16話 長の姿
「来てくれたんだね~~!待ってたよ~~!」
俺達は夜叉族と会うためにフリスディカに来た。フリスディカにつくと、俺達の元に、すぐに、アマツとセンリはやってきたのだ。
「お話は明日~~!場所はここに来てね~~!」
指定された場所は、街の中にある一軒の酒場であった。そういうわけで、昨日は競馬を楽しんでいたのだ。予想しない出会いはあったが……
そして俺達は、今夜叉族との会談に望もうとしている。
目の前に座る、年老いた男。年老いてはいるものの、幾何もの修羅を乗り越えてきたであろう男の肉体は決して衰えてはおらず、その赤く光る鋭い眼光は、鬼という以外何も形容がしがたいものであった。
「九尾よ、よくぞ来てくださった」
男は静かに語り出した。
「私は、夜叉の頭、ミドウだ。九尾と同じように言うならば、温羅と呼ばれている」
「温羅……」
怖そうな名前である。しかし、ミドウの鋭い眼光は次の瞬間一気に豹変した。
「お前のことはアマツから聞いたぞ!まあ、同じ頭同士仲良くしようや!わっはっは!」
……あれ? なんかフレンドリーだぞ……
「あの……何かキャラが違うような……」
「やはり最初はなめられては駄目だからな!緊張したぞ!」
「お父様はこう見えて、おちゃめなんだ~~!」
なんか、拍子抜けである。俺はちょっとリラックスして、ミドウに対し、話を切り出した。
「それで、交渉の件ですけど……」
「うむ!まずは、お前の大切な友人を失わせてしまったこと、夜叉を代表して謝らせて頂きたい。本当に申し訳がなかった!」
そう言うと、ミドウは立ち上がり、床に跪き頭を下げた。流石にルカも驚いているようだ。
「そんな……!」
俺は慌ててミドウを止める。いくら謝ると言っても、頭がこのような真似をしては部下への威厳もへったくれもない。そして、再びミドウはソファに座り直し続けた。
「恥を忍んで、お願い申し上げたい。夜叉と手を組んで欲しい」
「お話は伺いました。妖狐に危害が加わる可能性があるというのなら放ってはおけません」
「感謝申し上げる。それに、もう一つ恥ずかしながら困った事情があってな。九尾には伝えておかなければならない」
そう言うと、ミドウは真剣な顔で続けた。
「実は私の子の一人が、夜叉を抜け出し、人間側に行ってしまったのだ。詳しい足取りは分からないが、おそらく相手方についているであろう」
夜叉はそこまで、追い詰められていたのか……肉親同士争うまでに……
「……子どもと戦えるのですか……?」
「子供が、間違えた道を歩みそうになったときに、叱って止めるのが親の役割だろう。もちろん、血のつながりだけじゃない。ここにいる皆が全て私の子供同然なのだ」
そうか…… 俺が倒した人間、あいつもミドウにとっては大切なこの一人だったのか……
俺はそう思うと、いても立ってもいられなかった。
「ミドウさん、こちらこそ、あなたの大切な部下を1人失わせることになり、申し訳ありませんでした」
俺はミドウがしたように同じく跪き、ミドウに対して頭を下げる。
「気にするな。もうお互い様と言うことで、その件は流そう。お互いのためにも」
ミドウは思っている以上に器が広いようだ。なぜ、このような人が頭にいるのに、夜叉はこんな状況になってしまったのか……
俺の心を見透かしたようにミドウは静かに続けた。
「夜叉は腐っている。お前もそう思っただろう?」
「……」
俺は言葉を返すことが出来なかった。
「よい。私もそう思っていた」
ミドウは続ける。
「古くから我々は人間の裏で暗躍してきた。そして権力も得てきた。しかし、それにあぐらをかいた結果、今はこの有様よ。だからこそ、これからの時代、夜叉としてのあり方を変えなければならない。だが、そんな簡単には変わらないのは知っている。私はどんな汚い手を使い汚名を被ろうとも、次の世代のために動かなければならないのだ。私の子供達が、安心して暮らせる未来を作る為に」
この人は…… 夜叉のために、全ての汚名を被るつもりなのか……
「平和を守るためには、失う者も沢山ある。そして、長く続いた物事を変えるために、失うものも沢山ある。それは私の代で全て負の遺産として私が引き受ける覚悟だ。だからこそ九尾よ。何卒力を貸して欲しい」
そう言われてしまっては、弱い。
すると、ミドウはまた表情を緩め、大声で笑い出した。
「安心しろ!同盟に危害が加わるようなことにはしない!夜叉の……そして温羅の誇りをかけて誓おうじゃないか!」
ミドウは、出来た人間であった。俺なんか決して敵うことはない。そう思ってしまった。
「分かりました。我々も出来る範囲で、夜叉のお力になれるよう善処いたします」
こうして、妖狐、夜叉との間の協定は締結されたのだ。
「なあ、ルカ、サクヤ…… 俺は正しかったんだろうか……?」
帰り道、俺は2人に弱音を吐いてしまった。族長の重み、覚悟。妖狐達のために、俺にそこまで背負う覚悟があるのだろうか。同じ族長として、覚悟が足りないと言うことをまざまざと見せつけられてしまったのである。
「ヤマトのことは許したわけじゃないけど……イーナ様はルカ達のために頑張ってくれてるのは知ってるよ!」
――大丈夫じゃイーナよ!道を間違おうとも、そちには沢山の仲間がいるじゃろ
サクヤがそう言うと、皆力強い顔でこちらを見つめている。
「ニャ!」
「うむ」
「だな」
「イーナ様!自分の思ったままに進んで!ルカはイーナ様のこと信じているから!」
そうだな…… おれは沢山の仲間に恵まれた。きっと……
大丈夫だろう。みんながいてくれる限り。
だからもう迷わない。今の俺は妖狐の頭、九尾なのだ。




