攻撃を受けているだけでは、埒があかない。特にイナンナは魔法使いとは言え、人間の身である。封印術の影響もあり、マナの消費も激しいのか、額には汗も見える。ここは一気に決めるべきだと私は判断した。
おそらく麒麟が宙に浮いているのも雷魔法の力だろう。ならば、リンドヴルムの魔法をぶつければ、アイルの時のように制御が出来なくなり、地面へと降りてくるはずだ。
問題は、リンドヴルムの魔法をどうやって麒麟へと当てるかという話である。単純にぶつけようとしても、麒麟の力ならおそらく簡単に防がれてしまうであろう。ならば、ここは汚いと言われようが、一気に集中攻撃でたたみかけてしまうのが得策である。
「炎の術式 紅炎!」
「氷雨!」
ルウも加わり、魔法の攻撃が弾幕のように麒麟を襲う。流石に、これだけの数の魔法を捌くのは、いくら麒麟とは言え困難であろう。そして、一瞬の隙、そこをリンドヴルムは見逃さなかった。
「今だよ!」
私が叫ぶよりも前にリンドヴルムは魔法の発動をしていた。そして、私の声とほぼ同時に、リンドヴルムの声が祭壇にこだましたのだ。
「雷光之舞!」
リンドヴルムの放った雷魔法は一直線に麒麟へと向かい、そして直撃した。激しい爆音と共に、麒麟の周囲は白煙に包まれる。だが、麒麟が落ちてきた様子はない。
「見事な攻撃だな……」
白煙の中から、不気味な麒麟の声が響いてくる。どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
「愉しいぞ、こんなに外が愉しいものだとは…… なんて愉快なのだ!のう、九尾よ?」




